お嬢様のお兄様に会う!
「キュー!?
どうしたの!?
キュー!」
慌てて追いかけてくるけど、特にお嬢様には見られたくない!
わたしはベッドの奥に入り込むと、丸くなった。
やだ!
もう、角が生えてくるまで出ない!
絶対だ!
「お嬢様、恐らく角がない姿を見られるのが嫌なのでしょう。
しばらく、そっとしてあげてください」
とオントワンさんが言ってくれる。
そうそう、その通りですお嬢様!
「えええぇ!?
大丈夫なのに……」
それに対して、アネットさんの声が聞こえてくる。
「あれは駄目ですよ、お嬢様。
あんなに丸くなって……。
もう、絶対に出ないって強い意志が見えます」
「キュー……」
「まあ、今日の所はそっとして置いてあげましょう。
ささ、お嬢様、そろそろお夕食の時間ですよ」
「……キューは?」
「食事は、後でこちらに運んでおきますので、勝手に食べるでしょう。
今は構わないであげましょう」
「うん……」
そこで、オントワンさんが少し言いにくそうにお嬢様に声をかける。
「お嬢様……。
先ほどの奥様は……。
奥様はただ、お嬢様の為を思っての事なのです」
「……」
お嬢様の声は聞こえなかった。
ただ、部屋を出る前にわたしに、「キュー、行ってくるわね」と声をかけてくれるだけだった。
――
「キュートリック!
朝よ!
もう起きなさい!」
というアネットさんの声で目が覚めた。
?
いつもは撫でながら言ってくれるのに、なにやら遠い。
というか、朝の割には薄暗い。
なんだろう?
首を持ち上げると、何かにつっかえた。
???
あ、お嬢様のベッドの中に隠れたんだった。
少し先にアネットさんが、こちらをのぞき込んでいた。
「あなた……角はもう生えてきてるわよ!」という声に、わたしは慌てて手(前足)で探ってみる。
あ、生えてた。
急いでベッドの下から這い出ると、姿見の前に立つ。
まだ、以前の半分ほどであったけど、白く尖った角が頭から伸びていた。
「キュー!」と上から声がかかると、体が持ち上げられた。
お嬢様だ。
お嬢様の甘くて柔らかいハグがわたしの体を包み込む。
「良かったね、キュー!
角が生えて良かったね!」
「がぁ♪」
わたしも嬉しくなって、お嬢様に頬ずりをする。
本当はもう少し角が伸びるのを待ちたかったけど、お嬢様を余り不安にさせるのも良くない。
とりあえずは、これで行こうと思った。
――
王都に着いた翌日、朝ご飯を食べた後、お嬢様はお勉強の用意をされている。
そうなると、お嬢様に愛されるお仕事のわたしはお役御免となる。
なので、来たばかりのお屋敷を探検することにした。
よく分からないけど、品の良い調度品を眺めつつ、のんびりと歩く。
お屋敷は私室、寝室は三階にある。
子供が遊ぶための部屋もあり、積み木とか木馬とかも置かれていた。
ただ、お嬢様はさほど興味がないようで、お嬢様のお部屋でご本を読まれていた。
二階には食堂、居間、応接間もある。
来客用の部屋なのか、寝室も何個か有るようだった。
一階は基本、使用人さん達が働く場所で、厨房やら物置とか、あと、使用人の皆さんの部屋もあるようだった。
因みに、使用人の皆様はパパさん一家が到着したばかりだからか、忙しそうにしている。
時折、こちらをチラチラ見てくるのは、気楽なドラゴン生活に対しての羨望が混じっているのかもしれない。
ふっふっふ、ドラゴン特権、良いだろう!
などと考えつつ歩いていると、玄関の方が騒がしくなる。
なんだろうと、そちらに歩くと、少年ぐらいの年齢の男の子が執事のオントワンさんと話をしていた。
十代前半ぐらいかな?
お嬢様より薄い金髪を長く伸ばし、後ろで縛っている。
白い肌に整った顔、薄く黒い瞳を持つ目は少し垂れ目で、どことなく優しそうな印象を与える。
そんな少年が、わたしを見つけると嬉しそうに微笑んだ。
「そちらの子が、カティの竜君なの?」
オントワンさんもこちらを見て表情を緩める。
「その通りです、お坊ちゃま。
キュートリックといって、なかなか賢い子ですよ」
「そうなんだ」
と言いつつ、マーカスお坊ちゃまは目線を合わせるように片膝を突き、微笑んだ。
「こんにちはキュートリック。
僕はカティの兄、マーカスだよ」
なかなか、礼儀正しいお兄ちゃんだ。
わたしも、誇り高き竜なので、丁寧に、「がっ!」と返事をする。
……まあ、がっ! になってしまうのは仕方がない。
ちょこちょこと、マーカスお坊ちゃまの元に近づくと、両前足を伸ばして、抱っこを促してみる。
「本当に人なつっこい子だね」
と嬉しそうに笑ったマーカスお坊ちゃまはわたしを抱き上げた。
ふむ、マーカスお坊ちゃまもなかなかのハグ使いと見た!
などと、満足していると、後ろから「あら、帰ってきていたのね」というママさんの声が聞こえた。
それに対して、マーカスお坊ちゃまが「ああ、ご無沙汰しています」と返している。
視線を向けると、大階段からニコニコ顔のママさんが、メイドさんを引き連れ降りてくる所だった。
ママさんはマーカスお坊ちゃまの近くまで来ると、言う。
「マーカスさん、お久しぶりね。
相変わらず、お友達のお勉強を見て上げているのかしら」
それに対して、マーカスお坊ちゃまは苦笑する。
「ええまあ……。
ただ、人に教える事からも、学びを得るというか……」
「まぁ」と扇子を口元に当て、ママさんは面白そうに笑った。
「あなた達親子は、本当に似ているわ。
あの方も、似たようなことを言いながら、わたしに算法を教えて下さったのよ」
「そうなんですか?」
マーカスお坊ちゃまはなんとも言えない顔になる。
「そうよ。
でも、余り甘やかしすぎると、図に乗るからほどほどにね。
わたしの様に……。
ふふふ!」
とか言いつつ、ママさんは本当に可笑しそうに笑っている。
マーカスお坊ちゃまや使用人の皆は困った顔をして、それを見ている。
いや、図に乗るママさんはともかく、あの脳筋パパさんって、実は勉強も出来たんだ!
そっちの方が意外なんだけど!
二人が居間に移動しようとしているので、わたしはマーカスお坊ちゃまの手から降りて、散歩を再開する。
マーカスお坊ちゃまは残念そうにしつつも、「またね」と手を振ってくれた。
優しそうなお兄様だ!
前足を振って、それに返しつつ歩く。
厨房の方は忙しそうなので、外に出ることに。
庭園の入り口の扉を、近くに居たメイドさんに開けて貰い、外に出る。
綺麗に整ったお庭は、前世でいった大きな公園みたいだ。
中央には噴水まであり、定期的に水まで出ている。
あれ、どういう原理だろう?
やっぱり、魔法的何かかな?
テクテク近づいていこうとすると、何やら駆けてくる音が聞こえてきた。
「がぁ?」と振り返ると、残念イケメンが何やら嬉しそうに近寄ってきた。
そして、わたしを持ち上げる。
「執務も終わったし、狩りの練習でもするぞ!」
えぇ~
居間散歩中なんだけど!
あと、執務室だろう場所から、従者の人が苦い顔でこっちを見てるけど、本当にお仕事終わったの!?
だけど、わたしの心情など気づかず、「鍛錬場に行くぞ!」とか言っている。
ママさん!
この人、本当に学校で人に勉強を教えてたの!?
全然、そうは見えないんだけど!?




