8
突然、スーパーから轟音が響く。
「……なんだ?」
次の瞬間——爆発音とともに建物が崩れ落ちる。
瑞希は目を見開き、思わず口を開く。
「映画バリじゃん!俺、モブで良かったわぁ」
黒煙が立ち上り、炎の熱が遠くからでも感じられる。
混乱に陥る人々の悲鳴と怒号が響き渡る中、警察官たちが瑞希へ向かって手を振る。
「こっちです、早く!」
瑞希は警察官に促されるまま、安全な場所まで避難する。
背後では相変わらず爆発が続き、炎はスーパーを飲み込んでいた。
数時間後――ようやく火災が鎮火し、現場は消防士と救急隊員で埋め尽くされる。
犯人たちは逃走したらしく、現場からは多数の死傷者が発見された。
瑞希は警察署で長時間の事情聴取を受け、ようやく解放される。
(……俺、なんかとんでもない場面に巻き込まれたな)
「はー……疲れたぁー。ホント……厄日続きじゃん」
そうぼやきながら、瑞希はふとハッとする。
(……あの人、どこ⁉︎ 車は⁉︎)
辺りを見回すが、黒い車もスーツの男も見当たらない。
どうやら、もう去ってしまったらしい。
瑞希は落胆した気持ちで家路につく。
「……あー、今日のバイト代、出ないかもなぁー」
仕事を放棄したくてしたわけではないが、結果として働いていないことには変わりない。
苦々しい表情で家へ戻り、ドアを開ける。
その瞬間――。
テーブルの上に見慣れない封筒が置かれている。
「……?」
瑞希は怪訝な顔をしながら、封筒を手に取る。
中を開けると、そこには大量の現金が入っていた。
驚きながら封筒の中を確認すると、思ったよりも多くの額が入っている。
借金返済に充てていたお金よりも、ずっと多い。
「……どこぞの足長おじさんかよ」
思わず、呆れ混じりに呟いた。
こうして瑞希の長い一日が終わる。
疲れ果てた体をベッドへ沈めると、あっという間に眠りに落ちた。
翌朝——瑞希は借金返済のため、朝早くからバイトへ向かおうと準備をする。
しかし、ふと机の上に違和感を覚える。
見慣れない封筒の代わりに、一枚のメモが置かれていた。
瑞希は眉をひそめながら、ゆっくりとメモを手に取る。
「厄介ごとに巻き込まれた割には、何も起こらないなんて退屈だったね。
その分の面白さはお金で補っておいたよ。
もう1日だけチャンスをあげるよ——逃げ出すならそれでも構わない。
次は無いけどね〜」
メモの隅には、鈴風の特徴的な金色の髪の毛が数本挟まっていた。
瑞希はそれをじっと見つめ、喉を鳴らす。
「……冗談、だよな?」
しかし、鈴風が冗談だけでこんなことをするとは思えない。
瑞希の胸の奥に、じわりと不安が広がっていく――。
「嘘だろっ……!俺の金!」
瑞希は封筒を握りしめ、呆然とした表情を浮かべる。
「あの金髪ヤロー……こんなとこまで来んのかよ」
額に手を当てながら、視線をさまよわせる。
(にしても……なんでここバレたんだ?あれから一度も会ってないのに……?)
瑞希は小首を傾げる。
封筒の中の金を再び確認すると、異様なほどの額が詰め込まれている。
(それに……“もう1日”ってどういう意味だよ)
瑞希はじっとメモを見つめる。
——再び外に出るべきか?
しかし、数秒考えただけで、逃げたところでどうせ捕まるのは目に見えていた。
「……仕方ねぇ。今日も借金返済だ」
瑞希は深いため息をつき、重い足取りでバイトへ向かう。
「……あーもう返済終わんねーよ!誰かどーにかしてくれぇー!」