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お嬢様(悪役令嬢)が欲しければ、まずはわたし(ドラゴン)を倒していけ!  作者: 人紀
第一章

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12/21

イケメンさんでも、暑苦しい系は遠慮したいんだけど!

 馬車の窓から外を眺めるお嬢様は、憂鬱そうにされている。

 ここは、愛玩系ドラゴンとしては少しでも慰めにならねば!

「がぁが!」と可愛いい声を上げつつ、柔らかなお腹に頬ずりをすると、お嬢様は「キャッキャ」と笑った。

 あ、そういえばお嬢様はお腹がくすぐったいんだった……。

 思い出したのだけど、時すでに遅く、ペチンと頭を叩かれてしまった。

 しかも、「その鳴き方、気持ち悪い!」とのダメ出しまで頂く事に。


 愛玩系ドラゴンへの道は遠い。


 などと考えつつ、頭の角の根本をカリカリ掻く。

 どうも、最近むず痒くて仕方がないんだ。

 お嬢様もそれに気づくと、一緒に掻いてくれた。

 幸せぇ~などと目を細めていると、アネットさんに「あんまり掻きすぎると禿げちゃいますよ」と言われてしまった。

 さらにお嬢様にも「これくらいにしておきましょうね」と掻くというよりも撫でる感じにされてしまった。

 物足りないけど、禿げるよりはマシかぁなどと考えていると、コンコンと横から音が聞こえてきた。

 ん? と視線を向けると、馬車の向こうから、騎乗のパパさんがガラスにノックをするのが見えた。

 なにやら楽しそうなパパさんに小首をひねっていると、オントワンさんが窓を開いた。


 あっという間の早業だった。


 パパさんは身をこちらに乗り出したかと思った瞬間、わたしは首根っこを掴まれ、ひょいっと外に連れ出されてしまった。

 しかも、結構な速度で走っているのに、止めもせずにそのままで、だ。

「お父様!?」

「ぐぅ!?」

 気づいたら、パパさんの左腕に乗せられていた。

 もちろん、例の鷹狩り用手袋の上で、だ。

 パパさん、どんだけ鷹狩りが好きなの!?


 わたしは半眼になり、残念イケメンを眺めた。


 だけど、そんなわたしの心情と、馬車の中でカンカンに怒っている愛娘などお構いなしに、パパさんはニコニコしながら、指をさした。


 わたしたちの進行方向から右側に、ちょっとした丘があり、野花が咲き乱れていた。


 そして、その中を灰色のウサギが十匹ほど、横切っているのが見えた。

 ウサギ――といっても、いつも狩っているものとは違う。

 パパさんが一角大ウサギと呼ぶもので、サイズは大人のイノシシほどになる。

 そして、気性もやたら好戦的で、初めて狩るように指示を出された時は、(大きいけど、ウサギはウサギだよね)と高をくくっていたこともあり、手痛い反撃を受けてしまった。

 いや、まさか降下するわたしに対して、逃げずに頭から突撃してくるとは思わなかったんだよ!


 だって、わたしドラゴンよ?

 初めの森では熊みたいな獣が避けるほどの上位種よ?


 それなのに、むしろ向かってくるとはあり得ないでしょう!

 わたしなんて腹部に頭突きを食らい、高性能だけど軽いドラゴンボディは吹き飛ばされた。

 幸いなのか――それとも種族の優位性として当然なのか――怪我一つしなかったけど、それからしばらくは怖くなり、お嬢様にべったりくっついて、パパさんの狩りへのお誘いを断り続けたものだ。

 そんなウサギを指さし、パパさんは(のたま)う。

「キュートリック、お前は誇り高きドラゴンだ!

 獣達の王だ!

 さあ、心を熱くしろ!

 やれる!

 お前ならやれる!

 やるんだぁぁぁ!」


 ……暑苦しい。


 なんか、前世でこういうテニスプレーヤーがいた気がするけど、暑苦しい。

 イケメンだろうが、王子様だろうが、こりゃないなぁ~

 なんて思っていると、わたしに思いが通じたと思ったのか、有無を言わさずなのか、腕を振りわたしを放った。


 ちょっとちょっと、鷹狩りって馬を走らせながらやるものなの!?

 よく知らないけど!


 なんて思いながらも、仕方が無く一角大ウサギの方に向かって飛ぶ。

 後ろから、「行けぇぇぇ!」とか絶叫が聞こえるけど無視しつつ、一角大ウサギの上を通り過ぎ、白い野花を一輪摘んだ。

 そして、「違う違う!」と一角大ウサギを指さしながら叫ぶパパさんを無視して、馬車の窓枠に止まり、お嬢様に野花を差し出した。

「ありがとう、キュー!」とお嬢様は嬉しそうにわたしを抱きしめてくれた。

 ふふふ、お嬢様好き!



「ぐぅ?」

 気づくと馬車が止まっていた。

 どうやら、お嬢様の膝の上で眠ってしまっていたらしい。

 王都に付いたのかな?

 それとも、休憩?

 などと寝ぼけた頭できょろきょろとしていると、アネットさんに抱き上げられた。

 ん?


 降りる準備をするお嬢様の表情が硬い。


 なんか、例の性格悪そうなイケメン少年と会う前に近い。

 まさか、外にその当人がいたりするのかな?

 などと思いながら、馬車を降りるお嬢様をアネットさんの膝の上で見送る。

 アネットさんに抱かれて馬車を出ると、お屋敷が見えた。

 ここが、王都でのお嬢様のお屋敷なのかな?

 前のお屋敷――たぶん、パパさんの領地のお屋敷――よりは小さいけど、その分豪華な感じがする。

 白地の岩石で覆われたそれは、所々金細工が施されていて、それがまた、華美でありながらも上品というか、落ち着きがあるというか。

 成金さんとはひと味も違うんだよって雰囲気があった。


 例の少年はいなかった。


 代わりに、綺麗なお姉さんがパパさんとお嬢様を出迎えていた。

 お姉さん、というかひょっとするとママさんかな?

「お帰りなさい」と嬉しそうにパパさんとハグをしている。

 整った小顔にお嬢様よりもさらにキツそうな目の美人さんで、長身のパパさんと並んでいるのであまり違和感はないけど、女性にしては恐らく背が高い方だろう。

 すらりと細く、姿勢の良いので前世のモデルさんを彷彿とさせた。

 髪は魅惑的な口紅のように真っ赤で、それを細かく編み、後ろで結い上げていた。

 あまりお嬢様には似ていない気もするなぁ。

 ただ、お嬢様はパパさんにも似ていない気がするので、ひょっとしたらパパさんの妹さんとかかもしれない。

 などと考えていると、パパさんが辺りを見渡しながら訊ねる。

「マーカスはどうした?」

 赤毛の美人さんは苦笑する。

「あの子なら、友達のお勉強を見てあげるのが忙しいらしいわよ。

 一応、明日は顔を出すとか言っていたけど……」

 マーカスって、確かお嬢様のお兄様の名前だったはず。

 学校に行ってるんだ。

 そんなことを考えていると、赤毛の美人さんがこちらに視線を向けて微笑んだ。

「あら、あなたがカティの竜?

 ねえ、抱っこしてもいいかしら?」

 赤毛の美人さんがお嬢様に視線を向けると、表情がやや堅いお嬢様は「はい」と小さく了承した。

「どれどれ~」と赤毛の美人さんがこちらに近づいてくるので、わたしは持ちやすくなる様に前足を前に出して構える。

「あらあら、なかなか賢そうね」

 赤毛の美人さんはわたしの前足に手を差し込み、赤ん坊にするような感じで高い高いをし始めた。


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