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瑞希は両親の借金を半強制的に肩が変わりさせられたあと両親に捨てられ、怖い人達から問い詰められる日々を送っていた。
そんなある日のこと。
瑞希はいつものように働いてお金を稼いだ帰り道、中華街を歩いていると不意に路地に連れて行かれるように引っ張られる。
瑞希は突然のことで抵抗できず、そのまま路地裏に連れて行かれ連れて行った人物を見ると借金取りの人だった。
借金取りは瑞希に対し恐喝をしては、瑞希をまた更に追い込もうとする。
すると不意に中華街の方からこちらに向かってくる足音が聞こえ、それと同時にリンっと鈴の音がする。
瑞希も借金取りも音の下方を見るとそこには金髪にエメラルドグリーンの瞳をした男が立っていた。
その格好は赤を基調とし金色の刺繍の入った中華服で、オレンジ色のサングラスをかけていた。
その雰囲気は何処となく危険そうな…関わったらダメなような雰囲気を持っており緊張が走る。
「なにしてんの?俺も混ぜてよ」
ニヤリと笑った口元はまた更に鈴風の裏の読めなさを強調していた。
(誰だろ…?流暢な日本語だけど、日本人には見えないな。吉と出るか、凶と出るか――)
男はじっとこちらを見つめていた。
借金取りも、突然の乱入者に戸惑ったのか、瑞希の襟首を掴む手が緩んでいる。
(今だ——!)
瑞希は瞬時にその手を振り払い、中華服の男の横をすり抜ける。
通り過ぎる刹那、ふと金色の髪の男と目が合った気がした。
その瞬間、鈴風の手が瑞希の手首を掴む――。
「どこ行くの?まだ俺の用事、終わってないんだけど?」
鈴風は借金取りに視線を向ける。
「こいつは俺が片付けてから行くから、ちょっと待——」
言葉を最後まで言い切る前に、瑞希の気配が消えていた。
「……はぁ。面倒なことになる前に、大人しく捕まればいいのに」
鈴風はため息をつきながら、赤く染まった街の空気に溶けるように視線を投げる。
瑞希の姿はすでになく、気配すら残っていない。
それからひとりになった、瑞希は立ち止まりふうっと息を吐いた。
誰もついて来ていないことを確かめると、瑞希は微かに肩の力を抜いた。
「ったく、何なんだよ……次から次へと……信じらんねぇ」
瑞希が逃げ込んだ場所は、鈴風の縄張りの一角だった。
つまり——瑞希がどこへ向かおうと、鈴風に見つからないはずがない。
それを知らず、瑞希は息を切らしながら歩き続ける。
「えっと……次のバイト、探さないとなぁ〜」
借金を返すために必死だったが、バイト先まで追いかけてくるのは勘弁してほしい。
また新しいバイトを探さなくては。それが瑞希の日常だった。
瑞希は再びバイトを始めるため、いくつかの面接を受ける。しかし、結果は散々だった。
どこへ行っても断られる。
(ブラックリスト入ってねぇよな)
途方に暮れた瑞希は、とぼとぼと歩きながら考える。
(どうしよう……このままじゃ本当に野宿生活になっちゃうなぁ。いや、もういっそ山に入って野生動物みたいに暮らすか……)
ポンッ!
瑞希は手を叩く。
「だな、意外と仙人生活、最終的に自給自足もアリかもしんねぇし!」
とりあえず、山に入る装備を調達して—――。【装備買う金あるなら返済しろと言うツコッミなしで】
鈴風は遠くから瑞希を見守りながら、口元を歪める。
(あの子、これからどうなるか楽しみだな……山で本当に生き延びられるのか?)
一方、瑞希は新生活に胸を躍らせながら、テントや懐中電灯、その他の防災グッズを揃えていた。
「これだけあれば大丈夫でしょ!」
リュックを背負い、バスに乗って登山口へ向かう。
「いよいよか……」
不安はある。けれど、何とかなるかもしれない—――そう信じて、瑞希は奮い立つ。
バスが到着し、瑞希が降りるのを鈴風はじっと見届ける。そして、静かにその後を追った。
しかし、あまりにも気配を殺しすぎたせいか—――瑞希は鈴風の存在に、まったく気づいていなかった。【瑞希はアホの子】