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瑞希が山へ足を踏み入れると、すぐに獣の遠吠えが響いた。
(え?もしかして何かヤバいのいるのかな……襲ってこないよね?)
緊張しつつも、瑞希は水場を求めて河原まで進む。
「この辺りなら広いし、獣が来ても逃げられるし、大丈夫……かな?」
そう呟きながら、瑞希はテントを広げた。今夜からでも寝られるように準備を整え、鼻歌を口ずさみながらバーベキューの準備を進める。(肉買う余裕あるなら借金返そうねと言うツッコミなしで)
コンロに火をつけ、肉を焼き始めた途端—――。
香ばしい匂いが山の空気に広がる。
それに誘われるように、暗闇の向こうから野生動物たちの気配がじわじわと近づいてきた。
「ん?わぁ、鹿じゃん。おっ、ウサギいる!!」
瑞希は目を輝かせながら、周囲を見渡した。
(肉……食べたっけ?) 【アホの子なんです!!】
しかし、次の瞬間、異変に気づく。
野生動物たちは肉の匂いに完全に惹きつけられ、瑞希へ向かってゆっくりと距離を詰めてくる。
(あれ……なんか、違うのいない?)
ゴクリ——瑞希は唾を飲み込んだ。
今すぐ逃げたい——けれど、四方を囲まれて身動きが取れない。
「え?何か、激ヤバなんですけど……」
慌てて周囲を見回すと、木の上には猿たちが座り、不気味な視線で瑞希を見下ろしている。
足元には狼たち—――低く唸りながら、ゆっくりと輪を狭めてきていた。
「え?ちょっ……コレ、マズいかも……?」
瑞希は恐怖に震えながら、ゆっくりと後ずさる。
しかし、すぐに背中が硬い岩にぶつかり、それ以上下がることができない。
(あ……もうダメだ……)
その瞬間—――。
「パパンッ——!」
鋭い破裂音とともに、野生動物たちが驚いて四方へと散る。
「……助かった?」
瑞希は荒い息を整えながら、ドキドキと脈打つ胸を押さえる。
ゆっくりと顔を上げると—――そこには銃を持った鈴風の姿があった。
「瑞希、君って本当に面白いね?」
「……誰?」
鈴風はニヤリと笑い、軽く肩をすくめる。
「鈴風だよ。君がまた面白いことをしてくれると思って、ついてきたんだ」
愉快そうに口角を上げる鈴風は、銃を肩に担いだまま瑞希を見下ろす。
「でも俺の予想以上だったな?まさか本当に山に入るとは思わなかったよ」
「えっと……あんたなんて知らないけど?」
瑞希は眉をひそめながら、一歩距離を取る。
「俺たちの仲なのに、それは酷すぎないか?俺は君のこと、よく知ってるのに〜」
「俺は知らんけどな!!」
鈴風は茶目っ気たっぷりに目を細めながら、肩をすくめる。
「そう?でも君は俺に借りがあるんだけどな?」
言いながら、銃で肩を軽くトントンと叩く。
「……これは、返さないとね〜」
「あ~……今助けてくれたこと?」
瑞希の問いに、鈴風はケラケラと笑う。
「助けてあげたっていうより、面白いものを見に来ただけだけどね」
肩に銃をかけ、余裕のある足取りで瑞希に近づく。
「でもまあ、今回はそういうことにしておこうか」
「んじゃ、その面白いもの見れたってことでチャラでお願いします。俺、昼飯食うんで」
「いやいや、そう簡単にはいかないだろ。俺がいなかったら君、死んでたよ?」
そう言いながら、軽く笑い、瑞希の肩を掴む。
「うん、まあ、それについては感謝してマス」
瑞希はバーベキューコンロのほうへ視線を向ける。
「じゃ、お礼に一緒に食べる?」
動物たちにズタズタにされたバーベキューを指さしながら、苦笑する。