王族が入場してきた!
すると、お嬢様がわたしをぎゅっと抱きしめてくれた。
「お父様!
キューは竜じゃなくても、凄い子なんです!
本当に、凄い子なんです!」
お嬢様……凄く好き!
わたしはお嬢様にぎゅぅ~っとされながら、お嬢様の愛を体いっぱいに感じていると、竜博士アダンさんがフォローを入れてくれた。
「お嬢様のおっしゃるとおりです。
確かにこの子は竜ではないにしても、羽があって飛べる白竜モドキは非常に希少な存在です。
それに、現在の学会の中での位置づけは、確かに竜ではありません。
ただ、今後違う解釈が主流になり、この子も新種の竜とされる可能性も捨て切れませんので」
なるほど、つまりわたしは竜族(仮)といってもけして間違っていないと言うことか。
う~ん……かといって、複雑な気持ちは抑えられないなぁ。
なんて考えてしまった。
パパさん達、男性陣がなにやら話し込んでいる間、わたしやお嬢様はご婦人、ご令嬢、そして、お子さま達に囲まれていた。
そのほとんどが好意的で、先ほど怖々としていた人たちも、何やらニコニコとしながら近寄ってきた。
始め、何故かと困惑していたが、徐々にその理由が分かってきた。
要するに、わたしがドラゴンでないと知って安心したのだ。
そうすると、何やら可愛らしくモフモフしたトカゲ? に興味津々になり、近づいてきたという事らしい。
特に幼い子供達は、わたしにメロメロの様で、何人もの子が『撫でさせてください!』とお嬢様に懇願しに来た。
まあ、わたし、可愛らしくも威厳あるドラゴン(仮)だから仕方がないよね!
お嬢様はわたしの様子を伺いつつ、要望のあった子にわたしの頭を撫でさせている。
そこまで気を使う必要は無いのだけど、その心遣いには感謝と共にほっこりとするね。
突然、BGMの用に流れていた楽団の曲がフェイドアウトしていき、代わりに朗々とした声が響いた。
「ジョセフ第一王子殿下、ヘンリー第二王子殿下、イザベル第一王女殿下、ご入場されます」
突然、周りにいる皆がその場で膝を付き、頭を垂れた。
お嬢様もわたしを地面に優しく置くと、優雅に礼をする。
頭を上げているのは状況に付いていけず、キョロキョロと辺りを見渡すわたしだけのようだった。
え、え、何これ?
わたしは怖くなり、取りあえずお嬢様の後ろに逃げ込むと、小さくなった。
トランペット? とにかく管楽器の音が響く。
そして、幾人もの人が歩く音が聞こえてきた。
おそらく、王子様らが入ってきたのだろう。
わたしは無礼討ちとかになりたくなかったので、さらに身を縮ませた。
しばらくすると「皆様、頭を上げてください」という女の子の声が聞こえてきた。
全員が同時に頭を上げ、立ち上がる。
もう、バッ! とかいう擬音が付きそうに同時だったので、わたしは驚きでビクっっと震えてしまった。
女の子の声がさらに続く。
「ご談笑中、失礼しました。
皆様、我らには気にせず続けてください」
BGMと共に、人々が上げるざわめきが戻ってくる。
わたしが怖がっていたのに気づいていたのか、お嬢様は振り向くと、「キュー、大丈夫よ」とわたしを持ち上げ、撫でてくれた。
わたしはまだドキドキしていたので、お嬢様にぎゅっと抱きついた。
もう、こういうことは事前に言っておいてほしい!
パパさんは、本当に駄目なパパさんだ!
などと心の中で悪態を付くと、当人が少し急ぎ足でこちらに向かってきた。
「カティ、殿下達にご挨拶をしに行くぞ。
キュートリック、お前もだ」
といいつつ、わたしの方に手を伸ばしてきた。
なので、体をくるっと横反転し、しっぽでその手をペシリとしてやった。
「痛!
何するんだ!」
とパパさんが手を押さえて小さく怒鳴ったが、こっちだって怒っているのだ!
わたしをモドキと見下ろして来た事、そう簡単に忘れると思って貰っては困る。
わたしはお嬢様からちょこんと降りると、映画の怪獣の様に手(前足)を胸元に持ってきて、「がぁ! がぁ!」と威嚇した。
そんなわたしの剣幕に、パパさんは困惑するように眉をハの字にした。
「なんだ?
なんで、キュートリックは怒っているんだ?」
すると、お嬢様が立ち上がると、わたしの後ろで仁王立ちになり、両手をそれぞれの腰に置いた。
「お父様!
キューはお父様にモドキと言われて傷ついているのです!
まずは謝ってください!」
お嬢様……流石お嬢様!
わたしの気持ちをきちんと汲み取ってくださる!
わたしが感動しながらお嬢様を見上げていると、カツカツというハイヒールの音が聞こえてきた。
そして、突然わたしは持ち上げられる。
「がぁ!?」
見上げると、ママさんのキツメの顔があった。
「あなた達、何をやっているの!
ほら、行くわよ!」
と言うと、わたしをその豊満な胸で抱きしめると、ママさんはずかずかとどこかに進んでいく。
「お、おい!
待ってくれ!」
という、パパさんの何とも情けない声が聞こえてくるが、進む速度は変わらなかった。
「イザベル第一王女殿下、ジョセフ第一王子殿下、ヘンリー第二王子殿下、ご健勝のこととお喜び申し上げます。
また――」
などと、パパさんが長々と挨拶をし始めた。
その後ろにママさんやお嬢様がひざまずいている。
わたしは無礼討ちとかされたくないので、お嬢様の後ろに逃げ込み、小さくなった。
王族とかおっかないもんね。
にもかかわらず、突然持ち上げられると、前に連れて行かれた。
「ガァアガァア!」
と嫌がるも、どうやら犯人は(わたしの中で)空気が読めぬで定評のあるパパさんだったようで、わたしの脇に手を差し込み、がっちりと固定しやがった。
(このっ!
このっ!)
としっぽで顔面を叩いてやろうとするも、「こら! おとなしくしろ!」と腕を前に出し、それを避けた。
くそぉ~パパさんの癖に!
そんなことをやっている間に、王族だろう二人の男の子と女の子の前に連れてこられた。
一人はお嬢様が嫌そうにされていた例の男の子だった。
イケメンだが、相変わらず性格が悪そうな顔をしていて、わたしに一瞥をするとつまらなそうに鼻を鳴らした。
もう一人の男の子は、第二王子君? 性格が悪い王子より幼そうだ。
人付きの良さそうな笑顔が凄く可愛い。
そして、女の子――王女様はお嬢様や王子達よりいくぶんお姉さんのようで、わたしの方を興味深げに見て来た。
「まあ、可愛い竜ちゃんね。
何という名前なのかしら?」
と王女はパパさんではなく、その後ろにいるお嬢様に訊ねた。
「キュ、キュートリックでございます、殿下」
わたしからは見えないが、お嬢様の上擦った声が聞こえる。
お嬢様も緊張されているようだ。
お可哀想に……。




