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大根収穫狂騒曲

作者: 暇庭宅男
掲載日:2025/11/21

「なぁんで午前中天気持たねえんだよあのーー(自己規制)天気予報がよぉ!」


11月21日朝8時、早朝におセンチな詩を投稿してから2時間とたたず、暇庭は冷たい雨にうたれながら畑の真ん中で悪態をつくこととなった。


2度目の霜が降りたので、家族の中でも大根をだんだん収穫しないとねえ〜と言っていたのだが、なるべくならどんな野菜も、天気のいい時に収穫したいのは人情というものだろう。大根は特にその後泥汚れを水で洗いおとして貯蔵用に袋詰めしておかねばならない。寒い時にやりたくないのだ。


しかし無情なるかな、午前中は雨は降らないという予報は外れた。気温3℃の雨、冷たい雨が降る中の大根収穫はほんとうに、気持ちの面でガッツリと消耗をくらう。


とはいえ救いだったのは、今年の大根は売らないと決めていたのでほんの50株程度の数だったことだ。気合さえあれば収穫そのものはできる、というか、やるしかない。父の助けを借りて収穫を始める。


大根の生き生きとよく伸びた葉っぱをまとめて両手で握り、なるべく真上へすぽっと抜き上げる。いきなり力をかけてはいけない。真上へぎゅう〜〜っと引っ張る力を徐々に強めるイメージ。ちょっとでも乱暴すると大根が折れたりしてしまう。のそのそ動く私のとなりで、さすが親父は作業が早い。あっという間に差が開き父にバカにされて煽られるがここでキレると大根を損傷させるだけだ。我慢して引き抜き続ける。


「あっれ……今年の大根……でけえ……?」 


ひとりごちる。去年が小さかったせいもあるだろうが、今年の大根はでかい。1.5リットルのコーラのボトルのような太さのものさえある。また長さも大変に長い。40センチならいいなあと思うところを60センチを悠々と超えてくるのには参った。ところにより80センチ近いものすらある。


「ああ、こりゃ……スが入ってるかもな……」


親父がつぶやく。大根は大きければいいというものでもない。大きすぎれば容赦なく中心からスが空いてくる。ス入りの大根だって食べられるけれど、切り取って取り除く部分が大きいと手間がかかるのがよろしくない。

ことしはちょっと焦りがあって9月に入ってからすぐに種蒔きをしてしまったのだ。 本当は9月10日まで待ったほうがよい大根が穫れる。来年は9月10日厳守にしようとハラの中で決心する。


まあ食いでがあるのは事実なので、遠慮なくガンガンに使うまでだ。今の時期に収穫する大根は冬中食べる貯蔵野菜なのだが、最近冬も暖かいことが多いので2月ともなると水分が抜けてきておいしいとはいえない大根を仏頂面で食う羽目になる。 


「それと沢庵用……これとこれと」


収穫した時の個体差にもよるが、直径5センチを下回る小ぶりな大根は、沢庵に回すとおいしいし漬けやすい。干した時に均一に水分が抜けて大変歯触りがいいのだ。だから沢庵用の小さめの大根はコンテナを別にする。


「ラスト!やっぱでけえな」


コンテナに収まらないので大物は直接的軽トラックの荷台に積む。50本だがおそらく総重量は100kgを超えるだろう。コンテナを積むにあたって腰を痛めないよう膝を深く曲げて大腿筋で持ち上げる。この持ち方を身に着けてからは腰に負担がかかるのが減った。農家にとって腰は消耗品だ。なるべくならば痛み出すのは遅くしたい。


家へ戻ると敷地の一番外れにある蛇口をひねって水を出す。ホースからは勢いに欠ける水がちょろちょろと流れ出す。ここは水道ではない。わが家の井戸からポンプでくみ上げている井戸水だ。


「おーっ、あったけえ……」


水温19℃。初冬にこの井戸水の暖かさは実に嬉しい。深さ2.7mしかないわが家の井戸は、正月まで夏の余熱で温かい水をもたらしてくれる。収穫してきた大根のコンテナを並べると、軍手をつけて水をかけ流しにしながら軍手をはめた手でで優しく丁寧にこすり洗いをする。

大根の表面はなめらかでこすっているとすぐに泥が落ちるのだ。量がそんなにないのでここはそこまできつくない。太いものから洗っていくと最後に沢庵に使える細めの大根が残る寸法だ。


大根も芋虫用の農薬をたった一度使ったきりなので、ところにより虫食いの跡がある。丸く小指の先程度のごく浅い食い方をするのはたぶんコガネムシの幼虫。これは問題ではない。食われて傷ついた部分も収穫のころにはすでに皮が張ってほぼ治っている。

薬をケチったので当然だが線虫(センチュウ)害もある。線虫はどこの土にもいる、目で見るのが難しいほど小さな害虫だ。ミミズを顕微鏡か必要なサイズに小さくしたような姿で、こいつらは大根の根をつついて穴を開けてしまう。穴の開いたあとを塞ごうと白い小さなカサブタができているのが確認できる。


線虫は0.1ミリ程度の大きさしかなくごく小さいので10カ所や20カ所つつかれた程度では大根は別にそこまで困らないが、畑全体で数億匹にまで増えたような年には大根は数千の穴を開けられて、成長途中で形が歪になってしまい大根全体が硬く筋が多くなって味が落ちる。まあことしは普通くらいだ。一安心。


これだけバカでかい大根が多いのだからス空きがひどかろうなと思ってことさら太くなった大根を包丁で真っ二つに切ってみる。


「……お?意外とそうでもない」


ス空きはしているがごくごく軽度だ。鉛筆1本の細さもないような空洞が空いてはいるが、ひどい年なんかここにペットボトルの蓋がスッと収まってしまうくらいの空洞ができるのだ、ことしはそうでもないらしい。良いじゃないの?今年の大根の出来。割とうれしくてニヤリと笑いが出る。


大根の洗い方が終わると選別した沢庵用の大根を干しにかかる。紐でくるっと縛り風通しの良い軒下に下げて、約半月、乾かす。その後クチナシ入りの鮮やかな黄色い調味液の中に、きれいに並べて入れるのだ。とはいえこの冷たい雨の天気の中この作業をやっていると容赦なく気が滅入ってくる。びしょびしょ降ってくる雨のせいで乾く気がしない。


干し方が一段落つくと、バカでか大根どもを蔵の中へ。コンテナだと傷みやすいので肥料の入っていた袋に入れて壁に立てかける。しめて6袋、36本分。まあ良いんじゃねえの?と思って、蔵を閉めた。あとは蔵の中が氷点下にならなければかなり長く保存しておける。


さて、作業の後片付けを済ませたらさっき試しに切った大根を持って家に入る。

私は今日はご飯作んないよ!と金切り声をあげる不機嫌な母に俺が作るのさ〜と努めて柔らかく返事をして、流しで皮を剥く。大根の収穫が終わった時には、とある料理を作ると私は決めている。皮を剥き終わったら一番太い場所を輪切りにする。3センチはあろうかという極厚だ。真ん中のス空きも今回は無視。これだけ小さいス空きなどどうせ食える。大根のしっぽの方は皮ごと短冊切りにしておく。頭の方は……どうする?考えが浮かばなかったので保留。


極厚切りにした輪切り大根をフライパンに並べる。4つ入れたかったが3つしか入らないので小さいフライパンをもう一つ出して最後の1つはそちらへ。コンロに置いて、水をカップ1杯入れる。フタをして点火。火加減は弱めの中火。炎がギリギリ鍋底に届くくらいだ。すると数分で湯気があがってくる。換気扇のスイッチを入れ、そのまま5分蒸し茹でにする。5分たったら、いちどコンロの火を消す。


その後は自然に冷まして、鍋を触ったとき「ああ、まだあったけえ……」くらいの温度になったら大根を取り出して湯を捨てる。さぁここから大根がごちそうになる。湯を捨てたフライパンをもう一度弱めの中火にかけ、サラダ油を大さじ1敷く。フライパンの上に手をかざしてムラなく熱く感じたら、茹でた大根をこんどはフライパンで焼くのだ。

堀りたての大根は水分が多く最初ジューッと派手に音を立てる。焦げ目をつけたいので2分くらい動かさない。重たいのでフライ返しよりもトングなどで挟んでひっくり返すのが楽だ。ひっくり返したら、同じく2分間そっとしておく。油がはねるのが嫌なときは火をごく弱火へ弱めてもいい。焦げ目とはトレードオフになるが、焦げ目がなくたってうまいものはうまい。


焼き色がついたら、醤油と砂糖、料理酒を1:1:2の割合で混ぜたものを焼いた大根に回しかける。アルコールを飛ばして大根の表面にタレが絡んだら、大根の照り焼きの完成だ。暇庭は大根の初物はこうして食べている。ご飯にもよく合うごちそうだ。


さあ、さっき短冊切りにした大根のしっぽを、今回は浅漬けキムチにしてしまおう。桃屋のキムチの素とイカの塩辛を、短冊切りにした大根のしっぽに和える。微妙に量が足りないので、大根の頭の方も全量皮を剥いて短冊切りにし、浅漬けキムチにすることにした。


浅漬けキムチはジップロックに入れて常温で置いておく。このほうが味のなじみが早い。腐ることはない。大根に自然の乳酸菌があるので発酵はするが腐敗はしないのだ。


そして夕飯。新ものの大根の照り焼きに浅漬けキムチが食卓に並ぶ。母がタッパーを出してくる。中はホウレンソウのおひたしだった。なるほどこれ作ってて疲れたか。昼の不機嫌の理由がわかった。


いただきますをして大根の照り焼きにかぶりつく。熱々の大根の表面に絡んだ甘辛タレと、中からじゅわっあふれる大根本来の甘み。これはご馳走だ。ご飯の共になる。

浅漬けキムチも常温なら4時間で食べ頃だ。もうちょっとよく漬かったほうが好みだが、シャキッとした大根の歯触りも嬉しい。もっと漬かりが進むとイカの塩辛のうまみを吸ってさらにおいしくなる。


母が苦労して作ったほうれん草のおひたしも食べてみる。うーん、霜にガッチリ当たったせいか甘みが増して素晴らしい味だ。ほうれん草が畑にある間は我が家は風邪とは無縁だ。ありがたいことである。


そんなこんなで、初冬の大仕事、大根収穫は終わった。年間通しで見た時に残っている仕事は、銀杏拾いと白菜収穫、たまねぎの苗を皆に引き渡して、家の雪囲い。それが終わればわが家の冬休みになる。もうちょいだな、と大盛りの白飯をもりもり食べながら、私は今年のラストスパートの予感に気合を入れ直すのだった。

大根の収穫は、1つ冬の始まりを告げる作業である。

ここから家の雪囲いまではほぼノンストップで勤めの休みごとにフルスロットルで働くことになる。頑張れ暇庭。冬休みは近いぞ。

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