イケメンさんでも、暑苦しい系は遠慮したいんだけど!
馬車の窓から外を眺めるお嬢様は、憂鬱そうにされている。
ここは、愛玩系ドラゴンとしては少しでも慰めにならねば!
「がぁが!」と可愛いい声を上げつつ、柔らかなお腹に頬ずりをすると、お嬢様は「キャッキャ」と笑った。
あ、そういえばお嬢様はお腹がくすぐったいんだった……。
思い出したのだけど、時すでに遅く、ペチンと頭を叩かれてしまった。
しかも、「その鳴き方、気持ち悪い!」とのダメ出しまで頂く事に。
愛玩系ドラゴンへの道は遠い。
などと考えつつ、頭の角の根本をカリカリ掻く。
どうも、最近むず痒くて仕方がないんだ。
お嬢様もそれに気づくと、一緒に掻いてくれた。
幸せぇ~などと目を細めていると、アネットさんに「あんまり掻きすぎると禿げちゃいますよ」と言われてしまった。
さらにお嬢様にも「これくらいにしておきましょうね」と掻くというよりも撫でる感じにされてしまった。
物足りないけど、禿げるよりはマシかぁなどと考えていると、コンコンと横から音が聞こえてきた。
ん? と視線を向けると、馬車の向こうから、騎乗のパパさんがガラスにノックをするのが見えた。
なにやら楽しそうなパパさんに小首をひねっていると、オントワンさんが窓を開いた。
あっという間の早業だった。
パパさんは身をこちらに乗り出したかと思った瞬間、わたしは首根っこを掴まれ、ひょいっと外に連れ出されてしまった。
しかも、結構な速度で走っているのに、止めもせずにそのままで、だ。
「お父様!?」
「ぐぅ!?」
気づいたら、パパさんの左腕に乗せられていた。
もちろん、例の鷹狩り用手袋の上で、だ。
パパさん、どんだけ鷹狩りが好きなの!?
わたしは半眼になり、残念イケメンを眺めた。
だけど、そんなわたしの心情と、馬車の中でカンカンに怒っている愛娘などお構いなしに、パパさんはニコニコしながら、指をさした。
わたしたちの進行方向から右側に、ちょっとした丘があり、野花が咲き乱れていた。
そして、その中を灰色のウサギが十匹ほど、横切っているのが見えた。
ウサギ――といっても、いつも狩っているものとは違う。
パパさんが一角大ウサギと呼ぶもので、サイズは大人のイノシシほどになる。
そして、気性もやたら好戦的で、初めて狩るように指示を出された時は、(大きいけど、ウサギはウサギだよね)と高をくくっていたこともあり、手痛い反撃を受けてしまった。
いや、まさか降下するわたしに対して、逃げずに頭から突撃してくるとは思わなかったんだよ!
だって、わたしドラゴンよ?
初めの森では熊みたいな獣が避けるほどの上位種よ?
それなのに、むしろ向かってくるとはあり得ないでしょう!
わたしなんて腹部に頭突きを食らい、高性能だけど軽いドラゴンボディは吹き飛ばされた。
幸いなのか――それとも種族の優位性として当然なのか――怪我一つしなかったけど、それからしばらくは怖くなり、お嬢様にべったりくっついて、パパさんの狩りへのお誘いを断り続けたものだ。
そんなウサギを指さし、パパさんは宣う。
「キュートリック、お前は誇り高きドラゴンだ!
獣達の王だ!
さあ、心を熱くしろ!
やれる!
お前ならやれる!
やるんだぁぁぁ!」
……暑苦しい。
なんか、前世でこういうテニスプレーヤーがいた気がするけど、暑苦しい。
イケメンだろうが、王子様だろうが、こりゃないなぁ~
なんて思っていると、わたしに思いが通じたと思ったのか、有無を言わさずなのか、腕を振りわたしを放った。
ちょっとちょっと、鷹狩りって馬を走らせながらやるものなの!?
よく知らないけど!
なんて思いながらも、仕方が無く一角大ウサギの方に向かって飛ぶ。
後ろから、「行けぇぇぇ!」とか絶叫が聞こえるけど無視しつつ、一角大ウサギの上を通り過ぎ、白い野花を一輪摘んだ。
そして、「違う違う!」と一角大ウサギを指さしながら叫ぶパパさんを無視して、馬車の窓枠に止まり、お嬢様に野花を差し出した。
「ありがとう、キュー!」とお嬢様は嬉しそうにわたしを抱きしめてくれた。
ふふふ、お嬢様好き!
「ぐぅ?」
気づくと馬車が止まっていた。
どうやら、お嬢様の膝の上で眠ってしまっていたらしい。
王都に付いたのかな?
それとも、休憩?
などと寝ぼけた頭できょろきょろとしていると、アネットさんに抱き上げられた。
ん?
降りる準備をするお嬢様の表情が硬い。
なんか、例の性格悪そうなイケメン少年と会う前に近い。
まさか、外にその当人がいたりするのかな?
などと思いながら、馬車を降りるお嬢様をアネットさんの膝の上で見送る。
アネットさんに抱かれて馬車を出ると、お屋敷が見えた。
ここが、王都でのお嬢様のお屋敷なのかな?
前のお屋敷――たぶん、パパさんの領地のお屋敷――よりは小さいけど、その分豪華な感じがする。
白地の岩石で覆われたそれは、所々金細工が施されていて、それがまた、華美でありながらも上品というか、落ち着きがあるというか。
成金さんとはひと味も違うんだよって雰囲気があった。
例の少年はいなかった。
代わりに、綺麗なお姉さんがパパさんとお嬢様を出迎えていた。
お姉さん、というかひょっとするとママさんかな?
「お帰りなさい」と嬉しそうにパパさんとハグをしている。
整った小顔にお嬢様よりもさらにキツそうな目の美人さんで、長身のパパさんと並んでいるのであまり違和感はないけど、女性にしては恐らく背が高い方だろう。
すらりと細く、姿勢の良いので前世のモデルさんを彷彿とさせた。
髪は魅惑的な口紅のように真っ赤で、それを細かく編み、後ろで結い上げていた。
あまりお嬢様には似ていない気もするなぁ。
ただ、お嬢様はパパさんにも似ていない気がするので、ひょっとしたらパパさんの妹さんとかかもしれない。
などと考えていると、パパさんが辺りを見渡しながら訊ねる。
「マーカスはどうした?」
赤毛の美人さんは苦笑する。
「あの子なら、友達のお勉強を見てあげるのが忙しいらしいわよ。
一応、明日は顔を出すとか言っていたけど……」
マーカスって、確かお嬢様のお兄様の名前だったはず。
学校に行ってるんだ。
そんなことを考えていると、赤毛の美人さんがこちらに視線を向けて微笑んだ。
「あら、あなたがカティの竜?
ねえ、抱っこしてもいいかしら?」
赤毛の美人さんがお嬢様に視線を向けると、表情がやや堅いお嬢様は「はい」と小さく了承した。
「どれどれ~」と赤毛の美人さんがこちらに近づいてくるので、わたしは持ちやすくなる様に前足を前に出して構える。
「あらあら、なかなか賢そうね」
赤毛の美人さんはわたしの前足に手を差し込み、赤ん坊にするような感じで高い高いをし始めた。




