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お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!  作者: 人紀
第一章

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指針決定!

 などと思っていると、男の子――第一王子様が馬鹿にしたように言う。

「そうか、そいつはキュ、キュートリックというのか。

 覚えてやろう」


 な、なんて奴だ!

 可愛いお嬢様の可愛らしい失敗をそんな風にからかうとは。


 王女様が「やめなさいジョセフ」と窘めるも、クソ王子は嫌らしい笑みを浮かべながら、王女様に言う。

「姉上、お嬢様(そいつ)がそういったんじゃないですか?

 だから――」

「失礼、この竜の名前はキュートリックです」

 背後から背筋をぞわりさせる声が聞こえてきた。

 恐る恐る振り返ると、パパさんが笑顔なのにものすごい形相で青筋を浮かべていた。

 イケメンだし、何となくスマートだから細身の印象があるけど、結構大柄だから、威圧感がハンパない。

「キュートリックですよ、殿下」

 さらに念を押すパパさんの圧力に負けたのか、クソ王子は顔をひきつらせながら「あ、ああ……」と漏らすことしかできない。

「あなた、失礼よ!」

などと、ママさんが窘めているが、あえて言おう。


 ざまぁぁぁ!



 挨拶が終わると、お嬢様に抱っこされながら子供達の元に戻った。

 因みに、パパさんはママさんに「王族の方に対して、なんて態度をしているの!?」的な感じのお説教を受けて、しょんぼりしていた。


 パパさん、わたしは助けないよ!

 でも、わたしの中でパパさんの評価は上がったよ!

 だから、元気出して!


 という気持ちを込めて、「がうがう!」言いつつ、尻尾をブンブン振ってあげた。

 でも、お嬢様に「キュー! 大人しくしなさい!」と怒られてしまった。

 今度はわたしがしょんぼりすることとなった。


「お帰りなさい、カトリーヌ様、キュートリック様」

などと言いながら、先ほど仲が良くなった女の子達が迎えてくれる。

 ただ、これから王族への挨拶を行うからか、ほとんどの子が強張った顔をしていた。


 小っちゃい女の子なのに大変だなぁ~


 そこで、テーブルの上のクッションに乗せられたわたしが、挨拶の先駆者として声をかけてあげた。


「ガァアガァア!」

 ……変な声しか出なかった。


 てか、わたしはこんな声しか出なかった。

 ただ、わたしの思いは通じたのか、女の子達は顔を見合わせると、嬉しそうに相好を崩した。

 そして、立ち上がるとお嬢様に断わりを入れてから、代わる代わるわたしの頭をなで始めた。

 う~ん、もっと威厳ある感じで行きたかったのだけど……。

 ま、まあ強張りが収まったのなら何よりだ。


――


 しばらく、お嬢様の膝の上で丸くなっていると、突然、周りの皆が立ち上がった。

 お嬢様もわたしを抱え上げると、立ち上がった。

 それを、女の子の声が「そのまま楽にしてください」と制す。


 現れたのは王女様だった。


 その後ろには第二王子君と先ほどは居なかった男の子が続いていた。

 王女様は視線をお嬢様に向けると、にっこりと微笑んだ。

「クリスタリ侯爵令嬢、少しよろしいかしら?」

「は、はい!

 もちろんです」

 お嬢様は少しドモってしまいながらも、了承する。

 お嬢様の側に座っていた女の子達が、一礼してから離れて行く。

 そんな彼女らに「ごめんなさいね」と王女様は詫びの言葉を投げかけた。

 王女様、確かイザベル様だったか。

 彼女は第二王子君――確かヘンリー様と知らない男の子の他にも、護衛っぽい女騎士さん達を引き連れている。

 イザベル王女様が女騎士さんの手を借りて、優雅に座ると、周りに手で指示を出す。

 お嬢様を初めとして、周りにいる人も席に座った。

 イザベル王女様は微笑みながら、ややキツメの目の――その中にある紺色の瞳でこちらを見る。

「まずは従兄弟を紹介させて。

 彼はアントワーヌ、ロリース公爵家の三男なの」

と王女様が男の子を紹介する。

 アントワーヌ君は黒髪の大人しそうな男の子で、お嬢様に対してオドオドとしながら「よろしくお願いします」と言っている。

 そんな彼に対して、流石はお嬢様、優雅に挨拶を返していた。

 そんな様子を眺めていたイザベル王女様は、本題とばかりにわたしの方に満面の笑みを向けながら両手を伸ばした。

「クリスタリ侯爵令嬢、わたくしにもキュートリック様を抱っこさせて頂戴。

 皆様がそうしているの、とても羨ましく思っていたのよ」

 すると、第二王子君もニコニコしながら「僕も!」と声を上げた。

 イザベル王女様の言葉に、お嬢様が気遣わしげにこちらを見てきた。


 ふむ、モテるドラゴン(仮)は困るわ。


 イザベル王女様やヘンリー王子様は第一王子に比べて優しそうだから、わたしとしても、別に嫌ではない。

 わたしは両前足を伸ばして、イザベル王女様が抱き上げやすいようにする。

 そんな様子がツボに入ったのか、イザベル王女様は「まあ!」と華やいだ声を上げると、わたしを抱き上げた。

 お嬢様とは違い、少し強めのハグだが、頬ずりしながらのそれも温かで気持ちが良かった。


 しばらく、イザベル王女様とお話されたお嬢様は、最初こそ緊張で強ばった表情をされていたけど、徐々に笑みを浮かべるようになった。

 王女様も第二王子君も少しだけ抱きしめた後、すぐにわたしを帰してくれたしね。

 そんなお嬢様の姿に安心しつつ、お嬢様の膝に居るわたしを撫でるイザベル王女様の柔らかな手の感触を感じつつ、少し、考える。


 ひょっとしたら、この会場にあのゲームのヒロインがいるのでは無いか? とだ。


 〝女神様の気まぐれ〟の世界に転生してしまったのは、恐らくは間違いないだろう。


 自分ではやってなかったけど、友達のメガネちゃんがやっているのを何度も見せて貰っていた。

 お嬢様の名前やこの太公邸についてもしょっちゅう話に出てきていたから覚えている。


 そうなると問題は、お嬢様が悪役令嬢となるきっかけが何かだ。


 少なくとも、今のお嬢様は、ゲームで見たカトリーヌ・ラドゥ・クリスタリとは対極に位置する。

 柔らかで優しい、わたしのお嬢様があんなに怖くて意地悪な、言葉通りの悪役令嬢になるなんて、正直信じられない。

 そして、その理由が〝女神様の気まぐれ〟のヒロインと出会った事が原因だったとすると……。

 何とかして、会わないようにしなくてはならない。


 わたしはヒロインに思い入れなど無い。


 プレーしていなかったのだし、当然だ。

 どころか、どんな女の子かも覚えていないぐらいだ。

 名前がもし、友達のメガネちゃんと同じ物が付けられていたら、ある程度、感情移入ができたかもしれないけど……。

 確か、メガネちゃんの飼い猫と同じ名前が付けられていたはずだ。

 思いを寄せようが無いのである。

 なので、わたしとしてのスタンスは決まっている。


 わたしのお嬢様の幸せ、第一にだ!


 なので、仮にヒロインが近寄ってきても、追っ払う!

 我が白き尻尾の餌食にしてやるのだ!


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