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煩能〜108の能力で闘う者たち〜  作者: のっぽ童子


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12/12

未来の未来

「んじゃ、もう用済みだからずらかるわ。じゃあな」


田中が監獄を後にする。


「なぜ、悪人口調......」


錨銛はきょとんとしていた。


------田中は黒のSUVに乗り、竜成を乗らせて拠点へ戻っていく。


(竜成も強化することに変わりないが、最優先はサイトだな。あいつは......化ける)


何事もなく、辿り着くと、車から降りて竜成をチョップで叩き起こす。


「ぶへぇ!」


竜成の心身はともに痛めつけられていた。

そして、早く帰ろうと竜成がドアノブを触れようとした時、


「よっす!」


中からバタンとドアが開き、竜成は吹き飛ばされる。

竜成が痛そうに尻をつく。

そんなことをしたのは、紫髪の男だ。


「もう着いてたか。今後、世話になる」


「良いですよ〜そんな堅くなくて! で、そちらは?」


男は明るい笑顔で接する。


「ぐ......比舎 竜成です......」

(これが海の重さか......)


竜成は今にでも、倒れそうだ。


「礼儀正しくて良いね〜ボクは未来いまきた 夢夢ぼうむ! よろしくぅ」


夢夢は変なテンションで話す。


(あれ......どこかで見たような......)


竜成は思考を巡らせる。


「よし、じゃあ皆に会いに行くか。ただ、今回の歓迎会はなしだぞ」


「ええぇ......まぁ事情が事情なんでしょうがないですよねぇ」


なにも言わず、夢夢が竜成を背負う。


「ありがとうございます......」


「これは一種の敬意だよ。君たちは未来を背負う人材だからね」


夢夢は軽口ながら、そう言った。


(おぶられたの、いつぶりだろ......父さんが子供の頃によくしてくれたっけ。天国で元気してっかな)


竜成は昔のことを思い出していた。

ただ、その過去に戻ることは出来ない。

仲睦まじい親と子は二度と食卓を囲むことはないのだ。


2人は階段を靴の音を響かせて、降りていく。

田中が門のような大きな扉をスイッチで、眼の前には雨鴉と秋有が迎えてくれていた。


「2人ともおかえり......って、なんで『予視』ちゃんがいるの?」


「あ、分かっちゃいました?」


「『予視』......あ! タレントの!」


竜成は様々な番組の光景を脳裏に浮かべていた。


「一応、本職は煩能軍なんだけどね〜」


夢夢の本職は煩能軍であるが、その裏の顔は二足の草鞋(わらじ)を履くどころではなかった。

モデル、トレーナー、動画クリエイター、神崎新聞社の記者、予見者系(※そんなジャンルはない)タレントなど様々である。


「ボクって有名人〜」


夢夢は眼鏡を押して、おちゃらけている。


「竜成、その怪我どうしたの?」


秋有がおどおどと体を震わせながらも、訊く。


「わっ、君可愛いね......それはそうと、田中先輩、どうなんです?」


夢夢は後ろを向いて、興味津々に目を輝かせた。


「あー、なんだ。犯人たちを引き渡した後、竜成が獄長に挑んで、ボッコボコにされた感じだな」


「「えっ」」


雨鴉と秋有が硬直する。


「度胸あるなぁ! ボクだって闘おうとは思わないのに」


「なんか俺から言ったみたいになってるけど、違うからな......!」


「とりあえず、お前は治療されとけ。夢夢、行くぞ」


「はぁい」


田中が訓練場の扉を軽く開ける時に夢夢が竜成を下ろすと、雨鴉は唾を付けるなりして、治療を施す。

2人とも訓練場への一本道を通る。


「ふんっ.......」


男の声が小さく木霊する。

それは2人が場に近づく度、


「ふんっ......!」


大きくなっていた。


「ふんっ!!!」


中へ入ると、そこには斧を縦に振るうサイトがいた。


「はぁっ......っ、はぁっっ.......」


サイトの体は汗に覆われ、足元には濃い灰色が滲んでいた。


「サイト、お疲れのところ悪い」


「いや、全然.......田中さん? その人は?」


「ああ、そうか。ラジオ派だったな。こいつは簡単に言えば......」


「なるほど。ここに来たってことは、つまり......俺の訓練相手ってことですか」


サイトが田中の言葉に割り込み、口角を悪魔のように引き上げる。


「そういうこと〜じゃあ、始めま......」


夢夢が左腰に掛けた鞘から刀を引き抜こうとした、その時、


「ただ、狭すぎるから、工事をさせて貰うが」


そう言い、地面を拳で貫通させると、それを壁・天井まで伝播させ、綺麗な長方形になるよう破壊した。

すると、小さかった訓練場は5回りほど大きくなる。


端に立て掛けてあった藁人形と的は崩れ落ちている。


(相変わらず、えげつないね)

「そうだな......じゃあ、3分あげる。その間、ボクは一切攻撃をしないし、1度でも攻撃を当てたら君の勝利ぃ......! いいね?」


「俺の憤怒(コンディション)は最高潮だ。いつ始めていいぞ」


斧から1滴が落ちる。

瞬間、手から這い寄る『忿』が斧を呑み込んだ。



「凄い音がしたけど、何してるんだ?」


竜成が顔を出す。


「良いところに来たな、一緒に行く末を見守ろう」


竜成は無言で頷くと、田中と同じように端へ寄った。


「よ〜い、ドン!」


夢夢が手を叩くと同時、サイトが縦に真っ二つするべく切りかかる......しかし、紙一重で夢夢は右に移動して躱す。


すると、サイトは切り返しを狙い、下ろした斧を横に一閃。

しかし、夢夢。

右に半歩。

しゃがみ。

脚が来る前に、彼はそこにはもういない。


「2分」


夢夢はのそりと立ち上がる。


(っく......回避の度にいつにでも攻撃してきそうだ......!)


どういう原理か、夢夢の一挙手一投足は全て回避・攻撃に繋がるようになっている。


サイトが焦りながらも、体勢を立て直す。

そして、斧で突きを繰り出した。

それも夢夢にとっては回避するに容易かった。



「不思議か?」


「うん......いや、はい。サイトさんの攻撃は俺が反応出来なかったものだ。いくら、四天王が強いとはいえ、こんな動きが可能なのかなって」


「あいつの煩能『不定(ふじょう)』は......未来を定める能力がある」


夢夢の本来の能力は眼鏡の具象化。

頭で攻撃しない限り、武器として使えない最弱性能。

しかし、諦めず、肉体・精神・能力を限界まで絞り上げることによって、彼は”未来”を手に入れた。


「1分」


ただ、能力は未来を覗くだけ。

戦闘能力は本人の力有りきである。


「ふんっ!」


サイトが負けじと袈裟斬りを仕掛けた。

この事象は攻撃が放たれる5秒前に夢夢が視た世界に存在している。

そして、余裕を持って、斬撃範囲の逆方向に夢夢が避けた。


「30秒」


すると、サイトの左脚が跳ね上がる。

その(すね)部分には『忿(ふん)』を纏わせている。


攻撃は当たるかと思われた......が、夢夢は既にサイトの背後に移動していた。


「20秒」


サイトは振り返りざまに斧の側面で夢夢を捉えようとする。

その時、斧が夢夢の体からすり抜けたように感じた。


「10秒」


瞬間、夢夢は死を纏う。


「チッ!」

(兄のため、ニコラスのためにも負けるわけには......!!!!!)


サイトは急いで、赤鬼を呼び起こし、防御面では万全だと確信していた。


夢夢が日本刀に手を掛ける。


「0秒」


キン。

シュッ......!


刹那、サイトの両眼に入ったものは......頭が首からずり落ち、横絶える様だった。


夢夢は刀身の血を払って、鞘に納めた。


......だが、実際にはサイトは何もされずに、ただ、気絶しただけだ。


「何をした?」


「こうなるはずだった未来を見せて上げました〜」


「雨鴉がいるから、怪我の方が良かったんだが......致し方なしか。ただ、精神病にでもなったら、洒落にならんぞ」


「良いじゃないですか。これで強くなるかは本人次第ですし、ボクって意外と仲間思いなんですよ」


そう夢夢は耳打ちして、外へ出た。


「ふん」

(病に侵されれば、戦線離脱で生き残り、強くなれば、それで良し......か。合理的ではあるが、倫理的ではないな)


田中はあれが強者だと言わんばかりに竜成の肩へ手を置く。


「俺......いや、俺たちってまだまだ井の中の蛙だったんですね」


「いいや、井底之蛙せいていのあが悪いわけじゃない。この事態は俺が平和ボケしすぎたせいで起こったんだ。全責任はどこまでも俺にある」


田中は何かを急いている様に見えた。


------廃工場アジトにて。


「生明さァん、集まりましたァ」


幹部と思われる薄汚い白髪の老人が刀を携えて、そう言った。


(協会員はこれで全員なのか......俺が想定していたよりも多いな)


生明は前と同じように部品が外れて壊れた溶接機に体を乗せる。


「協会員ども! 集まってくれたこと......感謝する ! 呼び出したのは他でもない。単刀直入に言おう......」


言いながら、生明が一歩一歩、着実に。

陽気に潜む殺気......しかも純粋な。


「手駒を増やすために......監獄を落とす」 


監獄は機密情報、簡単に割り出せるわけがない。

しかし、生明の言葉には謎の信頼性が孕んでいる。


(年単位かかろうとも、やって見せる......!)

「ただ......その間、煩能軍の攻撃が止むわけじゃない。だから、遊軍として幾らかのメンバーは動いてもらう」


その案にほとんどのメンバーはキレた。


「そこはボスがなんとかやれよ!」

「やりたかねぇ!」

「ビビってんなよ!」


その際、持ち込まれたゴミを投げつけられたりするが、生明は微動だにしない。


「じゃあ......今......死ぬか?」


刹那、圧倒的な絶望感が一同の心を抉り取る。


「お前らを監禁して、感情を殺し、自我さえも失わせることも出来るのに、わざわざ、自由にさせてるんだ。自分の存在に感謝しておけ。計画はまた連絡する」


それだけ吐き捨てると、生明と幹部連中は裏口から出ていった。


「イカれてる......!」

「入るんじゃなかった!」


今、後悔しても意味はない。


「はっはっはっ......! 凄い圧やんなぁ!」

(いつか、隣に立ちたいのぉ!)


ただ、その淀んだ空気の中、緑髪で関西弁の男が不敵な笑みを浮かべる。

今後、この男が煩能軍を揺らがすことになる。

それを知る者は誰としていない。

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