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婚約破棄までの七日間  作者: たぬきち25番
婚約破棄までの七日間
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タイムリミットまであと【3日】


 陛下との面会は明日なので、今日は学園に行くことにした。

 学園に着いたが、特にいつもと変わらない様子だった。

 違うことと言えば、生徒が少ないくらいだろうか?

 王都以外の場所に婚約者がいる者は、卒業舞踏会で婚約者が王都に来たこの機会に、王都観光をしたり、食事に行ったりして学園に来ない者が多い。イリスとアンナも今日、明日は婚約者とゆっくりと王都を見て回るので学園に来ないと言っていた。


 王都デート……羨ましい。

 望んだところで相手がいないのだが……。


 溜息をついて教室に向かっていると、人気のない場所でエディが私の前に立ち塞がった。身体をずらして通り過ぎようとしたが、私が向かおうとした方向にエディが身体を動かした。


「ロゼッタ嬢、お待ち下さい」

「何か御用ですか?」


 私がエディを見上げるように尋ねると、エディが苦しそうな顔で言った。


「あなたに話があります」


 昨日のダンスの話だろうと思った。

 もうすぐ卒業式だという今、授業は受けなくても問題ないので話をする時間はある。

 だが、私が今のエディと2人で話をしてもきっと話にならないと思えた。


「……もうすぐ授業が始まりますので、失礼いたします」


 通り過ぎようとしたら、手を掴まれた。


「待って下さい」

「おやめください」


 必死に手を振りほどこうとしたが、ビクともしない。『怖い』『イヤだ』とそう思った時。


「何をやってるんだ!」

 

 誰かが私とエディの間に割って入って、エディから手を離してくれた。助けてくれてくれた人を見上げると、大きな背中が見えて、その後に顔が見えた。レオンだった。


「レオン様」


 私が声を上げるとほぼ同時に、エディも声を上げた。


「兄さん、どうしてここに?!」


 その時、カーン、カーンと始業を告げる鐘が鳴った。


「ロゼッタ嬢、大丈夫ですか?」

「はい。ありがとうございました」


 レオンにお礼を言うと、エディが慌てた様子で言った。


「申し訳ございません。私にも余裕がなく……」


 項垂れるエディを見て、私は息を吐いた。


「レオン様と3人でしたらお話をお伺いいたします」

「ありがとうございます」


 エディがお礼を言うと、レオンがエディに向かって困ったように言った。


「ここでは話も出来ない。移動しよう。よろしいでしょうか? ロゼッタ嬢」

「ええ」


 レオンの提案に私は頷きながら同意した。すると、エディが私たちを見ながら言った。


「では、裏庭園に行きましょう。今の時間、誰もいないはずです」

「わかりました」


 私たちは裏庭園に行くことにした。私を庇うようにレオンが、私とエディの間を歩いてくれた。歩きながらレオンがエディに向かって怒ったように言った。


「突然、女性の腕を握って話があるなど失礼極まりない。どうせ話と言うのも、『殿下を離すな』という自分本位な内容ではないのか?」

「……」


 まぁ、それは私も気づいていた。だからこそ、私が彼と話をしても仕方ないと思っていたのだ。殿下の心はすでに私から離れている。私にはもう――どうすることもできない。

 私が黙っていると、エディが苦々しい様子で口を開いた。


「……くっ……そう……です。ですが!! 最近、ロゼッタ嬢が殿下をお誘いにいらっしゃらないから、カルラは仕方なく殿下と過ごさなければならないのです!! どうか、カルラを殿下から解放してください。彼女は私の婚約者なんだ」

「正式に婚約している訳ではないと思うが?」


 エディの言葉にレオンは冷ややに言った。エディも言葉を詰まらせながら言った。


「そ……れは……そうですが……卒業したらすぐに結婚する約束をしています」

「それはどうだろうな? エディ、お前は先程、あの令嬢が仕方なく相手をしていると言っていたが、殿下とあの令嬢は、随分と懇意にしているようだぞ。学園内という公共の場で口付けをするくらいにはな」


 するとエディが、ピタリと立ち止まった。


「え? 口付けって……嘘だ!! 彼女はそんな子じゃない。私とでさえ、彼女は結婚してからしてほしいと言ってと、唇への口付けはしていないんだ。彼女は、令嬢としてわきまえている淑女なんだ!! 彼女を侮辱するなら、例え兄さんと言えども許せない」

「これは、許す、許さないという話ではない。私は事実を言っているのだ」


 ど、どうしよう!!

 レオンとエディがケンカ腰に話を始めてしまった。

 美形家族の兄弟ケンカ……怖いって!!


「とりあえず、裏庭園に向かいましょう」


 私は2人を促して少し急いで裏庭園に向かいとピタリと足を止めた。

 どうやら、先客がいたようだった。

 

 噂のアルベルト殿下とカルラだ。

 私が恐る恐る振り向くと、そこには青い顔むしろ、死人のように顔色を失ったエディが立ち尽くしていた。


「え……どうして……?」


 そしてエディが声にならないほど小さな声で呟いた。

 私たちがいることなど気づかない、殿下とカルラの2人は、以前レオンと一緒に見た時のようにイチャイチャラブラブしている。


「殿下……授業が始まりましたよ……? それにこんなところで……ん……誰かに見られたら……」

「ふっ、大丈夫だ。始業の鐘が鳴ったということはここに来る者はいない。それに卒業も間近なのだ。授業に出ずとも問題ない。それよりも……カルラ……好きだ、もっとその甘い唇を味わいたい」

「ん……殿下……」


 なんとも間の悪いことに、裏庭園では殿下がカルラをお姫様抱っこのように、殿下の膝の上にカルラを抱き上げてキスをしていた。


「カル……ラ?」


 その光景を見たエディは石像のようになっていた。

 それはそうだ。

 卒業したら結婚しようと約束していた女性が、他の男の膝の上に乗ってキスをしているのだ。

 間違いなく卒倒案件だ。

 まぁ……相手の男は、私の婚約者なのだが……。


「嘘だ……そんな……彼女が……くっ!!」


 エディは、一目散にどこかに走って行った。

 走り去る前の思いつめたエディの顔が浮かんでイヤな想像をしていまう。


 これ、放って置けない!!


「すまない、ロゼッタ嬢。私はエディを追う」


 レオンも同じことを思ったようだった。


「私も参ります。恐らく、エディ様は図書室裏に向かったと思われます」

「……そうですね」


 そして、私たちもエディを追って図書館裏に向かった。

 私の予想した通り、エディは図書館裏の大きな木のところにいた。


「よく、ここがわかりましたね」


 レオンと共にエディに近づくと、エディがこちらを振り返らずに声を上げた。


「ええ、お二人は、ここでよく密会されていたでしょう?」

「そうだな。殿下とは先程の裏庭園。クイール様とは、実習棟の裏のベンチ。そして、エディ……お前はここだ」


 私たちは、心を鬼にして真実を告げた。

 すると、エディが振り返り、肩を震わせながら力なく言った。


「なるほど……最近あなたが全く殿下に近付かないと思っていたら……全てお見通しだったのですね」

「そうですね。殿下のお気持ちを知って、これ以上関わるのは止めようと思いましたの」


 私の言葉を聞いたエディが肩を落としながら言った。


「……私と彼女は卒業したら、殿下とクイールの2人に結婚を報告しようと話をしていました。学園在学中に、恋人だと言ってしまうと、気まずくなると……。ですが……そうではなかったのですね……あなたが殿下から離れて、私たちの関係がおかしくなったと思っていたのですが……。そうではなかったのか……」


 ん~~そんな風に思われていたなんて……複雑な気分だ。

 私が手を引いたことで、四角関係が崩壊したと、エディは思っていたようだ。

 元々歪な四角関係だとは思わずに……。


「エディ。お前は、ロゼッタ嬢に感謝するべきだ。ロゼッタ嬢が素早く気づいて、対処してくれたおかげで、恋に盲目したお前でさえおかしいと気づけたのだ」


 レオンが厳しい口調で言った。

 エディは顔を片手で覆いながら言った。


「ええ……本当に……その通りですね。……騙されていたのか……私は……。彼女は、私を……私だけを……愛していると言ってくれた……のに……全てが嘘だったか。……怖いな……女性は。……全く気付けなかった」


 エディがポロポロと大粒の涙を流しながら泣いていた。

 私や、レオンがいるのも関わらず。

 ひとしきり泣いたエディは『お先に失礼します』と言って屋敷に戻って行った。


「恋を失うと、人はあれほどに悲しむのですね」


 よく考えたら、私はこれまで誰かを好きになってことはないのかもしれない。するとレオンが呟くように言った。


「ええ。苦しいし、つらいし、絶望して生きる気力が無くなります。ですが、エディは凄いですね。もう前を向いていた。私は――どんなに望みがないとわかっていても……あきらめることなど……出来なかったですから……」


 切なそうなレオンの顔を見るのがつらくて、私はレオンから視線を逸らしながら尋ねた。


「レオン様も……好きな方がいらっしゃるのですか?」


 レオンは、とても愛おしげに切なそうに呟いた。


「ええ、もうずっと、幼い頃からあきらめられずに思い続けている人がいます」


 私は思わず顔を上げてレオンを見た。

 レオンは泣いているように笑っていた。


 レオンにこんな顔をさせる相手がいる。

 私の胸は、アルベルト殿下とカルラのキスシーンを初めて見たとき以上に、大きく脈を打っていた。

 そして、胸の奥に鈍い痛みを感じていた。

 


 その後、私はレオンと別れて授業に戻ったが、ぼんやりとして全く頭に入って来なかったのだった。





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