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お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!  作者: 人紀
第一章

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転生したらドラゴン――じゃなかった!?

「がぁ!」


 老齢の執事さんの前に立つと、両手を広げた。

 そんなわたしに「おや?」と目を丸くした執事さんだったけど、にっこりと微笑むと「では失礼して」と言いつつ抱き上げた。

 優しく、それでいてしっかりと安定感がある。


 ふむ、この執事さん、なかなかのハグ使いと見た。


 などと思っていると、アネットさんが後ろから心配そうに声をかけてきた。

「キュートリック、いい子にしてるのよ!」

 アネットさんはわたしをなんだと思っているの!?



「キュートリック殿をお連れしました」

 老齢の執事さんの声に庭園にいる二百人ほどの視線がぎゅっと集まってきた。

 皆さん、高き身分の方々のようで、豪奢な衣装に身を包んでいて、値踏みするようにわたしを見ている。

 ここまで大がかりなものだと知らず、また、こんなにジロジロと見られるとは思ってもなかったので、なんだか怖くなり、老齢の執事さんの胸にしがみついてしまった。

 そんなわたしを励ますためか、老齢の執事さんはわたしの背を撫でてくれる。

 そこに、パパさんが近づいてきて、わたしを執事さんから受け取った。

 わたしを抱っこしたパパさんは、一つのテーブルに向かう。


 そこには、お嬢様とママさんのほかに、夫婦らしき男女が座っていた。


 パパさんがわたしを夫婦に見えるようにしながら、自慢げに言う。

「大公殿、こちらが我が家の竜、キュートリックです。

 なかなか勇ましそうな顔をしているでしょう?」

 勇ましい?

 わたしはキュートが売りのキュートリックさんですよ?

 というか、この人が大公様?

 大公様って何となくお爺ちゃんとかかと思ったけど、二十代半ばぐらいの爽やか系のお兄さんだった。

 爽やか大公様はわたしを興味深げに眺めながら応える。

「侯爵の仰るとおり、なかなかよい面構えですね。

 大きくなったら、立派な竜になりそうだ」

 それに対して、大公様の隣に座る十代後半ぐらいの奥さんらしき、お姉さんが言う。

「あら、勇ましいというより可愛らしくないかしら?」

 その通り!

 わたしは可愛らしいドラゴンなのだよ!

 などと思いつつ、別テーブルからの視線もあって、どうにも落ち着かず、パパさんの胸の中でモゾモゾする。

 その視線、単純に好奇だったりなら、ここまで気にならなかっただろう。


 だけど、これは……。

 怖々した、警戒したものもあったのだ。


 前にいるお姉さんは気にしていないようだけど、他のご婦人やお子さん達からは得体の知れないものを見るような視線が混じっていた。

 やはり、ドラゴンは恐ろしいと感じるのだろう。

 そんな感情が伝染するように、わたしの心まで不安にさせる。

 それに、前世ではあんまり良い注目のされ方をしたことがなかった。


 だから正直、心がざわついてしまう。


 そんな様子に気づいたのか、爽やか大公様が気遣うように言う。

「おや、竜君は、余り人に注目されるのは苦手なようですね。

 申し訳ないことをした」

 この大公様はなかなか優しいお兄さんのようだ。

 などと感心していると、パパさんがハハハと笑う。

「屋敷では我が物顔でやりたい放題のくせに、柄にもなく緊張しているみたいですな。

 普段から、これぐらい可愛げがあれば良いのですが」


 な、なに!?

 誰が我が物顔だ!?


 わたしは可愛いドラゴンとして当然のように可愛がって貰ってるだけだというのに!

 ムッとしたわたしは、尻尾でパパさんの手を叩くと、そこから抜け出る。

 そして、地面に着地すると「痛いじゃないか!」などと怒っているパパさんを無視して、お嬢様の所に駆ける。

「キュー!」

とお嬢様は嬉しそうに手を広げ、わたしを拾い上げ、膝の上に乗せてくれた。


 ふむ、やはりわたしはここじゃないと、ね。


 わたしは丸くなると、お嬢様が優しく撫でてくれた。

 幸せぇ~などと思っていると、知らないおじさんの声が聞こえてきた。

「侯爵閣下、いかがでしょう?

 そちらの竜殿、アダン男爵に見ていただいては」

「ああ、竜博士か。

 そうだな……君、呼んできてくれないか?」

「畏まりました」

とおじさんとは別の――たぶん使用人の男性の声が聞こえた。


 竜博士……。


 何だろう……。

 妙に胸がざわつく……。

 そうだ、思い出した!

 そう、あれは小学生ぐらいの頃だ。

 名前は忘れちゃったけど、同級生に昆虫博士を自称する男子がいたんだ。

 彼が嬉しそうにこちらに近づいてくる場合は、最大級の警戒が必要だった。

 そういう時、彼は決まって手に昆虫を持っているからだ。

 カブトムシやらクワガタやらカマキリやらを、無邪気な笑顔で向けてくるのだ。


 ぎゃぁぁぁ!


 カブトムシの腹を向けられ、六本の足がグニャグニャ動かす様を目の前で見させられたのを思いだしてしまった!

 気持ち悪ぅぅぅい!

「どうしたの、キュー?」

 わたしが脳裏にいる昆虫を追い払おうとごそごそと動いているのを見て、お嬢様が心配そうに撫でてくれた。



 ……やってきたのは、丸メガネをかけた優しそうなお兄さんだった。

 竜博士――アダンさんは丁寧にわたしにも挨拶をしてくれて、優しく抱き上げてくれた。

 ふむ、流石は竜博士(?)、なかなかのハグ使いであった。

 イケメン、ってほどでは無いけど、こういうお兄さんも結構好きだ。

 だからわたしは、すっかり油断していた。


 このお兄さん、超弩級(ちょうどきゅう)の爆弾を投下してきた。


「え……。

 竜では――無い?」

 パパさんはぽかんとした顔で言った。

 いや、わたしも同じような顔をしていただろう。


 へ?

 わたしって、誇り高き竜族ではない……の?


 それに対して、アダンさんは申し訳なさそうな顔で「はい」と肯定した。

「少なくとも、現在の学会で定義されている竜には該当していません。

 未確認の種でありますが、あえて分類すれば〝トカゲ〟になるでしょう」

 ガァァァン!

 転生したらドラゴンだった――じゃなく、転生したらトカゲだった……だったの?

 むちゃくちゃショックなんですけどぉぉぉ!

 竜博士アダンさんがおっしゃるには、ここから北西にある島に、白竜モドキというトカゲがいるそうで、恐らくはその亜種である――とのことだった。

「竜とは強大な魔力を内包した存在で、体もそれを押さえつける為に、卵の頃から少なくとも全長4メートルほどにはなるのです。

 それでも、押さえ込むことを失敗して、時には魔力爆発を起こすとまで言われています。

 現在の学会ではそれほどの魔力量を保持した巨大な蜥蜴(トカゲ)型の生き物を竜類と定義するのです。

 なので、こちらのキュートリック殿は大変申し訳ありませんが、我々の中では蜥蜴(トカゲ)とさせて頂くことになります」

 ガァガァァン!

 わたし、白竜モドキとかいうまがい物だったのぉぉぉ!?

 パパさんもショックを受けた顔でわたしを見下ろし、「モドキ……」とか呟いている。


 酷い!



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