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煩能〜108の能力で闘う者たち〜  作者: のっぽ童子


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9/12

誰かにとって最高な日-是-

------はたまた、少し前。

竜成らは紫電を前に跪かされていた。

紫電に相対するは、秋有が顕現させたであろう灰色の執事『不正知(ふしょうち)』。


「いつも、守ってもらえて大層恵まれてんなぁ!」


紫電が嫉妬を募らせる。


(流石にやばいな......!)

(痛ってぇ......)

(どうしよう!?)


その度に3人は様々な重圧でへし折れそうだ。

そんなことはいざ知らず、『不正知』は拳を構えている。


「かかって来いよ」


紫電が合図を出したからかは分からないが、『不正知』は一瞬にして間合いを潰す。


(速いっ)

「かはっ......!」


紫電が両腕でボクシング流の防御をするうちに『不正知』の右拳が放たれていた。

紫電は衝撃で靴底を擦りながら、後退する。


その隙に『不正知』が繰り出した右の横蹴りが腰に炸裂する。


「ふぅぅぅぅぅ.......!」


衝撃を和らげようと紫電が地面を転がる。

その際に押し潰そうと『不正知』に縦の重力を繰り出す。

しかし、それでも身軽な動きで、『不正知』は追撃の踵落としを入れた。

しかし、紫電は頭をズラして躱すと同時に立ち上がる。


「やるじゃん......!」


紫電は左の親指をそっと唇に押し当て、それを舌で舐める。


(いいぞ......このままなら......!『不正知』はトキウがパニックに陥れば陥るほど......強くなる! 今は最高潮と言っていい!!!)


ニコラスが口から血を吐き出すも、笑顔は保ったままだ。


『不正知』が拳を構えたと同時、


「力の重さを味わえよ!」


紫電は手を(かざ)し、重力で作られた砲撃を放った。


ただ、その僅かな空気の歪みを捉え、『不正知』は右に回避すると、目にも止まらぬ速さで駆け寄って、右の横蹴りを横腹へ繰り出す。


「ぐぅぅぅぅ!」


紫電がガードするも、あまりの威力に悶えながら、吹き飛ぶ。


それに合わせて距離を消すと、『不正知』が顔面に向けて、左拳を叩き込む。


「レディの(つら)を傷つける奴はクズだぜ」


しかし、そういう当人はギリギリのところに掌を挟み込んで、直撃を免れている。


その直後、空いている右手に重力を圧縮した球を作り出し、それを『不正知』にぶつけようとした。


『不正知』は反応し、後ろに下がるが、左膝の一部が消し飛んだ。


「てめぇが大きいダメージを与えるんなら、こっちはチマチマと攻撃してやるよ!」


紫電はコンパクトへ縮めた重力弾を無数に放り出す。


『不正知』が持ち前の戦闘能力で全弾を避ける。

だが、そこの横に待ち構えていたのは拳を引く紫電であった。

その瞬間、拳が直撃したかと思えば、刹那、『不正知』は吹っ飛び、近くのコインランドリーの薄い壁を破壊し、店内に侵入する。


「どうよ! 拳に重力を乗せた重力拳は!」


紫電は笑みを隠し切れていない。


(流石にキツいか......)


ニコラスはそう思わざるを得なかった。


(ん? なんか、若干だけど体が軽くなってるような......? もしかして......あの2人の戦いが関係してるのか?)


しかし、その中でも竜成はある突破口を見つけ出そうとしていた。


「あらら、もう壊れちゃったのかな?」


紫電の表情には余裕さえ伺える。

ゆっくりと『不正知』の方へ寄ろうとした。


その時、1つの(つぶて)が紫電を襲う。

咄嗟に右腕で防ぐも、バッサリと切れている。


瞬きすると、目の前で左胸に穴の空いた『不正知』が左拳を出していた。


衝突は確実かと思えたが......拳が止まる。

黒雲は這っているのに、敵が憎くも笑っているのに、その拳の時間だけが止まって見えた。


「重力をただ圧縮させた即席技だけど使えるね、これ」


紫電はこの戦いで成長を遂げようとしていた。

3幹部の中で最も警戒するべきは紫電だったのだ。


『不正知』が続けて、腹に右アッパーを仕掛ける。


紫電が横による力で自分自身を後ろへ行かせ、相手の隙を突いて圧縮重力の光線をかました。


それにより、『不正知』の水月にはぽっかりと空間が出来ていた。


だが、『不正知』は感情で作られた自動操縦可能な人形に過ぎなく、痛覚は当然としてない。


目的に従い、動き続けるしかないのだ。

秋有を守る、ただそれだけに従うのである。

それが『不正知』の存在価値であり、存在意義。


『不正知』が当たらないのを正知で拳、足の乱打を放ちまくった。

戦い方はこれしか知らないんだ。


(私と張り合えると思ってたけど、つまんな。もう、終わらせよか......なんて、お前は無駄な存在なんだろうな)


紫電の宿るは嫉妬でも喜びでもなく、失望だ。


「消え失せろ」


直後、繰り出された重力の波動砲が地面を抉りながら、『不正知』を消滅させた。


(不思議になんの感情も湧かないな、さて、あの3人は......)


紫電は焼肉店の方を向こうとした時、眼前に黒いメリケンサックが映る。


「消え失せろ? それはお前だろうが!」


咄嗟に躱そうとするも顔面へその一撃を貰う。


「がはっっぁ!」


その威力は『不正知』を遥かに超えている。

鼻血が垂れ、目もやられ、紫電の顔面はボロボロだ。

地面へ転げ回り、10数mで止まる。


「てめぇら! なんで動ける!」


「お前の能力は常に意識を持たないといけねぇって考えてたんだよ。さっきの戦いの時、どんどん重さが緩むのを感じて、そう確信したんだ」


竜成は入ってすぐなのにも関わらず、目紛(めまぐる)しい成長を経験している。

その目つきはベテランそのものだ。


「なるほどね......私自身ですら、その欠点は知らなかったな」


しかし、すぐに紫電の広くなった瞳孔が縮こまる。


「『(すい)』!!!」


店の換気扇の後ろに身を隠していたニコラスが能力を発動させ、丁度、紫電を軸にした緑の円を書き出す。


「流石、元軍人だ。足音がしなかった」


紫電が極寒の極地に入る。

紫電はその円を軽く抜け出すと、ニコラスに向けて重力砲を発する。


ニコラスは横っ飛びで回避して、銃を乱射した。


紫電が重力壁(バリア)で防ぎながら、竜成へ重力の球を重力で押し出して加速させた。


竜成は動きにおぼつきがあるものの、何とかして避けて見せる。


(力が無いなら、泥臭くても良い。とりあえず、粘るんだ!)


竜成が地面にある空き缶や石を拾い上げ、投げつける。


「鬱陶しいな。ハエが」


その物体を止める紫電が竜成1人に対して、重力弾・重力球・重力砲その全てを用いた。

ハエは本気でやらないと、逃げてしまうのだから......


(まずい......!)


突如として竜成の脳に埋め尽くされたのは......死。


「「「うおっしゃらぁぁぁ!」」」


しかし、気絶していた寿司トリオ全員が身を起こし、そして、挺し竜成を庇った。


「な、なんで......」


竜成は顔に血が飛び散り、困惑する。


「お前は全員に期待されてる......なら、ここじゃ死ねねぇだろうが......」

「流石に気絶したままはカッコつかねぇからな......」

「仲間助けるのに理由は要らねぇ......!」


寿司トリオは3人共々、致命傷を食らい、地面に伏せた。


「ちっ」


紫電に舌打ちと同時にニコラスの射撃が始まる。

重力壁で防ぎつつ、重力弾で応戦する。


ニコラスも軍人の動きで弾を回避し、狙いを定めて撃つ。


(俺だってやってやる......!)


そこには竜成の投げた空のペットボトルや木片も含まれている。


「ちょこまかと......ん」


その時、重力砲を打とうとした紫電の背中にあるものが張り付く。

それは『不正知』の左腕だ。

『不正知』は完全に消滅するまで使命を全うする!


『不正知』が最後の足掻きとして、髪を引っ張り、紫電に地面に落とした。


「でかした! 『睡』!」


ニコラスが緑の円を完成させる。

紫電は立ち上がって、後ろに下がろうとしたが、少し手が円に触れてしまい、その場に膝から崩れ落ちた。


(一瞬、触れただけでこれか......! 体が言うことを聞かない!)


全生物、睡眠と堕落には抗えない。

その頃、1歩......踏み出す男がいた。


比舎 竜成である!


竜成は全力を振り絞って、紫電に殴り掛かる。


(どこを間違えた......!? いや......違う)


紫電はなんとか重力壁を作り出すも......出力の低い状態で竜成に破られないわけがない。


「うぉらぁぁぁぁ!!!」


そして、この場にいる全ての思いを引き継ぎ、その想いの強さを紫電の心臓(ハート)に叩き込む!


「げはぁっ......!」


減速したとはいえ、直に食らった紫電は遥か遠くの地面まで運ばれ、


(家族も友達も恋人も他人ですら私から離れていって、妬ましかったんだ、幸せに過ごす奴らの顔が。それでも、私が私を捨てきれなかったんだ.....生まれ変われるのかな......私)


紫電は上に手を伸ばしたまま、目を閉じた。


「お......おぉ? おぉ!? 勝ったんだな!!! よっしゃぁ!!!」


ニコラスが雄叫びを上げて、喜ぶ。


「っ......勝ったんだな......!」


竜成には密かに達成感が体を伝う。


「あれ......? もう、終わってる? かふっ」


秋有は身を屈めながら、血を吐き出すが、手の力が抜ける。

誰もが、この戦いが終わったと思った。



「ぐふぃっ......は?」


突如、ニコラスの心臓が光沢がある黄色い爪のような何かに貫かれた。


辺りの静寂が自身の鼓動にすり変わる。

全身に降りかかる悪寒が、その場にいた全員に知らしめた、戦いは終止符が打たれたのではない......これからなのだと......


ただ、この絶望感、竜成は1度味わったことがある。











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