閑話1:初交流①
第1部 21~22話の間の話。
魔術士団との初交流になります。
アレクシウス王子に案内されて、魔術士団の技術棟へ足を運ぶ。
中は用途不明の金属器具や薬品瓶、書物が所狭しと積まれ、混沌そのもの。明らかに仕舞う場所がなくて、廊下に置かれている状況だ。
けれど王子は気にも留めず、むしろ慣れた様子で歩を進めていく。
なぜ、彼と魔術士団を訪れたのか。
それは、四重奏演奏会の演出をする際に、プロジェクションマッピング風のものを作りたくなったからだ。薄明竜に相談すれば大抵の問題は解決してきたけれど、映像の投影だけは難しかった。
天幕を使う以上、一人で悩んでも仕方ない。そこで、アレクシウス王子に相談した、というわけだ。
(……新しい人としゃべるの嫌だなぁ)
ただでさえ、四重奏メンバーとの交流だけで手一杯なのに、これ以上、誰かと関わるのは気が引ける。
けれど、背に腹は代えられなかった。そして、餅は餅屋に聞く方が早いということで、魔術士団の技術棟へ出向いた次第だ。
やがて目的地である、団長室に到着。
すると、アレクシウス王子は扉の前で私を振り返った。
「大丈夫。心配はいらないよ」
柔らかな笑みに、胸の緊張が少しほどける。
国の魔術を支える人たちに会うと思うと、ドキドキしていたのだ。
王子様はすごいな、私のことは全てお見通しな気がする。
扉を開けると、廊下とは違って綺麗に整理整頓された部屋に男性が立っていた。
「お待ちしておりました、殿下。そして……こちらが、竜の聖女様ですね」
人懐っこい雰囲気が団長のレリオ・ベレンギさん。対照的に冷静な印象を与えるのが副団長のニコロ・スカルファロさんだ。
席を促されて、さっそく本題に入る。
事前にアレクシウス王子が私のやりたいことを軽く説明しておいてくれたようだ。
「演出の際に魔術を使う、という発想には驚かされました……。それに聖女様は、魔術ではなく“魔法”が使えるとお聞きしたのですが」
「あっ、はい。その……最近、ようやく“聖女の力”に目覚めたみたいで……それで使えるようになって」
空気が一瞬、ピンと張る。
この世界において、魔法と魔術の違いは大きいと薄明竜に習ったばかりだ。
その“魔法”を“聖女の力”と曖昧にした『嘘』を彼らは気づいているかもしれない。
喉奥に小さな針のような痛みを覚えた。
レリオさんの口元がわずかに動き、受け止めるような沈黙の後――アレクシウス王子がすっと割り込んだ。
「それでも魔法は万能じゃない。そうだろう?だから、頼みに来たんだよ。ね、ハルカ」
「そっ、そうです!」
レリオさんの表情がふっと緩む。
何かを飲み込むようにうなずくと「聖女様のお力になれるのでしたら、喜んで」と答えてくれた。
ほっと息をついても、少し心苦しかった。けれど私は、その感覚を押しこめて、演出の細部へと話を移した。 天幕と譜面台の明かりについても説明を始めると、だんだん自分のものに馴染んでいく。
と、同時にレリオさんの目の色が明らかに変わっていった。
「いい……すごくいい!面白そうだ、ニコロ、やろう!」
「言うと思いました。確かに天幕に景色を映すという試みは我々にはない発想ですね」
レリオさんは満面の笑みを浮かべて、ニコロさんも頷く。
つたない説明だったけれど、意図をくみ取ってもらえた上にかなり好感触だ。
アレクシウス王子とニコロさんは話を詰めるために部屋に残り、補助魔法と魔道具を作成することに長けた第四班をレリオさんから紹介されることになった。
*
「はぁっ、なんで!?今、忙しいのに!」
説明開始早々に怒鳴られて、胸が沈む。
第四班の班長・シルヴィオくんは、私とそう年の変わらない男の子だった。
レリオさんは苦笑しながら「聖女様、すみません。悪い子じゃないんです」と慌ててフォローを入れてくれる。
確かに、いきなり全く別の仕事を振られたら、誰だって嫌になるのかもしれない。
でも、時間がないのはこちらも同じだ。改めて内容を伝えると、ほとんどのメンバーが目を輝かせ始めた。
「団長、なんすかそれ!めっちゃ面白そうじゃないっすか」
「待って、何の術式を組み込む?投影ってことは、鏡魔術とか?」
班長が了承していないのに、もう動き出す人たちまでいる。
そんな仲間たちに背中を押されるように、シルヴィオくんも好奇心を隠し切れない様子だった。
レリオさんが「やらないの?」と煽ると、彼はバツの悪そうに顔をそむけ、頭をガシガシとかきながら答える。
「わーったよ!……で、いつまで!?」
「えっと、来月くらい……」
もっというと、あと三週間もない。
「はぁぁっ!?バッカじゃねーの!そんなの出来るわけ――」
「シルヴィオ!聖女様に何て口を!」
「ごっ、ごめんなさい!……やっぱ無理ですよね。えっと、別の方法を――」
私とレリオさんの声が同時に重なる。
しかも、両極端な反応だったので、シルヴィオくんも言葉を詰まらせた。
どうしようとレリオさんを見ると、彼は苦笑して肩をおろす。
そしてシルヴィオくんも考え込んだ末に、顔をそらしたまま呟いた。
「無理なんかじゃねーよ」
その声は投げやりに聞こえたけれど、かすかな熱が混じっていた。
「ってか、せーじょさまって、もっと偉そうに命令するもんじゃねーの?」
レリオさんが低く唸るように名前を呼び、彼を制止する。
確かに“聖女”は王族と同列に扱われ、命令できる立場にある。けれど、そんなことはしたくなかった。私自身、大した人間じゃないのだから。
そう思ったままを口にすると、シルヴィオくんは大きなため息をついて呆れたように言った。
「はぁ……お前みたいなヤツ、苦手なんだよな」
その言葉に、小学校の頃の記憶がよみがえる。
明け透けにズケズケと物を言う男子が、私は大の苦手だった。
正直に言えばいいというものではないのに――どうしてこんなことまで言われなきゃいけないんだろう。
それでも、天幕を作らなければ魔法演出は形にならない。
反論したい気持ちをぐっと堪え、私は魔術士団との道具作りが始めたのだった。




