〇ース・ベイダー日本転生(仮)EP12
第12話:零の旅立ち、卒業の空
第12話:零の旅立ち、卒業の空
小熊市の小学校は、桜の花が散り始める頃に卒業式を迎える。零が小学校を卒業する日も、例に漏れず、薄紅色の絨毯が校庭を彩っていた。卒業証書を胸に、零は、どこか浮かない顔で校門をくぐった。彼の隣には、同じ中学校に進むことになっている高戸が、零とは対照的に、目を輝かせて立っている。
「零、早く新しい制服着てバスケやろうぜ!俺、もう待ちきれないよ!」
高戸は、小学校の体育館で零と出会って以来、零の足の速さと運動神経に憧れ、いつも一緒にいる存在だった。彼は、まっすぐで、迷いがなく、零が持っていた優越感とは全く違う、純粋な憧れを零に向けていた。しかし、零は、どこか遠い目をして、高戸の言葉に耳を傾けていた。
中学校への進学は、零にとって、期待と不安が入り混じった、複雑な感情だった。新しい環境、新しい仲間、新しい自分。それは、これまでの自分をリセットし、一からやり直せるチャンスでもある。だが、それは同時に、これまで築いてきた仲間との別れを意味する。田中はプロゲーマーの夢を叶えるため、別の学校のeスポーツクラスに進むことが決まっている。伊藤は、家族の仕事の都合で、遠く離れた街へ引っ越す。そして、秋山は……。
あの日、雨の中で秋山を見捨てた自分。その過ちを、零は今も後悔している。まるで、人生という映画の、最も重要なシーンを、自分のわがままで台無しにしてしまったかのように。零は、心の中で、あの夜の自分に問いかける。——お前は、何を急いでいたんだ?たった一つの限定グッズのために、かけがえのない友情を、簡単に手放そうとしたのか?
零は、映画『スタンド・バイ・ミー』の主人公、ゴーディの言葉を思い出す。ゴーディは、親友のクリスとの別れを悲しみ、しかし、その友情を胸に、大人への階段を登っていく。零もまた、秋山との友情を胸に、新たな道へと歩み出さなければならない。
零は、決意を胸に、高戸に笑顔で応えた。
「ああ、もちろんだ。でも、その前に、少しだけ、一人になりたいんだ。」
高戸は、零の表情から、何かを感じ取ったのだろう。何も聞かずに、ただ静かに頷いた。零は、校庭を抜け出し、小学校の裏にある公園へと向かった。そこは、零が一人で足の速さを磨き、そして、陽菜と出会った、彼にとって特別な場所だった。
公園のベンチに座り、零はスマートフォンを取り出した。画面には、秋山との最後のメッセージが残っている。「イベント、楽しんでな。また、遊ぼうな。」零は、そのメッセージを見つめながら、涙をこぼした。
「零くん、どうしたの?」
背後から、優しい声が聞こえた。振り向くと、そこに立っていたのは、卒業式が終わって、私服に着替えた陽菜だった。零と陽菜は、近所に住んでいるため、これからも公園で会うことができる。陽菜の存在が、零にとって、どれだけ大きな支えになっているか、零は改めて実感した。
陽菜は、何も聞かずに、零の隣に座った。そして、零が落ち着くまで、ただ静かに寄り添ってくれた。その優しさが、零の心を溶かしていく。零は、陽菜に、すべてを打ち明けた。あの夜の出来事、秋山への後悔、そして、これからの不安を。
陽菜は、零の言葉を、静かに聞いていた。そして、すべてを聞き終えると、優しく微笑んだ。
「零くん、大丈夫だよ。零くんは、ちゃんと変わったんだから。もう、一番じゃなくても、自分に価値があるって分かったんだから。」
陽菜の言葉に、零の心に温かい光が灯る。そうだ、僕は変わったんだ。僕は、もう一人じゃない。零は、陽菜に感謝の気持ちを伝えた。そして、陽菜の隣で、零は、これからの自分について、ゆっくりと語り始めた。
自主自立とは、誰にも頼らず、一人で生きていくことではない。それは、自分の弱さを認め、大切な人を守るために、勇気を出して行動すること。そして、その過程で、自分の道を見つけていくこと。
零は、中学校という新たな旅立ちを前に、今、まさに、その一歩を踏み出そうとしていた。それは、不安と期待に満ちた、零だけの、かけがえのない旅だった。