〇ース・ベイダー日本転生(仮)EP13
第13話:疾走する影、中学校の檻
春風が吹き抜ける小熊市の真新しい中学校の校門に、零は一人立ちすくんでいた。真新しい制服は、零の体に少しだけ大きかった。それは、希望と不安が入り混じった、未来への不確かな予感のようだった。隣には、零と同じ中学校に進学した高戸英一が、彼のトレードマークである無邪気な笑顔で立っている。
「零!ついに中学生か!なんか、めっちゃワクワクするな!」
高戸の声は、まるで弾むボールのように軽やかだった。しかし、零の心は、どこか鉛のように重かった。小学校時代、足が速いことで得た優越感と、それによって失ったもの。特に、あの雨の夜の出来事は、零の心に消えない傷跡を残していた。秋山貴嗣への後悔は、零の内側で静かに燻り続けている。あの夜、彼の存在を無視し、一番になることだけを考えていた自分。それは、零の心に、ベイダーの影が忍び寄る最初の兆候だったのかもしれない。
「零、早く陸上部に行こうぜ!お前と俺が組めば、向かうところ敵なしだろ!」
高戸の声に、零は頷きながらも、彼の言葉にどこか違和感を感じていた。
「向かうところ敵なし」――その言葉は、零の心の中に潜む、傲慢なベイダーの囁きと重なった。一番になること。他者を圧倒すること。その衝動が、零の内に、再び渦巻くのを感じた。
陸上部のグラウンドは、朝日に照らされ、眩しいほどに輝いていた。
部員たちの熱気と、スパイクが土を蹴る乾いた音が響き渡る。零は、その熱気の中に、見覚えのある顔を見つけた。赤川鐵人だ。小学校時代、何度も零と激突し、互いにその実力を認め合ってきたライバル。零の目を見た赤川は、不敵な笑みを浮かべた。
「青山、久しぶりだな。お前のその足、どれだけ速くなったか、楽しみにしているぜ。」
その言葉は、零の中に潜むベイダーの力を、強烈に刺激した。
「一番になってやる。」零の心の中で、誰かの声が響いた。それは、零自身の声であり、ベイダーの声でもあった。
入部テストで、零は100m走を走った。
スタートの合図と共に、零の体から、これまで感じたことのない力が溢れ出した。それは、まるで漆黒の嵐が彼の背中を押すかのように、彼の体を突き動かした。タイムは、小熊市の中学生記録を遥かに上回るものだった。顧問の先生や、高戸、そして赤川も、その驚異的なタイムに言葉を失った。
しかし、零は、その勝利に喜びを感じることはできなかった。
勝利は、あまりにも簡単すぎた。それは、自分の努力で勝ち取ったものではなく、何かに憑りつかれたかのような、不気味な感覚だった。零の心に、ベイダーの自己憎悪が、静かに、そして深く浸透していく。
その日の午後、零は、小学校のグラウンドを訪れた。
そこには、かつて零が走っていた場所で、一人の少年が一人で練習をしていた。それは、零が小学6年生の時に所属していたスポーツクラブのコーチ、尾茂企志だった。尾茂は、零の潜在能力を見抜いていた指導者だった。
「零、久しぶりだな。」
尾茂は、零の顔を見て、何かを感じ取ったようだった。
「お前のその速さ、何か、無理をしているようだな。」
尾茂の言葉に、零は思わず息をのんだ。彼には、零の内に潜む、ベイダーの存在が見えているのだろうか。
「一番になることが、そんなに大切か?」
尾茂の問いかけは、零の心に深く突き刺さった。それは、まるでベイダーの問いかけに対する、もう一つの答えを求めているかのようだった。
零は、中学校という新たなステージで、ベイダーの力と向き合い、本当の強さとは何かを探し求める旅に出ることになる。それは、孤独な戦いであり、同時に、仲間たちとの絆を再確認する、重要な旅となるだろう。
次回予告:第14話『漆黒の疾走、友との葛藤』
「お前のその力は、お前自身を破滅させるぞ!」
赤川の叫びが、零に突き刺さる。
陸上部で、零は、ライバルたちと激しくぶつかり合う。しかし、零の力が、ベイダーの闇に支配され、暴走を始める。友情と、勝利への執着。葛藤の中で、零は、何を犠牲にするのか?そして、その時、零の前に現れた、もう一人の憑依者とは?
漆黒の影を纏い、少年は、光を掴みとれるのか。