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お飾り聖女、光の魔法使いに転職します!~輝くステージで世界を照らす~  作者: 綾野あや
第2部

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第17話 光の代償


 数日後、演奏会の打ち上げ会が開かれた。


「今回の演奏会、すこぶる評判がいいぞ! ハルのおかげだな!」


 ハハハッ!と上機嫌に笑うティトくんのお父さんに肩を叩かれ、私は照れくさく笑った。

 他のメンバーたちも頷き合い、自然と笑顔がこぼれる。

 テーブルには、それぞれが持ち寄ったいくつも料理が並び、達成感と喜びが和やかに満ちていた。ティトくんは、さっきからお肉ばかり食べているけれど――今日ばかりは誰も止めない。


 イル・スオーノの評判は瞬く間に広がり、次の公演を望む声まで上がっている。元々実力のある楽団ではあったけれど、さらに勢いがついたのは魔法演出の力も大きいのだろう。翌日からは、他の市民団体が魔法演出ができる魔術士を探し回るほどになっていた。

 

「ハルほどの魔術士なんて、他にいないだろうな!」


 他所に取られないようにしないとなぁ、とチェリストが呟く。ティトくんのお父さんが「契約書でも書くか」と笑いながら肩をすくめる。半分冗談、半分は本気に聞こえた。


「今回限りって、最初に言っただろう?」


 エジュオさんが口を挟んで、場がまたどっと笑いに包まれる。

 けれど、ティトくんのお父さんは「じゃあまた、来年だ!」と屈託なく笑う


 その希望のような甘い言葉に頷きたくなるのを堪えながら、少しだけ距離を置く。

 冬の間は冒険者が手隙になる――そんな理由づけがあったことを思い出しながら。


 無口だけど頼りになる魔術剣士のシグリードと、ちょっと覚束ないところがある魔術士ハル。聖女の魔法に憧れて、修行の一環として演出をすることになった。という、嘘をつきながら過ごしてきた。


 楽しい時間が続けば続くほど、心のしこりが大きくなっていく。

 本当はすべて打ち明けたい。けれど、そうしたらこの輪の中にはいられなくなる。


(――でも、それでも、私はもっと彼らと演奏会を続けたい)


 そんな風に思うくらいに、この場所が好きになってしまった。

 真剣に、楽しく、そして“音”に魂を宿す。それがイル・スオーノのモットーだ。

 分け隔てなく誰もが笑顔になってしまうのも、彼らの温かさがそうさせるのだろう。


「ハル姉ちゃん、これ、美味しいよ!」


「本当? どれどれ?」


 せめて――この時間だけは楽しもう。


 夢のようなひとときだった。

 誰かと空間を作り、喜んでもらい、自分たちも笑顔になる。

 クルブス侯がどう動くか、その結果がどうなるかはわからない。

 それでも、私は守りたかった。


 


 *




 翌朝。


 いつものように竜の塔で目を覚まし、身支度を終えた頃だった。


 コンコン

 

 珍しく扉をノックされて、妙なざわつきが生まれた。

 ロレッタさん以外が私の部屋を訪れることは、ほとんどない。


 もし来るとしたら――ただ一人。


「……アレク?」


 耳の奥で警戒信号が鳴り響いた。

 心臓が大きく跳ね上がって、冷や汗がつっと垂れる。


 バレた。


 絶対そうだ。そうに違いない。

 そう直感した瞬間、早鐘を打つように脈が激しくなって、どうしたらいいか右往左往してしまう。

 居留守を使うわけにもいかないし、シグリードに助けを求めるわけにもいかない。


 実のところ、作戦がバレたときのことは考えていなかったんだ。

 たった2か月。週に2、3回短時間不在なだけで、そこまで大事にならないだろう、と甘く見ていた。

 加えて、アレクはクルブス侯のこともそうだし、冬備えで手一杯だった。

 だから切り抜けられる――と思ったんだけど、現実はやはり厳しい。


(……いや、もしかして、違う理由かもしれない)


 クルブス侯が抗議を撤回したことで、外出の制限が緩む知らせ――その可能性もある。

 都合のいい期待に縋って、私は深呼吸し、無理やり笑顔を作って扉を開いた。


「おはよう、ハルカ。今日は寒いね」


 ニコリといつものように微笑むアレク。その表情に安堵の気持ちが広がった。

 けれど、その後ろに騎士団が数人控えているのが目に入り、血の気が音を立てて引いていく。


「えっと、どうしたの? 珍しいね」


 笑顔で返してみせたものの、アレクの表情はすぐに変わった。

 冷たく、鋭く、情け容赦のない為政者の顔。

 何を意味する表情か、考えるまでもなかった。


 一呼吸置くと、彼はためらいながらも決意を口にした。


「ハルカ、君は……城にいてもらうよ」


「どっ、どうして? 私は、なにも……」


 白々しい嘘をつくと、彼の瞳はさらに研ぎ澄まされる。


「君が悪いわけじゃない。だが、魔法演出が危険だと見なされ始めている」


「危険って……?」


「市民団体の練習室で、ボヤ騒ぎがあったそうだね」


「あっ」


 思わず声が漏れ、手で口を押さえてももう遅かった。

 まさか、ティトくんと練習していた時のことを、言われるとは思わなかったからだ。


「……誰かが傷ついてからでは遅いんだ」


 その言葉は、厳しいけれど正しい。

 今回が“ボヤ”で済んだからよかっただけで、本来なら大事故になる可能性もあった。

 木造の建築物が多い城下町では、あっという間に燃え広がる可能性だってある。


 それは魔法演出だって同じだ。

 光魔法だって、何かの弾みで誰かが怪我をする可能性だってある。


(全然、考えてなかった)


 自分の未熟さに苛立ち、奥歯を噛みしめる。

 あまりの情けなさに手が震えた。


「それに、こんなものが出回ったんだ」


 アレクが差し出したのは、新聞のような印刷物だった。

 そこには『聖女マルタエル降臨! 魔法の演奏会、開幕!』と大見出しが掲げられ、魔法演出の絵が紙面を飾っていた。

 そしてエジュオさんの新曲、クルブス侯との対立。ゴシップのように消費される文字。


「君の演出は、こんな安いものじゃない」


 首を横に振り落胆する表情に、焦燥感が募る。


「違う、私はそんなつもりじゃ」


「魔法も、君も、大切にしたかったのに」


 静かに告げられた言葉が胸に刺さる。

 そんなことを言わせるために、私は頑張ったんじゃない。

 ただ、自分のためにやったからであって、アレクは何も悪くない。


(あっ……)


 これは自己本位でやった罰だ。

 アレクだって、本当はこんなことを言いたくないはずなのに。

 悲しくて、辛い思いをさせているのは、他の誰でもない、この私。


「城に……連れて行ってくれ」


 騎士たちが頷き、私の腕を取る。

 小さく悲鳴を上げると、すれ違いざまに見えたアレクの表情が胸を抉った。

 怒り、悲しみ、失望。

 複雑な気持ちが入り交じり、それでも、私への慈愛だけは消えることない。

 

 それが余計に苦しい。


「……薄明竜にも説明してくるね」


 一歩、私の部屋に入るアレク。

 手にかけようとしている扉は、誰よりも私を信じてくれている竜がいる扉だ。


「っ、待って! シグ、彼は何も悪くない! 悪いのは私だから!」


「……そうか。勝手にいなくなったのは、君の責任なんだね」


「っ!」


「僕と、一緒に頑張ってくれる、って言ったのに」


 バタン。

 扉が閉まる。


 私はズルズルとへたり込んで、動けなくなってしまった。

 なんてことをしてしまったんだろう。

 

 悲しませるつもりなんてなかった。

 自分の居場所を取り戻したくて、ただ、それだけだったのに。

 

(でも……わかっていた。アレクを裏切ることになるって)


 それでも、優先したのは自分の気持ちだった。

 

 だって、魔法演出は、私だけの“光”だから。

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