〝女神様の気まぐれ〟?
乙女ゲーム、〝女神様の気まぐれ〟は中高生向けのスマホゲームだ。
学生向けを謳っている事もあり、課金要素が薄く、代わりに所々にあるコマーシャルで収益を確保しているゲームだった。
無課金でも楽しめるにもかかわらず、グラフィックが美しく、そして、各キャラに人気声優を付けるなどかなり力を入れていた。
そんなゲームをわたしは……実際にはやっていない。
そうだ、わたしには友達がいたんだ。
名前は――思い出せないけど、凄く仲が良かった気がする。
そう、いつも眼鏡をかけている女の子なので、なんだかWeb小説に良く登場する博学な親友キャラみたいだったから、時々、メガネちゃんといって、からかってた気がする。
そんな友達がこのゲームをやっているのを、見せて貰ったことがあったんだ。
このゲームは、ある邸宅でのお茶会から始まる。
非常に地位の高い貴族のお屋敷に、下位貴族の娘である主人公の女の子――名前はそれぞれが入力するので不明――が招かれるのだ。
主人公の女の子は何故、自分のような娘がこのような場所に呼ばれたのか分からず困惑する。
それは、周囲も同じだったらしく、特に同じ年頃の令嬢から、場違いだと突き飛ばされてしまう。
床に倒れ込んでしまう主人公、そんな彼女に手を差し伸べた男の子がいた。
『大丈夫?』
主人公はそんな彼に恋をしてしまうのだ。
でも、主人公は底辺貴族の令嬢、男の子は誰か分からないが大貴族以上の子息なのは明らか。
もうこの先、二人が交わることなど無いはずだった。
だから、主人公は祈るのだ。
『愛の女神様の気まぐれが起きますように』
その祈りが通じたのか、数年後、二人は出会うこととなる。
王立学院という学び舎で……。
いや、主人公とかはこの際どうでも良いのだ。
わたしには全く関係ない。
誰と結ばれようと、知ったこっちゃ無い。
問題はお嬢様なのだ……。
そのゲームにはカトリーヌ・ラドゥ・クリスタリという人物も登場する。
その少女こそお嬢様であり、その役回りは――悪役令嬢なのだ。
お嬢様は自分の婚約者が主人公になびこうとすると、日増しに主人公への当たりを強くした。
そして、最後には婚約破棄をされ、北方にある修道院に送られる事となる。
「がぁがぁがぁ!(なぜだ!)」
「ひゃ!?
何!?
驚くでしょう、キュートリック!」
思わず声が出てしまったわたしの頭を、アネットさんがぺしんと叩いた。
因みに、今いる場所は使用人の控え室として使われている大部屋で、わたしは普段眠るために使用している駕籠の中に入れられている。
その駕籠自体はテーブルの上に置かれ、それを取り囲むようにアネットさんにアランさんを初めとする二十人の護衛騎士さんが椅子に座ってくつろいでいた。
部屋はお嬢様の家用という訳ではないらしく、おそらく他家の使用人の皆さんもそれぞれの位置で固まりのんびりとしていた。
時々、わたしの愛らしさに惹かれてか、ちらちらと視線を向けてくるものの、何かを言ってくる様子はない。
お嬢様の家の身分が高いからなのだろう、まあ、そんなことはどうでも良いけど。
それよりも問題はお嬢様のことである。
元々、わたしはゲームになど興味はなかった。
とにかく、貧乏中学生だったわたしにとって、ゲームはお金がかかるものという意識が強く、いくら課金なしで楽しめると言われても、手を出すことなど無かった。
むしろ、『そんな言葉に騙されるか!』なんて、忌避してたぐらいだ。
それよりも、確実に無料で読めるWEB小説を楽しむことに熱中していたのである。
そんなわたしが何故、〝女神様の気まぐれ〟と出会ったかというと、それもWeb小説投稿サイトが原因であった。
人気ワード、〝悪役令嬢〟
正直、乙女ゲームというものがよく分かっていなかったけど、堕落しきった主人公や王子を含む取り巻きが、〝ざまぁ〟されているのを見て、すかっとした。
そして、責任から逃げず、愚直に頑張っていた悪役令嬢様がハッピーエンドを迎えるのを見て、凄く嬉しくなったものだ。
もちろん、悪役令嬢ものも色んな物があるけど、わたしは主に、そういう作品を探して読んだ。
読みまくった。
そして、興味を持った。
乙女ゲームというものに。
そのことを、メガネちゃん(仮名)にそのことを話したら、このように返ってきたのだ。
『だったら、女神様の気まぐれかな。
悪役令嬢、カトリーヌもいかに持って感じだし』
初めて見せて貰ったゲームの中のお嬢様は――はっきり言って怖かった。
気むずかしく冷たく、我が儘で、気にくわないことがあるとヒステリックに喚く、そんな女の子だった。
わたしの中の一生懸命だけど、素直になれないから損をする、そんな悪役令嬢とは違う、本物の悪役がそこにはいた。
その事をメガネちゃんに吐露すると、少し困った顔で言った。
『でも、カトリーヌも可哀想なのよ。
だって――』
だって……なんだっけ?
あぁ~もぉ~
わたしは駕籠の中でごろごろした。
なんだろう、多少思い出したのだけれど、細かい所が思い出せない。
なんか凄く肝心なことを思い出せないでいる気がしてならないんだけどぉぉぉ!
そもそも、ゲームの中の悪役令嬢カトリーヌとわたしの愛らしいお嬢様がまるで結びつかない。
確かに……。
今のお嬢様を大人にしたら、あのグラフィックのご令嬢になる――気もするけど……。
でもでも、わたしのお嬢様は優しく、気も使える、我慢だって出来る素敵なお嬢様なのだ。
あんな、ちょっとしたことでギャーギャー! と喚く我が儘令嬢になるとは到底想像もつかない。
やっぱり、乙女ゲームの世界とかが勘違いなのではないだろうか?
しかし……。
う~ん……。
などと悩んでいると、なにやら執事さんらしき人がわたし達に近づいてきた。
お嬢様の執事、オントワンさんよりもさらに老齢な方で、話しかけられたとたん、アネットさん達は立ち上がった。
偉いお家の執事さんなのかな?
などと思いながら、アネットさんを見上げると、巨乳メイドさんは緊張気味に挨拶をしている。
老齢の執事さんがチラリとわたしを見た後、話をする。
「おくつろぎの所、申し訳ありません。
キュートリック殿を見たいという方が沢山いらっしゃいまして、クリスタリ公爵閣下からも許可を得ましたのでお迎えに参りました」
ん?
どうやらわたしが呼ばれているのね。
ふむふむ、やれやれ。
わたしは、むくりと起きあがった。
偉大なる竜族であるわたしはモテモテだからなぁ。
ここの家は雰囲気的に、お嬢様の家よりも偉いみたいだし、多少は気を使ってあげましょうか?




