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婚約破棄までの七日間  作者: たぬきち25番
レオンSIDE 婚約破棄までの舞台裏
16/17

愛する人の婚約破棄まであと【0日】婚約破棄当日





 今日は、朝からそわそわと落ち着かなかった。夢にまで見たロゼッタのエスコート役だ。

 私は念入りに身なりを整えて、ロゼッタを迎えに言った。

 

「え? レオン……様、どうして……?」


 扉を開けると、ロゼッタ嬢の姿が目に飛び込んで来た。

 私はそのドレスを見て思わず絶句してしまった。


 そのドレスは、私が選んだドレス?!


 ロゼッタが着ていたドレスは、数ヶ月前に私が王妃殿下とロゼッタの母のリゼッタに言われて選んだドレスだった。


 数ケ月前。

 私は溜まった書類を持って、王妃殿下とリゼッタがいる王妃殿下の執務室へと向かった。王妃殿下は、少し離れた場所にある大国の出身で、小国であるこの国を発展させるために様々な国に足を運んでいるので滅多にこの国にいない。執務室に入ると、リゼッタが楽しそうに話かけてきた。


「あら? レオンくん久しぶりね。宰相のおつかい? わ~今回も多いわね……」

「ちょっと、リゼッタ。レオンはもう成人しているのよ。おつかいだなんて、そんな風に言わないの。お仕事ご苦労様、レオン」

「書類をお持ちしました」

「いつもありがとう」

「もったいないお言葉です」


 私は王妃様へ書類を渡した。


「そうだ!! レオンくんにも聞いてみましょうよ。ねぇ、今、娘のロゼッタのドレスを選んでいるのだけど、どのドレスが似合うと思う?」


 どうやら2人はロゼッタのドレスを選んでいたようだった。50枚はあるのではないかというドレスのデザイン画がテーブルの上に並べられていた。


「ロゼッタ嬢に……拝見します」


 ロゼッタに似合うと聞いて、私は真剣にデザイン画を見た。


「ふふ、レオンは真面目ね。アルベルトもそれくらい真剣に選べばいいのに……むしろ私に会いに来いっていうのよ!! 会いに行ったって邪魔者扱いされて……」

「会いたいなら、『会いに来て~~』って、アルベルトくんに言えばいいじゃない」


 リゼッタが王妃殿下に向かって、呆れた様子で言った。


「だってアルベルトったら、反抗期なのかなんなのか『今忙しいので』とか『私には時間がありません』とか言って、全然顔を見せてくれないところか、笑顔さえも見せてくれないんだもの!! ロゼッタはよく一緒にお茶を飲んでくれるのに~~!! はぁ~~男の子の母なんて、息子は全然構ってくれなくて孤独過ぎる!! ロゼッタみたいな娘が欲しい!!」

「ジルベルトくんだって、いるじゃない」

「ジルベルトは、アリアのことしか考えていないわ。私のところに来る時は『アリアに何か送りたいのですが、今の流行りはなんですか?』とアリアに贈り物する時だけなんだから!! アリアは、私のことを怖がっているみたいでお茶に呼びづらいし……。あ~~私にはロゼッタしかいない」


 王妃殿下とリゼッタが話をする横で、私は彼女にとても似合いそうなドレスを見つけた。


「これが似合うと思います」

「ああ、これ。確かにいいかもね。レオンくんセンスいいわね~~」

「アルベルトだって、お勉強ができないだけで、センスはいいんだから~~!! ああ、あの子にも選ばせたい」

「もう、アルベルトくんは、お勉強ができないわけじゃないって先生たち言ってるじゃない!!」

「勉強が出来ていたら、こんなに忙しい訳ないじゃない。現にロゼッタはよく顔見せてくれるもの。なぐさめはいいのよ。でも、このドレス似合いそうだわ。ありがとう、レオン」

「それでは失礼致します」


 ロゼッタが着ていたのは、あの時、私が選んだドレスだった。


 王妃殿下とリゼッタ様は本当に私の選んだドレスを彼女に贈っていたのか……。

 

 私はなんだかくすぐったい気持ちで、彼女をエスコートしたのだった。


☆==☆==☆==


 蓋を開けてみれば、卒業舞踏会は、予想外なことが起こり過ぎて理解が追いつかなかった。

 結論を言うと、ロゼッタは無事に殿下と婚約破棄をして、殿下は伯爵令嬢と壇上で痴話げんかをしている。なぜ痴話げんかという言い方をしたかというと、殿下も伯爵令嬢もあまり悲しんでいる様子がなかったからだ。むしろケンカを楽しんでいるように見える。


 殿下は真剣に怒りながらも、これまで見たこともないほどに生き生きとした表情だったし、伯爵令嬢もエディに振られたというのに、悲壮感は見えない。


 一体、あの2人は何を考えているのだ?


 殿下も伯爵令嬢も皆の前で互いに失恋したというのに、とてもすっきりとした様子だった。


「レオン様、私と一緒に舞踏会を楽しんでは貰えませんか?」


 殿下たちを不可解な思いで見ていると、ロゼッタにダンスに誘われた。


「ええ。光栄です」


 私たちは手を取って、ダンスをした。ロゼッタと卒業舞踏会という場で踊れていることが、嬉しくてたまらない。婚約破棄も終えて、ロゼッタはもう誰の婚約者でもない。


 もう絶対に誰にも渡したくない!!


 私は、真剣な顔で言った。


「ロゼッタ嬢、ずっと好きでした。私との結婚を前提にお付き合いしてもらえませんか?」

「レオン様……ずっと好きな人がいるって……おっしゃっていらっしゃっていたでしょう? その方はよろしいのですか?」

「私がずっと好きだったのは、あなたです。幼い頃、バラの生垣に隠れて泣いているあなたを見た時から、ずっと好きでした」

「え? それって、随分と前じゃ……」

「ええ。そうですね。もう十年以上もあなたのことが好きです」


 ――もう、私は10年も前から彼女のことが好きなのだ。

 ロゼッタ嬢を心から――愛しているのだ。


 ロゼッタ嬢の返事を待つ間は、緊張で眩暈がした。

 

「私も好きです。レオン様の側に居たいです」


 世界が止まった気がした。

 喜びで胸が痛いというのを初めて体験した。

 嬉しい!

 嬉しい!!

 嬉しい!!!


「本当ですか!! 嬉しいです。生涯大切にします!!」


 気が付けば、私はロゼッタを抱きしめていた。

 曲が終わると、2人っきりになりたくて、すぐに私は彼女をダンスホールからバルコニーに連れ出した。


「あの……ロゼッタ様、好きです。愛しています。……あなたに触れてもいいですか?」


 私は、彼女を怖がらせないように尋ねた。すると彼女の方から、私の手をそっと握ってくれた。

 心臓が飛び出してきそうなほど、早くなる。

 まさか、ロゼッタの方から触れてくれるとは思っていなかった。


「はい。私も……レオン様に触れてほしいと……思っていました」


 可愛い……。

 愛おしい……。

 どうしよう、倒れそうだ。立っているのやっとだ。


 その後、私たちは以前裏庭園で見た殿下と伯爵令嬢と同じように指を絡めて、庭園にある隠れたベンチでお互い寄り添っていた。


 幸せだった。

 人は手を繋いで寄り添うだけでこれほどの幸福感を味わえるのだろうか?


 私たちは時間も忘れて、2人で寄り添っていた。

 すると会場からファンファーレの音が聞こえてきた。


「あ、舞踏会が終わりますね」


 私は彼女の頭に寄せていた頬を離すと、ロゼッタを見た。


「ええ」


 これから、卒業生だけの会食会だ。エスコート役は別室で食事が用意されて待つことになる。私は名残惜しいと思ったが、卒業生の大切な時間を邪魔するとこは出来ずにロゼッタに笑いかけた。


「会食が終わるのを待っております」

「はい。ありがとうございます」


 それから私はロゼッタを会食会場に送った。ロゼッタは御学友の令嬢と楽しそうに会場に入って行った。

 

 さぁ、私も移動するか……


 移動しようとしたら、エディに声をかけられた。


「よかったですね。兄さん」

「見てたのか?」

「……はい。少しだけ」


 皆の前でプロポーズをしたのだから、聞かれていても仕方ない。


「エディ婚約破棄はどうなった?」

「はい。無事に受理されました」

「そうか……殿下にはお伝えしたのか?」


 エディがそれを聞いて眉を下げながら言った。


「兄さん、特別室に来ていただけませんか? 殿下とカルラ嬢はそこにいますが……私では話がこじれそうなので」


 今、殿下とカルラとエディは大変複雑な関係だ。確かに私が同行した方がいいかもしれない。


「ああ」


 私はエディと共に、特別室に向かった。

 特別室の前に来ると、扉の前からすでに2人の声が聞こえていた。


「行くか……」

「ええ」


 私たちがノックをして扉を開けると、2人と目が合った。


「エディ様、私には王妃など無理です!!  殿下には、ロゼッタ様がいらっしゃいます!!」


 伯爵令嬢は、私と共に部屋に入ったエディを見るなり声を上げこちらに近付いて来た。

 だが、先ほどこの令嬢は、『エディのことが好きだ』と言っていたのに、今は『王妃など無理』だと言った。


 今頃になって怖気づいているのか?


 私がそう思っていると、エディがスタスタと歩いて、伯爵令嬢に顔を近付けた。


「え?」


 伯爵令嬢が一歩後ろに下がってエディから距離を取った。好きだと言っていた男性に対する態度ではない。


「カルラ!!」


 殿下が大声を出していた。

 私は、エディたちの間に入って止めようとする殿下の前に立って、エディと伯爵令嬢の邪魔をさせないようにした。

 エディは、じっと伯爵令嬢を見つめながら言った。


「本当に私を好きだというになら、唇にキスして下さい。殿下の前で!! ……そうすれば考えます」

「……え?」


 伯爵令嬢をが大きく目を見開きながら固まった。


「な!! カルラ、止めろ、止めてくれ!!」


 必死で止めようとする殿下を私も力の限り押さえた。

 エディは腰をかがめて、伯爵令嬢の顔の前に唇を近付けた。


「はい。どうぞ……」


 伯爵令嬢は、しばらく動かなかった。そして、目にいっぱい涙を溜めながら言った。


「……出来ません……」


 エディは切なそうにしながらもどこか意地悪をいうように言った。


「なぜです? 殿下とはあれほど何回もキスをしていたのに……」

「自分でもわかりません。エディ様をお慕いしていますが……キスは……アルベルト殿下としかできません……」


 伯爵令嬢は、涙を流しながらそう言った。


 キスが出来ない理由など誰だってわかる――。


 私はどうしようもないほど混沌とした感情が溢れて――気が付けば、カルラの前に立っていた。


「逃げるな」

「え? レオン様?」

「レオン………」


 私はカルラを睨み付けながら言った。


「ロゼッタ様は幼少期より、心もない男性との結婚を決められ、必死で努力したのだ。だが、あなたは違う!! 愛する人のために努力が出来るのだろう? いつまでも甘えるな!! 不愉快だ!!」


 そう、ロゼッタは家のために努力してきた。

 そしてエディがカルラを見ながら言った。


「きっとロゼッタ嬢の後など、死ぬ思いをするほど過酷な道だ。彼女は完璧で、聡明。あなたが努力して成長しても、彼女はもっと成長する。きっと永遠に追いつけない」


 カルラが絶望的な顔でエディを見ていた。すると殿下が慌てて口を開いた。


「そこまで言うことはないだろう?」


 殿下の言葉に私は、さらに苛立って口を開いた。


「では、殿下。私の言葉を否定できますか? 彼女が死ぬ気で努力すれば、ロゼッタ様の追いつけますか?」


「それは…………」


 殿下が口を閉じた。

 沈黙、そう……それが答えだ。

 そして、私はカルラを見ながら言った。


「君がしたことはそういうことだ。奪うということはそれ相応の対価を払う必要がある。軽い気持ちだったかもしれないが、君が陥れた相手は、この国一の女性だ。当然、支払う対価も膨大なものだ。覚悟するのだな」


 そして私は殿下を見た。


「殿下も、彼女を裏切った代償は大きい。いいですか? 我々はあなた方を逃がす気はない。血を吐きながらも必死で努力して……彼女が民にもたらすはずだった繁栄をもたらして下さい。それがあなた方の罰です」


 殿下が青い顔で呟いた。


「ロゼッタがもたらすはずだった繁栄……」


 そしてカルラはペタリと床に座り込んだ。


「ロゼッタ様がもたらすはずだったものを……私が?」


 呆然とする二人に私は自分でも冷酷だ思うほどの視線を向けながら言った。


「殿下、婚約破棄は成立しました。今後のお二人の活躍は義務です。どうぞ、逃げようなどと思いませんように。それでは失礼いたします」


 私がそう言って背中を向けると、エディが二人を見ながら言った。


「お二人に逃げるという選択肢などありません。もがいて、努力して、ロゼッタ様を目指して下さい。それでは失礼します」


 エディと共に部屋を出ると、扉の前でフォアルドが腕を組んで扉に背を預けていた。


「フォアルド殿いたのか?」

「ええ」


 フォアルドは身体を扉から離すと、私を見て笑った。


「レオン殿を信じてよかった」

「信じられていたようには見えませんでしたが……」

「信じていましたよ……いえ、縋っていたのかもしれない。私はずっと殿下を『ロゼッタ嬢の傀儡』から解放したかった。孤軍奮闘する中で、あなたは神の使いのように見えました」

「その割には、随分な態度でしたけど……大変なのはこれからですよ」

「ええ。わかっています。ですが……大丈夫です。どうぞ、あの方の今後の活躍にご期待下さい。ああ、活躍は義務でしたね」

「ええ。せいぜい二人が逃げないように見張って下さい」

「わかっています。私も共犯だ」


 その後私は、御学友との会食を終えたロゼッタを送るために馬車に乗った。

 馬車の中でもロゼッタと手を繋いでいると、ロゼッタが私の顔を見上げながら尋ねた。


「レオン様、いつか私の父と母にあいさつに来て下さいますか?」

「あいさつ?! 結婚のご挨拶と考えてもよろしいですか?」

「…………はい」


 彼女が真っ赤な顔でそんなことを言ってくれると思わなかったが、いつかと言わずに私としてはすぐに、侯爵にロゼッタの婚約者だと認知されたかった。私はロゼッタの手を取りながら言った。


「ロゼッタ嬢さえよろしければ、今から行きましょう」

「え? 今からですか?」

「はい。いかがですか?」

「嬉しいです!! お願いします」


 私たちは急いで城のリシウス侯爵の執務室に向かった。

 衛兵に『話がある』と伝えるとすぐに中に入れてくれた。


「お父様、お話があります」


 ロゼッタの言葉に侯爵は相変わらず緊張して強張った顔をしている。


「婚約破棄が成立した話か?」

「はい。でもそれだけでじゃなくて……」


 ロゼッタが私の顔を不安そうに見たので、私は、すぐに侯爵に頭を下げた。


「リシウス侯爵、私を婿養子にして下さい」

「…………は?」


 リシウス侯爵が口を開けてポカンとした顔をしていた。

 そんな侯爵に向かってロゼッタも畳みかけるように言った。


「お父様、私、レオン様と一緒になります!! 私はレオン様が好きです」

「え……? 好き? え?」


 ロゼッタが侯爵に向かって真剣な様子で言った。


「レオン様との結婚承諾していただけますよね?」

「え……あ……はい……」


 侯爵は訳がわからないままロゼッタの真剣さに押されて、承諾の返事をした。

 こうして私はリシウス侯爵家の()()ではなく、婿()()()になることが決まったのだった。















本日2話更新致します。

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