誰かにとって最高な日-色-
店の近くの爆炎が全てを包み込もうとしていた。
「皆、行くぞ!」
「はい!」
寿司トリオの1人と平井が奮起して、その爆発現場へ向かう。
(明らかにこれは敵の罠だ、賢くなくてもそれは分かる。どうする? 行くか?)
竜成はそう考えていながらも、体はそれを拒んだ。
「雨鴉さん! ニコラスさんを起こしといてください! 秋有もだ! 俺たちのことは良いんで!」
「タツちゃん、トキちゃんは......あ、行っちゃった」
雨鴉はそれを見守るしかなかった。
竜成は寿司トリオと平井の後を追って、店の裏口から抜け出していた。
目標への距離は近く、150メートルほど。
(くっ! あの人たち、速いってもんじゃないな......足手まといにならないようにしなきゃだな)
皆が到着するが、そこには案の定、罠が張られていた。
そこには協会の者たちがうじゃうじゃといたのだ。
「あらぁ、こんな雑魚たちとガキを殺すだけで幹部昇進かぁ......美味しいなぁ」
その1番前にホワイトマスクを付ける男が竜成らを舐め回すように見つめていた。
寿司トリオと平井、竜成は足を止める。
「お前らは何の目的があって、こんなことをしたんだ?」
既に竜成の拳には『恨』が装填されている。
「あれ、リストには君は載ってなかったんだけど......新人?」
「俺の質問に答えろよ」
「幹部になったら、裏社会である程度の地位を得れるんだよ。だから......死んでね」
ホワイトマスク男がすぐに煩能を解放すると、爪の先から更に輝く空色の鋭い爪が出てくる。
その言動とともに協会員らが走り出す。
奴らの猛攻を寿司トリオと平井が防ぎ、交戦する。
「遊ぼう?」
ホワイトマスク男が竜成に躙り寄る。
「ッ!?」
(この雰囲気......前の強盗の数段上......!)
強烈な殺気を浴びて、竜成の手の動きが固まった。
「竜成くんはあいつの時間稼ぎをお願い! 雑把を倒したら、私たちが助太刀するから!」
平井はそう言うと、横へ走り、取り巻きの顔面を殴りつけた。
「よぉ......かかってこいや」
怯えた様子を見せながらも、威勢だけは立派であった。
「僕の昇進のために......!」
ホワイトマスク男が左腕を振りかぶる。
竜成は咄嗟に『恨』を挟み込んで防ぐも、衝撃で少し後ろに下がってしまう。
「じゃあ、てめぇは俺の踏み台になってくれよ!」
前へ加速し、黒を纏う右拳を繰り出す。
「威力だけは高そうだけど......機能性はイマイチかなぁ?」
奴は跳んで攻撃を躱すと、逆さまの状態で竜成の背中を✕に裂き、また、垂直に立ち上がった。
「ぐぅあ......」
(なんだこれ......)
竜成の背中は焼けるように熱くなった。
その爪が深く竜成を切り裂いたのだ。
そして、男がその奥にある店へ入っていく。
ただ、そこには秋有と雨鴉がいる。
(まずい......!)
竜成は痛みよりも仲間を優先するが、圧倒的なまでに実力不足であった。
「2人ともリストにいる! 昇進だぁ!」
ホワイトマスク男は、にたぁっと不気味にほくそ笑むと2人に爪を向ける。
「『睡』」
その言葉とともに緑色の円が現れ、敵がそれを踏むと、猶予なくして膝から崩れ落ちる。
(油断した......な)
男は動けない。
当然だ、体を倦怠感と眠気が蝕んでいるのだから。
「こいつらを無力化して、俺は早く寝るぜ!」
今の今まで眠っていたニコラスが目を覚ました。
「ニコラスさん! 加勢お願いします!」
「おうよ! 任せんしゃい! よし、皆。下がれ!」
ニコラスの指示通り、寿司トリオと平井は後方に移動する。
途端、緑色の円が複数顕現し、雑踏たちがばたばたと倒れてゆく。
「雨鴉さん、行きましょう!」
「ヒラちゃんは救助を頼むわ!」
平井と雨鴉が燃え広がる炎へ人を助けようと突っ走る。
その時に雨鴉がさりげなく、竜成の背中に唾をつけた。
「あっ、傷が.......ありがとうございます!」
「まぁ、雨鴉さんに任せときゃ、怪我人の心配はねぇ。だから、俺たちは目の前のことをしようじゃねぇか」
「勿論だ!」
------サイトと美付子の方にて。
「人間イコール雑菌」
「除菌しなきゃね」
マスクの男たちが白色の刀を構える。
「じゃあ、お前らも除菌だな」
サイトが冷酷に2人を睨む。
美付子は他の協会員たちの方を向いていた。
「邪魔よ。『悔』」
美付子に両拳に緑色で光沢を持つボクシンググローブが嵌められていた。
そして、突進して来る協会員たちを殴り、殴り、殴りまくる。
まるで、サンドバッグを扱うように。
(心配無さそうだな)
「槍は剣の3倍と言うが、斧はどうだろうな?」
サイトは斧に『忿』を纏わせて、赤へ染め上げる。
「雑菌が喋るな」
「死は最高の除菌なのだ」
2人が左右に別れると同時に刃を横へ放つ。
「怒りはな、無限なんだよ」
憤怒が繁殖し続けると、サイトは『忿』を胴体に付けて、斬撃を防ぐ。
「なっ、雑菌の癖に」
「神聖な刃が穢れる」
2人共々、後ろに跳んで距離を取る。
(おそらく、能力は刀を生み出すだけだな)
「じゃあ、少しダーティーに行こうか......」
サイトは斧を左の奴に投げると同じくして、前へ全力で前進し、左の奴の眼前に移動する。
「げはっ......!?」
そして、躱した先を見越して、『忿』を纏わせた右脚で左の奴の腹を蹴り抜いた。
「雑菌めが!」
すると、片割れがサイトへ刀を振りかざす。
「美付子さん、チェンジ」
マスク男が2人のコンビネーションを披露したようにサイトと美付子は持ち場を入れ替える。
続いて、美付子が右腕を引き、片割れの顔面を撃ち抜いた。
「がふっ......」
ジムの協会員たちが立ち上がることはなかった。
------田中の方は。
「化け物だな!」
(ゾクゾクしちまうぜ......!)
巻宮が目にしたのは自分以外が切り倒されている状況だった。
その倒れた体を踏みつけて、田中が巻宮の下へ行く。
「情けはない」
しかし、田中が駆け寄ろうとした時、巻宮の姿が消える。
「こっちこそ!」
なぜか、巻宮は田中の後方にいた。
そして、右拳を振りかざし、その一撃を田中にお見舞い......するはずだった。
(え?)
拳がすり抜ける。
いや、違う。
眼が捉えきれない。
田中の動きを。
来る。
でも、躱せない。
瞬きする間もなく、巻宮は田中の左パンチを食らい、近くのビルに顔を出して気絶した。
「消えた時点である程度、分かる。スピード特化かワープかってな。答えは後者だったようだが。さて、ひと段落ついたか」
これにて町に現れた協会員は全て蹴散らすことが出来たと思い、皆、安堵した。
------しかし......生明だけはそれを見て、笑っていたのだ。
「まだ、この惨状は前座に過ぎないよ。ここからが大目玉だ。あいつらの目ん玉に忘れられないものを焼き付けてやる。俺の幸せは俺以外の不幸なんだよ」
まるで、水面下に浮かぶカイマンのようにこの現状を見定めていた。
------ジムにて。
「美付子さん。お疲れ様です」
「サイト君こそ。戻ったら、ビールでも呑みましょう」
2人とも、能力を解除している。
「それより、ニコラスたちが心配です。加勢しに行きま」
サイトが竜成の方へ行こうとした時、ジムに隕石の如く落ちてきたものがあった。
天井を貫き、地面にはクレーターが出来ている。
「は?」
サイトたちが唖然とすると、
「やぁ、ハッスルしてるか!」
サイトの身長の2倍はあろうかという巨体にゴリラ並......いや、それ以上の筋肉量を誇り、褐色肌で頭がツルツルの男が両の上腕二頭筋を隆起させる。
幹部、室 昂大である。
(明らかに異常......すぐ、倒さないと......!)
「『悔』!!!」
すると、美付子の両拳に緑色の光沢が付いたグローブが装着される。
そして、拳を引いて一気に振り抜く。
初っ端からの右ストレート!
シュッ......スバン!!!
......だが、その拳は腹筋を貫くどころか、皮膚にさえ通っていなかった。
長年使ってきた能力がこの一瞬で無に帰したのだ。
美付子の額には汗が集まる。
「良いパンチだ! が、惜しい! お前は俺と最強の闘いを見て学ぶと良い!」
美付子を右腕でラリアットして空の彼方まで吹き飛ばすと、自分自身も地面を抉るほどの跳躍で田中へ向かった。
「なんだあの、怪物は......」
サイトの体は震えていた。
その時、横から奇妙な雰囲気が漂う。
「はぁ......なんでこうなるんだろう。まぁ、一応来てて正解だったかな」
サイトの目の前に現れたのは黒いパーカーを着て杖を持つ白髪の男......幹部、百目鬼 凱十である。
「おい、お前は幹部か?」
「うん、さっきの筋肉ダルマもね。大丈夫、安心しなよ。今日でフクシマ支部は瓦解するんだから」
凱十は童顔で悪役のように笑って見せた。
「これで3度目だ......そろそろ、行かせてくれよな」
瞬間、サイトの斧が真っ赤に染まった。
怒りは最高潮である。
サイトは上半身の力を抜き、低い姿勢を取った。
「行かせるわけないよね。『忘念』......」
すると、杖から白く細い光線が放たれる。
(速度は並、連射しないことから鑑みるに効果は絶大......まぁ、本体を叩けば、済む!)
サイトはそれを躱し、凱十に赤の斧を振り下ろす。
凱十が斧撃を避けた瞬間、
「出せるのは1つだけだと思い込んだね」
幾百もの光線が四方八方かつ縦横無尽に広がっていき、サイトを襲う。
(無理だろ......これ)
その1つにサイトが当たった途端、撃ち抜かれたかのように地面へ崩れ落ち、そのまま、動かなくなった。
------続いて竜成らの方。
「俺たちもあっちに行きましょう、ニコラスさん!」
「おう......ん?」
しかし、2人は妖しげな気配を気取り、上を見上げる。
「雑魚どもは良いとして、幹部候補がこのざまか......」
竜成たちの前に橙の髪を持ち、所々穴の空いた毛皮の服を着る女が空中を闊歩して現れる。
新谷 紫電......解放協会の幹部だ。
「誰だ! お前は!」
ニコラスは臨戦態勢に入るが、視界は一瞬で地面に叩きつけられる場面に転換した。
(重い......体が動かねぇ......)
ニコラスがどれだけ足掻こうとも、1ミリも動かない。
「ニコラス・ハルバー、あんたの能力は厄介だから、封じさせてもらったよ」
「邪魔だ!」
「退け!」
「仲間に手を出すな!」
寿司トリオが紫電の背後で跳んで、ナイフを突き刺そうとする。
「仲間思い。妬ましいな......!」
紫電が振り返ることはない。
「「「がぐっ......」」」
すると、寿司トリオは空中で見えない手に掴まれたかのように押し潰され、血を撒き散らす身体が歪んだ。
(クソッ......声までもが潰される......!)
ニコラスは大きな声をあげようとするが、この圧でたちまち消えてしまう。
「なるほどな、重力を使ってんのか。ロマンあるよなっ......っ!」
「きゃっ......!」
拳を放とうとするより先に竜成と秋有が重力で抑えられる。
「カップルかぁ......? 私にゃ出来なかったのにぃ!」
紫電は苛立ちから頭を掻きむしる。
なんの因果か、その僻みが重なる度に重力の重さが増す。
「カッ......プ、じゃ......」
竜成は反論しようとするが、肺も大気も狂い、はっきりと言葉が出ない。
(どうしよう......! どうしたらいいの......? どうやれば? どうやったら!? どうして......)
秋有が有り得ないほどに焦り始める。
明らかに組織向きではなかった。
だが、その感情とともに沈み込んでいたものが噴火した火山が如く、吹き出す。
「じゃあ、そこで大人しく寝てな。雨鴉を殺さなくちゃならないからね」
紫電は淡々と述べ、ポケットに手を突っ込んで雨鴉を狙おうとしている。
しかし、嫌な予感がして紫電が振り返ると、そこには灰色で光沢のある、執事の格好をした何かがいた。
(っは。これが秋有の能力......!?)
竜成はまじまじとその執事に似た何かを見ていた。
「はっ......面白くなりそうだ!」
紫電は下卑た笑みに加えて、拳を鳴らす。




