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(結構ウマい?まぁ……俺、失うモノないし。そのバイト、やってもいいかもな?)
瑞希は軽く片手を上げる。
「あ、じゃあ、俺やります」
「いつからですか?履歴書とか、いります?」
男は静かに微笑みながら首を振る。
「いえ、履歴書は必要ありません。明日からすぐに出勤してもらえれば結構です。それから住所と連絡先を教えていただけますか?」
瑞希は軽く息をつきながら、周囲を見回す。
「えっと……今はここで……」
とりあえず、男の質問に答えながら、バイトの詳細を確認する。
男は納得したように頷き、名刺を指で弾いた。
「わかりました。それでは明日の6時に迎えに来ますので、その時にまた詳しい話をしましょう。」
瑞希は軽く肩をすくめる。
「了解」
新しいバイトが決まり、瑞希はほっと息をつく。
「簡単な仕事っぽいし……ひとまず安心かな。」
瑞希が明るく笑うのを見て、男は静かに微笑む。
「それでは、明日お会いしましょう。」
翌日、朝6時。
瑞希は眠い目をこすりながら、昨日の路地へ向かった。
そこにはすでに男が待っていた。
「おはようございます。では、さっそく移動しましょうか?」
瑞希はコクコクと頷き、男の後ろをついていく。
男は瑞希をクラブの中へと案内する。
店内はまだ静かで、照明も落とされている。
昨夜の喧騒が嘘のように、人気のない空間が広がる。
男は瑞希を事務所へと招き、椅子を勧める。
「座ってください」
瑞希は軽く周囲を見回しながら、促されるまま椅子に腰を下ろす。
(……本当に簡単な仕事なんだよな?)
僅かに緊張を覚えながら、瑞希は男の次の言葉を待つ——。
「まずは、簡単な業務内容について説明しますね」
男の言葉に瑞希はしっかりと目を合わせ、真剣に聞こうとする。
男は、店内の清掃、アルコール飲料の在庫確認、簡単な買い出しなどを瑞希に説明する。
「特に覚えることは多くないと思います。わからないことがあれば、いつでも私か他のスタッフに聞いてください」
「了解」
男は一呼吸置き、ふと思い出したように続ける。
「あ、それから。今日から1ヶ月間は必ず私が瑞希さんを迎えに来て、一緒に出勤することになります。2ヶ月目の契約更新の時に、一人で来てもらうことになりますよ。」
瑞希は軽く頷きながら、少し考えるように言葉を返す。
「あ、その間に経路覚えろってね」
男は静かに微笑みながら、軽く頷く。
「そうですね。その通りです」
「それと、店が開く時間帯はかなりうるさい音楽が流れますが、瑞希さんは耳栓をしていても大丈夫ですよ。あ、イヤホンは周りの音が聞こえなくて危険なので、禁止です」
(耳栓は良くてイヤホンはダメ?何かよくわかんねーけど……)
「まぁ、了解」
男は時計を確認し、軽く頷く。
「よし、では今日の業務を始めましょうか?ついてきてください」
瑞希は言われるままに男の後ろをついていく。
クラブの店内に入ると、広々とした空間に様々な機材が並んでいた。昼間の静かな店内と、夜の喧騒を想像すると、そのギャップに少し不思議な気分になる。
男は瑞希にモップとバケツを手渡しながら、柔らかく言う。
「床をお願いします。私は他のスタッフに指示を出した後、すぐに戻りますので。わからないことがあれば、いつでも聞いてくださいね」
瑞希はモップを持ち直しながら、小さく息をつく。
(……まぁ、こういうのは慣れればどうにかなるか)