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お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!  作者: 人紀
第一章

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15/22

見たことのある建物?

 夕食の時間になり、一家が揃って席に着いた。

 お嬢様に、パパさん、ママさん、マーカスお坊ちゃま、そして、わたしだ。

 わたしはお嬢様の隣の席で、スパゲティっぽいものを食べている。

 テーブルの上に座った状態で、わたし専用の小さなフォークを前足で持ち、一生懸命食べる。

 時々、ソースが飛び散りそうで、なかなか難しい。

 側にいるアネットさんも不安なのか、心配そうに見てくる。

 だけど、誇り高き竜なわたしは、食べさせて貰うようなことはしない!

 何とか、巻き取ったスパゲティっぽいものをパクリと食べる。


 うむ、貝とかお魚とかの混ざり合ったソースとつるんとしたパスタ、美味しい!


 などと、なんちゃってグルメ評論家みたいなことを考えていると、目を丸くしたマーカスお坊ちゃまが言う。

「凄いね、この子。

 ちゃんと一人で食べられるんだ」

「そうなんです!

 キューは凄いんです!」

 お嬢様も嬉しそうに言ってくださる。


 そうでしょう、そうでしょう!

 わたしは凄い竜なのだ!

 わたしがドヤってした顔をマーカスお坊ちゃまに向けると、パパさんが余計なことを言う。


「マーカス、調子に乗るから褒めるのもほどほどにな」


 いやいや、もっと褒めて良いんだけど!?


 わたしが睨んでも、気にする様子も見せずパパさんはマーカスお坊ちゃまに訊ねる。

「どうだ、マーカス。

 明日、太公邸で茶話会があるんだが、お前も行けそうか?

 王女殿下や王子殿下もお見えになるらしいんだが」

 それに対して、マーカスお坊ちゃまは申し訳なさそうに眉を寄せた。

「申し訳ありません、父上。

 明日は鷹狩りの警備について話が有るとのことで、王城に呼ばれています」

「そうか、それなら仕方がないな」

 苦笑するパパさんにママさんは不満そうに眉を寄せる。

「ねえ!

 やっぱり、マーカスさんがそのような下積みみたいな事、する必要はないと思うんだけど」

 パパさんは取りなすように言う。

「まあまあ、ジェニー。

 マーカスが決めたことだ。

 それに、今後、人を従える上で良い経験になると、わたしも思う」

「そうは言うけど……。

 危険じゃないかしら」

 それでも言いつのろうとするママさんに、少し困った顔のマーカスお坊ちゃまが言う。

「大丈夫です。

 わたしはこれでも、騎士科の同学年の中では1番の成績を取ってます。

 会場となる森に出る程度の魔獣ぐらいなら一人でも対処できます」

 そう言いつつ、マーカスお坊ちゃまは不安そうに自分を見るお嬢様にも微笑み「大丈夫だから」と言う。

 パパさんも「剣技だけでなく、マーカスの魔術もなかなかのものだから大丈夫だ」と頷いて見せたので、ママさんも何とか納得したようだ。

 お嬢様が心配そうに眉を寄せながら「お兄様、気をつけて」と言うと、マーカスお坊ちゃまはニッコリしながら「もちろんだ」と大きく頷いて見せた。



 翌日、朝ご飯を食べた後、マーカスお坊ちゃまは早々に屋敷を出た。

 お嬢様やママさんとお見送りをすると、皆に挨拶をした後、わたしの頭も撫でてくれて「またね」と言ってくれた。

 マーカスお坊ちゃまも凄く優しい。

 その後、お嬢様は自室に戻りお出かけする準備をし始めた。

 準備というか、アネットさんを初めとするメイドさんにお化粧やらお着替えやらをして貰っているだけなのだけど。

 それでも、幼いお嬢様には負担のようで、出かけられる頃にはぐったりとした顔をされていた。


 お可哀想にお嬢様!

 愛玩系ドラゴンと戯れて、少しでも気を晴らして下さい!


 そんな気持ちで、ちょこちょことそばに寄ったけど、その手前でアネットさんに捕まってしまった。

「お化粧をされているので、くっついては駄目よ」

 などといいつつ、例のでっかいのにわたしを埋める。


 だから、それは苦しいってば!


「がぁ!

 がぁ!」

と非難の声を挙げつつ、何とか抜け出すと、イケメン騎士であるアランさんの元に避難した。

「ちょっと!

 何故よ!」

 などと、アネットさんはブーブー言っているけど、知らない。

 軽く羽ばたくと、アランさんの肩にちょこんと止まった。

「こら、キュートリック!

 屋内で翼を使ったら駄目だろう!」

とたしなめられたけど知らない。

 アランさんのイケメンフェイスに頬ずりした。

「キュー……」

 ん?

 声がした方を見下ろすと、お嬢様が寂しそうな顔で見上げている。

 おっと、お嬢様の事をすっかり忘れていた。

 ぴょんと下に降りると、再度お嬢様に向かって駆ける――が、またしてもアネットさんに捕獲された。


 またあんたか!


「がぁ!」

 わたしが非難めいた声を上げると、「だからお化粧をされてるから駄目だって言ってるでしょう!」と怒られた。

 そして、そのままお嬢様の前に差し出される。

 お嬢様はいつものようにハグをせず、わたしの頭を撫でるだけであった。

 でも、それでも気持ちいい。

「がぅ~」

 思わず声を上げると、お嬢様がクスクスと笑っている。

 おや、少しは気が晴れたみたいだ。

 良かった!


――


 お嬢様がお出かけの間はお留守番――かと思いきや、なにやらわたしも連れて行かれるようだった。

 というより、お嬢様が一緒に行くと我が儘をおっしゃったのだ。

 それを聞いたママさんは眉を怒らせたんだけど、パパさんの説得もあり、しぶしぶ了承していた。


 のだが……。


 馬車の中、わたしの背中をほっそりとした指が何度も言ったり来たりしている。

「なかなか良い毛並みね、あなた。

 癖になりそぉう。

 ふふふ」

 先ほどからママさんが、自分の膝の上に乗せたわたしの、ドラゴンファーに夢中である。

 その隣に座るお嬢様が凄く不満そう(でも可愛い)にされているのもお構いなしにである。

 ママさんもなかなかの撫でテクニックの持ち主なれど、お嬢様がムゥ~っと頬を膨らましているので、素直に堪能することは出来ない。

 かといって、お嬢様の元に向かおうにも、ママさんにがっちり掴まれている現状、移動も出来ない。

 非常に困った。

 そこに、正面の席に座ったパパさんが苦笑しながら言う。

「ジェニー、そろそろキュートリックをカティに返して上げてくれないか?

 可哀想だろう?」

「えぇ~……。

 仕方がないわね」

 などと言いつつ、ママさんはわたしを持ち上げると、お嬢様に渡した。

 お嬢様はわたしを受け取ると、膝に置き、これまでの分を取り戻すように、撫で回す。


 いつもとは違って、やや乱暴だけど……それも、良い。


 なんて、堪能していると、パパさんが困ったように告げる。

「カティ、そろそろ大公様のお屋敷に着くからな。

 準備なさい」

 うわぁ~結局、馬車での大半をママさんに、可愛らしいわたし(ドラゴン)を持って行かれていた事になるなぁ。

 お嬢様の表情が凄く強ばっている。

 でも、言葉に出来ないようで、小さくただ「……はい」と答えた。

 お嬢様可哀想……。

 ママさん、悪い人ではないと思うけど、少々酷い人だなぁ。


 お嬢様はわたしをパパさんの横に置くと、ママさん同様、身支度をし始めた。

 わたしはする事がないので、パパさんの膝に乗ると、窓から外の景色を眺める。

 馬車は木々に挟まれた道を進んでいた。

 田舎道――という訳ではなく、舗装がしっかりとされた所のようで、余り揺れない。

 それに、等間隔に騎士さんらしき人が配置されているようだ。


 あれ?


 今、塀らしき物が木々の間に見えた。

 ひょっとしたら、もう敷地内に入っていたのかな?

 などと考えていると、パパさんが声を上げた。

「カティ、大公邸が見えたぞ」

 パパさんが指す方向を見ると、馬鹿でかい屋敷が見えた。

 お嬢様のお屋敷より大きいんじゃないかな?

 もっとも、お嬢様のお屋敷は歴史を感じる建物だけど、あちらは新しいのか白壁が太陽に照らされてキラキラ輝いていた。

 大公さんって、お嬢様のお家より上位なのかな?

 その辺りはよく分からないけど、とにかく偉い人だということは分かった。


 ……あれ?


 何だろうこの既視感は……。

 わたしあの建物、見たことがある……気がする。

 いやいやいや、日本の貧乏中学生であるわたしがこんな超西洋系豪奢な邸宅を見たことがあるなんて、あり得ないでしょう。

 であれば、写真か何か……かな?


『このオープニングテーマ曲、もう聞くだけでわくわくするの!』


 え?


 脳裏によぎった女の子の声、誰だっけ? 分からない。

 何だろう、何だろう、何だろう!

 出てきそうで出てこない、この感覚……。

「お父様、キューはどうするのですか?」

 お嬢様がパパさんに訊ねる。

「ああ、アネットがすぐに来るから大丈夫。

 キュートリック、ここで待っててくれ」

 パパさんがわたしの背中を撫でる。

 ママさんが少しきつめに言う。

「カティ、まずは大公様、そのあといらっしゃればイザベル殿下を初めとする王族の方々にご挨拶をするのよ」

「……はい」

「分かっているわね、カトリーヌ。

 子供だろうがなんだろうが、あなたの行いが全て、侯爵家に返ってくるのよ!

 あなたは――」

 そして、ママさんはお嬢様のフルネームを言った。

「カトリーヌ・ラドゥ・クリスタリなのだから!」


 カ、カトリーヌ・ラドゥ・クリスタリ!?


 わたしは頭をぶん殴られたような衝撃を受けた。

 わたしは勘違いをしていた。

 ここはドラゴン転生物の世界だと――勘違いをしていた。

 違う!

 違う違う違う!

 ここは、そう――乙女ゲームの世界だった!


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