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婚約破棄までの七日間  作者: たぬきち25番
婚約破棄までの七日間
2/17

タイムリミットまであと【6日】



  ――眠れなかった……。


 私はぼんやりとしながら、学園に向かう馬車の中にいた。

 昨日、アルベルト殿下ルートで貰うイヤリングを見たので、てっきりアルベルト殿下ルートに入ったと思っていた。だが、レオンの話だと、エディもカルラに誕生日プレゼントを贈っているようだった。


 これは一体どういうことなのだろうか?

 もう一度確認してみる必要があるだろう。幸い、あの4人とは同じクラスだ。いくらでも観察できる。学園に到着するとすぐに、取り巻き令嬢のイリスがあいさつをしてくれた。


「ロゼッタ様、おはようございます。お身体のご様子はいかがですか? あまりお休みになられていないご様子ですが……」

 

 優しく声をかけられて思わず泣きそうになった。だが、ここで泣くわけにはいかない。


「ご心配頂きありがとうございます。イリス様のおっしゃる通りあまり寝ていないだけですわ」

「ロゼッタ様は、王妃として学ばれることが多いですから……ご無理をされないで下さいませ」

「ありがとう、イリス様」


 イリスと話をしながら教室に入ると、アンナは先に来ていた。


「おはようございます。ロゼッタ様、イリス様」

「おはようございます。アンナ様」

「おはよございます」


 お互いにあいさつを交わして、席に着いて授業の用意をしていると、非常に賑やかな集団が近付いて来た。


「ふふふふ、本当にクイール様ったら面白い方ですわ」

「カルラを朝から笑顔に出来るなら、クイールも失敗した意味があるのではないか」

「殿下ったら、そんな風におっしゃってはクイール様がお可哀想ですわ」

「ああ、カルラはなんて優しいのだ!!」


 予想した通り、大きな声で笑いながら教室に入って来たのは、アルベルト殿下と、クイール、エディ、そしてカルラだった。しかも彼らのすぐ後ろには教師がいた。時計を見ると始業時間ギリギリである。教師が異様にゆっくりと歩いているのは、殿下やクイール、エディの高位貴族がよりも先に教室に入ることを戸惑っているのだろう。例え教師と言えども、あのメンバーの注意をするは中々勇気がいのはわかるが……。

 彼らが席に着いた途端に始業の鐘が鳴った。


「では、始めます」


 彼らが座ったと同時に、教師が入って来て授業を始めた。


「(皆様、また直前のご登校ですわ)」

「(もう少し早く教室にいらっしゃるようにと、いつもロゼッタ様がご忠告して差し上げて居るのに……)」


 アンナとイリスが呟くように言った。


「(ええ)」


 私は、頷きながらも、もう一度、一番前の席に座るカルラの様子を観察した。


 緑色のイヤリング。

 黄色の指輪。

 白のネックレス。


 うわ~~~コンプリートじゃん。


 緑色のイヤリングは、アルベルト殿下ルートの証。

 黄色の指輪は、エディルートの証。

 白のネックレスはクイールルートの証。

 ゲームでは個人ルートに入っている人物から誕生日プレゼントを貰うというイベントなので、同時に3人からアクセサリーを貰うということはなかったと記憶しているが……それとも私がハーレムルートを見つけられていないだけだったのだろうか?! 折角DLしたのにぃ~~!! もう少しやり込めばよかった!!!

 過去の自分を責めても仕方ない。私は、もう一度あの4人を見ながら首を傾けた。

 ゲームではハーレムエンドがあっても問題ないが、現実にはそうはいかない。相手は、王子に宰相子息、騎士団長子息と高位貴族ばかりなのだ。カルラは一人しかいないので、みんなと結婚というのはあり得ない。


「(これって、一体誰のルートなの?)」


 それから、授業が終わり昼食の時間になった。イリスとアンナに食事に誘われたが、食欲がないと言って断った。私には、やることがあったのだ。

 授業が終わると、私はあの4人を追った。


「それでは、殿下、カルラ嬢、食事を持って参りますので少々お待ち下さい」

「いつもありがとうございます」


 彼らはいつも裏庭園のバラの下のベンチと机が用意された高位貴族の人間専用の場所で食事をしている。その後に、噴水前に移動するのだ。ちなみに……カルラと出会う前は、殿下と私はこの場所で一緒に食事をすることもあった。私たちは元々不仲だったわけではない。


 懐かしいな~~。


 そう思いながら木の影に隠れていると、アルベルト殿下がカルラの腰に手を回した。するとカルラも、アルベルト殿下の膝の上に片手を乗せた。そして、顔を近付けて親密な様子で話をしていた。


 あの距離感は、絶対に友達の距離感ではない。

 だって……。

 あの2人、今にも……。


「キスしそうですね~~~」

「ええ……。って、え?! レオン様?!」


 まさに今考えていたことを代わりに口にされて、同意はしたが、驚いて後ろを振り向くと、昨日会ったばかりのレオンがいた。ちなみに彼は2年前にここを卒業している。


「(し~~~)」


 レオンが人差し指を口に当てながら言った。


「(どうして、レオン様がここに?)」


 私が2人に背を向けて小声で、尋ねるとレオンが口を開いた。


「(昨日のあなたの様子が気になって……あ、キスした……)」

「(え?)」


 急いで振り向いたが、すでに2人は、エディとクイールが一緒に居た時に座っていた位置に戻っていた。するとすぐに食事を取りに行っていた2人が戻って来て、楽しそうに4人で食事を始めた。


「(この光景を見れば、あなたでなくとも婚約破棄を考えていると思いますね)」


 レオンが顎に手を当てながら言った。


「(ええ)」


 まぁ、こんなにもイチャイチャしていることは、今日まで知らなかったのだが、ここは頷いておくことにした。再び4人を観察していると、レオンが私の耳元に口を寄せながら言った。


「(ちなみに、ロゼッタ嬢はアルベルト殿下とキスの経験は……?)」

「(ありません!! 結婚前ですよ?!)」


 私が小声で怒ったように言うと、レオンが嬉しそうに笑いなら、私の頭に手を置いて、ポンポンと撫でてくれた。


「(そうですよね、失礼しました。どうしても気になったもので……今日は一日、この学園に入る許可を頂きました。ですので、あなたと共に現状を確認します)」


 レオンの言葉に私は、はっとした。

 今、彼は『私と一緒に』というようなことを言わなかっただろうか?


「(私と一緒にですか?)」


 私が不満そうな顔でレオンを見ると、レオンは輝く笑顔で言った。


「(はい、ロゼッタ様と一緒にです)」

「(わかりました……)」


 その後、私はレオンと一緒に彼らの動向を観察した。すると、アルベルト殿下と、クイールが剣の授業でいない時は、エディとカルラは図書館裏の人の来ない場所で、エディが木に身体を預けたカルラに壁ドン状態で、イチャイチャラブラブしていた。放課後、アルベルト殿下とエディが用事があるのでと先に戻られた後、これまた誰も来ない実習棟の裏でカルラがクイールを膝枕してイチャイチャラブラブとしていた。


 カルラとクイールから離れて、私とレオンは、図書館裏のベンチに無言で座っていた。


「……」

「……」


 まさか、ここまでだとは思っていなかった私たちは、互いに頭を抱えていた。


「これは……凄いですね……」


 大きな溜息を付いて、顔を上げたレオンが呟いた。


「そうですね」


 私がぼんやりとしながら答えると、レオンが私を見て真剣な顔をしながら言った。


「実は、私たちのような高位の貴族の子息というのは、学園在学中に婚約者以外の令嬢と懇意になっても、咎められることはないのです。もちろん推奨されているわけではないですけどね」

「え?」


 それは初耳だった。なぜなら、令嬢は絶対に婚約者以外の男性と懇意になることは許されないと教育されるのだ。


「ああ、やはりご令嬢はご存知ではないですよね? ですから、陛下たちのお耳にも届いているは思いますが……遊びだと捨て置かれているのだと思います。ですが……あくまで在学中の話です。皆卒業すれば、それぞれ家の決めた相手と結婚します。そういうものです。きっと彼らも卒業すれば、それぞれの相手と結婚します。まぁ、エディには決まった婚約者はいませんので、彼女と結婚するかもしれませんが……」


 私はジトリとレオンを見た。


「……レオン様も、在学中は婚約者以外のご令嬢と懇意になったのですか?」

「ここは『はい』と言って、あなたを安心させた方が良いのでしょうが、私は学園在学中はやるべきことが多すぎて、令嬢と親しくなる時間もありませんでした」


 そう言えば、レオンに婚約者がいないことはしばしば社交界でも話になる。


「そう言えば、レオン様はご婚約者様がいらっしゃいませんよね?」

「ええ。ふふ、実は私、あきらめの悪い男なので……」

「え?」

「いえ、私が婚約者を探せば、すぐに見つかってしまうでしょ? だから結婚したい時に、探そうと思っています」


 かなり嫌味な発言だが、実際にレオンが一言、『結婚して下さい』と言えば、どんな令嬢だって目をハートにして頷くだろう。

 レオンは、ベンチから立ち上がると、私の前に手を差し伸べた。


「どうぞ、ロゼッタ嬢」

「ありがとうございます、レオン様」


 私はレオンの手を取って立ち上がると、レオンが切なそうな瞳をむけながら言った。


「きっと、卒業したら殿下は、あなたを選びます。心配しないで下さい」


 私とアルベルト殿下の結婚には最初から愛だの恋だのという感情があったわけではない。

 あったのは――侯爵令嬢としての使命……それだけだ。

 大学生の記憶を戻してしまえば、そんな結婚悲しいと思うが、侯爵令嬢としての記憶もあるので、それは当たり前のことだというのもわかっている。


「……」


 私は、何も言えなかった。そんな私の頭にレオンは手を置くと、俯いていた私の顔を覗き込みながら言った。


「念のために、明日も学園に来ます。元々3日は許可を頂いているので」

「ありがとうございます」


 そのまま私は、馬車乗り場までレオンに送って貰ったのだった。






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