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お飾り聖女、光の魔法使いに転職します!~輝くステージで世界を照らす~  作者: 綾野あや
第1部 閑話

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閑話5:手記

ロレッタ視点

 

 これも筆頭メイドになるための一環なのだろう。

 私、ロレッタ・カヴァニスは、竜の聖女の専属メイドの任命されたとき、そんな風に思った。

 

 ドルガスア竜王国には、守護竜がいる。

 実際に姿を見たことこそないが、牛の献上や、騎士団が塔を常時警備していることなどから、その存在は確かだった。

 

 私たちメイドにしてみれば、その竜を制御する聖女は“お飾り”のようなものだった。


 噂や口伝えで聞いてきた話だと、歴代の聖女は皆、竜に近づくことすらなかったと伝え聞いている。

 国を滅ぼす邪竜の傍へ進んで寄ろうとする者など、そもそもいない。

 王族や司祭などからは「聖女とは契約の要石のようなものであり、ただ我が国に“居る”だけでいい」と語ってきた。


 そのためか、先代の聖女は荒れに荒れたのだという。

 元の世界を恋しがり、当たり散らし、大騒ぎだったと筆頭メイド長から聞かされた。

 今回もこのようなことになるかもしれない――そう覚悟していた。


(まさか、全く手がかからないなんて)


 召喚されたハルカ・サエキ様は、大人しく控えめな女性だった。

 それだけでなく、竜の塔に住み、薄明竜の傍らにいるという異例の存在。

 日々、静かに読書に耽り、聖女として役立つことを探しておられるようでもあった。


 その穏やかさに助けられる一方で、私はどこか物足りなさを覚えたほどだ。


「椅子を2つもらえませんか?出来れば、その、クッション性があるような、ふかふかのものを」


 最初のお頼みごとが“椅子”だったなんて、誰が予想できただろう。

 部屋の椅子を日々持ち運んでいたのに、なぜ気付けなかったのか。

 慌てて用意してお渡ししたときの、ぱっと花が咲くような笑顔が忘れられない。


 その日を境に、彼女は少しずつ変わり始めた。

 聖女担当の式典長への報告にはアレクシウス殿下の名が加わり、さらには魔法演奏会の演出まで請け負うことになったときは、驚かされた。

 

(初代聖女マルタエル様の再来なのでは?)


 歴代の聖女にはなかった力によって、変革が訪れようとしているのではないかと、そんな期待に胸が膨らむ。

 そうして、それに応えるように彼女は精力的に活動を始めた。

 

 活動が増えれば、当然、お世話も増える。

 練習室までの案内、宮廷楽団との連絡、魔術士団から届く確認事項の山。

 城内業務こそできないものの、それらをこなすのは充実していて、どこか楽しかった。


「ロレッタさん、ごめんなさい。いつも色々と調整してもらったりして……」


「何をおっしゃいますか、ハルカ様。私は専属のメイドにございます。この程度のことができなくては、筆頭メイド候補として名折れです」


 ハルカ様はいつも申し訳なさそうに言ってくる。

 このような考えは不敬にあたるが――でも、その姿は“お姉ちゃん助けて”と訴えてくる妹のようだ。

 困ったことがあったら、自力で問題を解決してきたようにも見受けられた。けれど、この世界では通用しないと思ったに違いない。少しずつ人の手に頼る姿は、とても愛らしいものだった。


(それにしても――まさか、アレクシウス殿下が懸想なさるとは)


 視察とは名ばかりの、実質的な二人きりの外出。

 周囲が色めき立つのも当然だ。

 けれど殿下は“誰も彼女を城下町に案内していなかったんだろう?”と、視察のついでだったと制した。

 加えて「我が国は聖女をないがしろにしすぎる」と語られたそうだが、その声音には別の想いが滲んでいたと聞く。


 我が国の王子は、対極的な兄弟だ。

 華やかなアレクシウス殿下と厳めしいウィリオット殿下。

 お二人は異母兄弟であり、現王妃はウィリオット様の母君であらせられる。

 

 幼き頃は仲の良い兄弟だったと聞いたことがあるが、現在、水面下では派閥争いが起きている。

 アレクシウス殿下は革新的で、此度の留学もその一環だった。だからこそ、保守的な貴族たちからは、あまり良く思われていない。ゆえに、保守派なウィリオット王子を支持する声も少なからずあるのだ。


 そのような理由から、両殿下ともに婚約者を作っていないという噂がある。

 女性は政治の道具にされやすい。根がお優しいところは、兄弟そろって美点なのだが、周りの令嬢からしてみれば、相手にされないと憤慨されてばかりだ。


(ハルカ様は、どこか彼女たちと違う)

 

 健気で、真っ直ぐで、助言には素直に感謝を述べる。

 ありふれた行いが、なぜか彼女だと、それがとても魅力的に映る。

 殿下が心奪われたのも、当然、理解できた。なぜなら、すでに私がハルカ様に仕えられていることが、この上なく嬉しいからだ。

 ――聖女とは、こういうものなのかもしれない。


 御披露目式典の日、その思いは決定的なものとなった。

 彼女の周囲が少し煙たくなるかもしれない、とアレクシウス殿下から言われたとき、私は自然と背筋が伸びた。殿下から直々に告げられたこともそうだが、何よりもハルカ様自身に危険が迫ることはあってはならないことだ。

 彼女の道を遮るものなど、このロレッタ・カヴァニスが許さない。

 そう誓いを立てたのに、あろうことか彼女の身を危険に晒してしまった。


 そうして――彼女を救うために“薄明竜”が空へと飛び立った。


 天高く飛翔した、白銀の翼。

 あの圧倒的な存在が聖女のもとへ向かう姿に、これほど胸が震えたことはない。


「ハルカ様は、本当に竜の“聖女様”なのですね」


 異世界から来た、ごく普通の女性が――竜を人の姿へと変えた。

 これを聖女と言わずして、何と言うのか。


 きっと彼女はこれからも、竜とともに魔法でこの国の音楽を照らし続けるだろう。

 その道に力添えできることが、何より誇らしい。


「ハルカ様、これからもお仕えさせていただきます」


 ドルガスア竜王国に、聖女からの祝福があらんことを――。

第一部、ご愛読ありがとうございました!

2025年12月20日(土)より【第二部】が始まります!

毎日更新(完結保障付き)なので、是非ともブクマをお願いします。

また、それに伴いタイトル変更いたします。

新タイトルは「竜の聖女は、薄明の旋律を彩る~アイドルオタク、光の魔法使いに転職します~」です。

引き続き、どうぞよろしくお願いいたします。

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