瞋る者
「デッカ......」
「単なる飾りだ」
田中が左の方へ行くと、何処にでもあるようなスイッチが置いてあった。
カチッ。
音がしたすぐ後、巨大な扉が地震の如く揺れながら、開き始める。
隙間からの光がこちらを覗いた。
「それで開くのかよ!」
と言いつつも、竜成の手は震えていた。
辺りは静寂に包まれる。
すると、田中が前に出て、竜成にも来るよう手で促した。
(この先に俺を変える何かがある......はず!)
竜成はそう言い聞かせ、緊張を解き、田中の後ろを歩く。
完全に開くと、そこは明るい灰色の石の空間に成り代わった。
机なども置かれているが、中央は広々としている。
他にも部屋があり、木の扉が左に1つ、右に2つ、奥に3つあった。
「正俊、あんたが誰かを連れてくるなんて珍しいねぇ」
白衣を着る妖艶な青髪の女が左にある机に寄っかかっていた。
「何分、人手が足りてないからな。それより、治療だ。まだ、完全に癒えてない」
「なら、私に任せな! ......坊主! 私は雨鴉! 一応、医者よ! とりあえず、座って」
「は、はい」
竜成は気圧されて、丸い座席に座る。
田中がその隣を立ちながら、ショットを呑み干す。
「どれどれ......」
竜成は制服を脱がされ、まじまじと体を見つめられる。
「うっ......!」
(めちゃくちゃ、恥ずかしい!)
竜成の顔は羞恥心から火照っていた。
「このぐらいなら、唾付けとけば治る!」
雨鴉は舌に人差し指を当てて、表面を濡らし、それを竜成の体にべっとり付けた。
「うわっ! ばっちぃ!」
竜成は衝撃的な出来事で立ち上がる。
「ばっちぃとはなんだ、ばっちぃとは」
明らかに原始的過ぎる療法......が、しかし。
たちまち、竜成の傷がみるみると消えていったではないか。
「あれっ、消えって......」
「当たり前だ! だって、私は医者なんだからね!」
雨鴉は自身ありげに腕を振り上げた。
「あまり、大きい声では話せないが、あれが雨鴉の能力でな。世間に無知過ぎるが故、なんでもありって感じなんだ。到底、医者とは言えんがな」
田中は竜成の耳元でそう言った。
(そんな感じのもあるのか......)
竜成は無言で頷く。
「雨鴉。こいつを今から、サイトに会わせたいんだが、どう思う?」
「どうって......良いんじゃない? サイちゃんならある程度は指導出来るでしょうし。ただ、疲労とか精神とかは治ってないから、ほどほどにね」
雨鴉は机に頬杖を突いて、答える。
「じゃあ、また仕事して貰うことになるが、頼んだ」
「ちょっ!」
田中は竜成の右腕を軸にして背負い、ある部屋まで移動した。
「あいよー」
雨鴉がその光景を見守る。
田中は右にある木の扉を蹴り開けると、竜成を地面に投げ飛ばす。
「いって......」
竜成はその衝撃で尻もちを突く。
「後はほどほどに任せるぞ」
田中は強く扉を閉め、この場を後にする。
「立て」
その部屋には1人の男がおったようで、黒の長髪を目より下まで纏わせている。
斧を両手で握り、鋒を竜成に向ける。
「なっ! 仲間だぞ!」
竜成が立ち上がりざまに壁へ体を寄せる。
「周りを見て分からないか?」
竜成が辺りを見渡すと、大きな藁人形や木で出来た的が端にあった。
「つまり、ここで能力を解放しろってことね」
「あ? お前、能力持ってないのかよ! 聞いてないぞ......!」
サイトはテンパった。
「えっ、と。てっきり、知ってるもんかと。田中さん、連絡取ってそうだったから」
竜成は軽く礼をする。
「......扱いが雑だな、本当に。まぁいい。とりあえず、かかってこいよ」
サイトは斧を低く構えた。
「てことは戦えば能力貰えんのか?」
「素質もあるが、感情を引き出さなきゃ、能力は生まれない。全力で来い」
「分かった......じゃあ、お言葉に甘えて......うおぉぉぉ!」
竜成は右拳を振りかぶり、思い切りに殴り掛かる。
しかし、サイトが容易に回避し、斧の柄で竜成の胴を突いた。
「ぐっ......ぅ!」
(細身なのに、なんて力だよ......っ!)
その威力でもう攻撃する余力は消え失せる。
「貧弱だな、能力を使うまでもない」
サイトは明らかに竜成を下に見ている。
「うぅ......ああ、弱ぇよ。だから、俺はここに居るんだろうが」
竜成は真っ直ぐな目で奴を睨みつけた。
「......なるほどな。とはいえ、こんな程度なら......両親は死んでも死に切れねぇだろうな!」
「あぁっ......!!??」
瞬間、竜成の頭の中に両親の死に姿が浮かぶ。
あの嗚咽のする臭いと自分の不甲斐なさが描かれた地獄絵図だ。
そして、その両親を殺した相手をサイトと重ねる。
煮えたぎる怒り、爆発するような恨みが全身を駆け巡る。
その怨恨が脳を焼き尽くしたかと思えば、右の手の皮膚に熱く黒い何かが這いずり、指の第二関節に着くと、外へ染み出して、氷が如く冷たくなり、固まった。
その固まりが徐々に形を成していき......十数秒した後、それは黒いメリケンサックを創り上げた。
(これが......能力!?)
恨みが込められ、凝縮された至高の武器だ。
「おっと! 呑み込みが速ぇな!」
なぜか、サイトは憐れむような顔をした。
「てめぇは絶対許さねぇ!」
竜成が全身全霊の力をもって、拳を振り抜く。
「あえっ......?」
しかし、サイトはそれより速い蹴りを胸に放つ。
竜成は壁まで吹き飛ばされ、気絶した。
「このぐらいで良いだろう」
(ただ、よりにもよって、攻撃力全振りの装備型を引くとは運の悪い奴だ。とりあえず、田中さんに報告かな)
サイトがその部屋を出ると、扉の近くにいた田中に近づいていく。
「田中さん、装備型でしたよ」
「思ったより速いな。で、能力はどんなだった?」
「黒だったんで、恨みを源にメリケンサックを生み出すって感じですね。大ハズレも良いとこですよ。はぁ......」
サイトは溜息をつく。
「近距離かつ小型......か。逆を言えば、その分の威力は保証されているというわけだな」
「近づけなきゃ、意味ないですよ。田中さんぐらい動けたら......別ですけど」
「そうだな......この際、お前のバディにしよう。ずっと、欲しいって言ってたしな」
田中は話を区切って、自分の意見を押し付けた。
しかも、棒付き飴を頬張って食べながらだ。
「はっ......それ、マジで言ってます?」
「ああ。お前と同じ『属性』だし、武器を使うって点でも指導出来るだろ。これは決定事項だ、頼むぞ」
田中がサイトの肩に手を乗せる。
「あっ......応!」
(田中さんから任されたんだ......気は抜けないな!)
サイトの気合いは十分だ。
「さてと」
田中は雨鴉を先の部屋まで連れていくと、
「相変わらず、サイちゃんの辞書には手加減が載ってさそうね」
雨鴉が唾を付ける。
傷は癒え、竜成は少しして起き上がる。
「あれっ、俺......気絶して?」
(サイトは......どこにいる?)
竜成は辺りを見渡すが、サイトは当然居ない。
「兎角、能力を引き出せたようで俺は嬉しいぞ」
「私もよ!」
「サイトって奴、見つけたら教えてくれ。原型が無くなるまでボコボコにしてやるからよ」
竜成の目には本気でやるという意思が感じられた。
「何を言われたか知らんが、勘弁してやってくれ。非能力者と訓練するのは初めてだったんだ。多分、自分が覚醒した時の状況を使ったんだろうな」
「てことは、あいつも大切な誰かが殺されたってことか?」
竜成の眉が若干柔らかくなり、手に浮いていた血管は下に沈んだ。
「うん、兄がね......能力者に殺されちゃったんだって」
「そうなのか......」
(俺とほとんど同じじゃないか......)
「落ち込んでる暇も同情している暇もない。そんな時間があるなら、前を向いて進んで行く方がい......あ」
田中がワンコールで電話に出る。
「今、良いところだったんだが」
〈知りませんよ! こっちだって仕事なんですから! そっちの事情は後にしてくださいね......で、内容に入りますけど〉
怒号が響いたかと思えば、急に声が小さくなって、竜成には聞こえなくなった。
「竜成、初仕事だ。この付近で能力者と思われる強盗2人が現れたらしくてな。そいつらの捕縛をする。位置情報は都度こちらで確認する」
「俺に任せていいのか? しかも、2人って......」
(この能力で......人を救えるかもしれない)
竜成は拳を握った。
「いや、今回は俺と別のメンバーも行く。あと、敬語な」
「そのメンバーってサイトとか雨鴉さんとか?」
「ん? 私は行っても足手まといだからね〜と言っても、追いかける系のやつはサイトに向いてないから......」
雨鴉が首を横に振る。
「ああ、うちの基地、唯一の後方戦闘要員を......な」




