表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

飛べないあひると翼の折れた天使

作者: 昼月キオリ
掲載日:2026/02/21


夕暮れの池。

水面は金色にゆらゆらと揺れていた。

葦の葉が風に揺られ、さわさわと優しい音を立てている。

帰りそびれた一羽の小さなあひるがため息を吐く。


あひる「はぁ・・・僕も空を飛びたいな」


水面に映る自分の姿は、小さくてぽってりと丸い。

どれほど一生懸命羽ばたいても飛べない。

そのたびに、遠くを渡っていく鳥たちの姿が胸に刺さった。


その時だった。


池のほとりに、ふわりと白い光が舞い降りた。


天使「やぁ」


振り向くと、そこには白い民族衣装のようなを格好をした青年が立っていた。

しかしその背の翼は片方が折れ、羽根が何枚も抜け落ちている。


「君は・・・天使なの?」


「ああ。でも、戦いの最中に怪我をしてしまってね。

この有様さ」


天使が肩をすくめる。


折れ曲がった翼は夕陽に照らされ影となる。


「痛そう・・・」


「もう痛くはないよ。でも、飛べなくなってしまったんだ」


あひるは水面を見つめ、小さく頷く。


「そっか・・・僕も飛べないんだ」


「君もか」


「うん。飛べない鳥だって笑われる」


冷たい風が吹き、葦がざわめく。


「俺も似たようなものさ。天使のくせに飛べないのかって罵られたよ」


「酷いよ、君は戦って怪我をした勇敢な天使なのに!」


夕焼けの赤が、あひるの瞳に揺れる。

炎が宿ったような瞳に、天使は一瞬目を真ん丸くすると微笑んだ。


「・・・君は心が優しいんだね。そうだ。俺達、友達になろう」


「友達?」


「ああ。飛べない天使と飛べない鳥。いいコンビだと思わないか?」


夕陽が二人を包む。

池の水面が、きらりと光った。


「うん、うん!いいと思う!君がいてくれたら僕は心強いよ」


それから二人は、毎日池のほとりで話をした。

夜には星を見上げ、昼には雲の形を数えた。

たわいも話をいつまでも続けた。


飛べなくてもいいって少しだけ思えた。


そんなある日のこと。


朝霧が薄く立ち込め、池が白く煙る。


あひるがぽつりと言った。


「君の為なら、僕は自分の羽を全部あげる」


天使は驚いて振り向く。


「僕は羽があっても飛べないけど、君なら飛べるだろう」


迷いの無い真っ直ぐな声。


天使はゆっくりと首を横に振った。


「友達を傷付けるなんてできない。その気持ちだけで充分さ」


霧の中を、とぼとぼと歩き出すあひる。

その後ろに、白い羽が一枚落ちていた。


「なぁ、その羽、もらってもいいか?」


あひるが振り向く。


「うん」


その瞬間、羽がやわらかく光り出した。

水面がきらめき、霧が一気に晴れる。

あたり一面が光に包まれた。


羽は天使の折れた翼に吸い込まれるように溶け込み、

美しい翼に変わった。


「これなら飛べる」


天使の足が、ふわりと宙に浮く。


「わああ!良かったね!空を飛べるようになったんだね!」


自分のことのように喜ぶあひるに天使が提案する。


「君も一緒に行こう」


「僕も?いいの?」


天使は思いました。

あひるの優しさが魔法となって飛べる翼に変わったのだと。


「もちろんさ。君の羽のおかげで俺は飛べるようになったのだからね」


天使はあひるを抱き上げ、背中に乗せる。

触れている部分だけが温かい。

風が二人を包み込む。


ぱしゃんっ。


池の水音が響く。

それは新しい始まりの合図だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ