最初より前の話
前回までのあらすじ
なった。
「ん? ケン、仕事はどうした」
父親が家の扉の前に立っているケンに聞く。 ケンは「ちょっと話したいことがあったから休憩中に来たんだ」と言う。 その後にケンは付け足した。
「それに、もうケンじゃない。 僕の名前はブレクだ」
「ブレク? なんだその名前は」
「ん〜、こういう事かなっ」
ケン、いやブレクは扉をがっしりと掴み、思いっきり引っ張った。 扉がバキバキと折れ、その扉の破片が父親の頬をかすめ血が出てくる。
「お兄ちゃんから言われたんだ、自由にしていいって。 だから……」
「この世界を、ぶっ壊すことにした」
「ま、待てケン」
父親は慌てケンを止めようとするが、もう彼はケンではない。 ゆっくりと父親に近づき、ブレクはスキルを発動させた。 ブレクの手から剣が作られる。
「ほら、こんな剣も作ることができるんだ。 すごいでしょ」
ブレクはそう言い、父親に斬り掛かった。 血が噴き出し、その血がブレクの服につく。 ブレクは面倒くさそうな顔をし、「あー、汚れちゃった。 帰る時に洗わないと」言い、また斬り掛かる。 父親の上半身と下半身が分かれ、父親は死んだ。
「ケッ……ケン……」
父親が最後の言葉を振り絞り何か伝えようとする。 だがその前に父親の頭はなくなった。 父親の生首がゴロゴロと転がっていく、やがてそれは何かに当たり制止する。 その何かとは、ドーソとケンの母親だ。
「ケン……?」
母親は今起こったことが信じられないようだ。 ケンが父親を斬った事も、父親は死んだことも何かも理解できない。 母親が扉の方を見ると、そこには誰もいなかった。
「そろそろ休憩も終わるし、急いで帰らないとな」
ブレクは父親を殺したあと、すぐさま城に戻っていた。 あと5分で休憩は終わる、その前に城に戻らないといけない。 だが走ったとしても城に着くまで30分はかかる。 ならどうするか。
「やっぱりこうするでしょ」
ブレクがそう言った瞬間、体が足元から消えていく。 その消えた体は城の近くにいた、ワープだ。 誰かにバレないように人けのない場所にワープする、まだこれは秘密にしておきたい。
(皆、どう思うかなあ)
ブレクはこの力を皆がどう思うかワクワクしている。 まずは兄のドーソに見せよう、とブレクは思っている。 しかし、それは叶わぬ夢となった。 ブレクのワープが完了する、ブレクが前を見るとそこには人がいた。
「なんだお前……どっから来た?」
(うわあ、早速バレたか)
同僚の兵士が怪しい物を見る目でブレクを見る。 ブレクはここから挽回できる方法がないかをのんきに考える、そして思いついた。
(そうだ! 記憶を消そう)
ブレクは手を兵士にかざす。 兵士は(なんだコイツ? こんなスキルだったか?)と思いながらブレクを見ていた。 兵士は「うっ!」と小さな叫びを上げ、バタッと倒れる。 ブレクはその隙に城に入っていった。
「いてて……ん? 何で俺は倒れて……飲みすぎたか……?」
兵士はブレクによってさっきの記憶を消された。 兵士はコレを昨日の酒のせいにして城へ戻っていった。 城の中には何食わぬ顔で立っているブレクがいた。 兵士はそんなこと気にせず目的地に向かっていった。
(成功したみたいだね……)
ブレクはこちらを見向きもせず歩くさっきの兵士を見てそう確信した。 後ろから「おーい、ケン」という声が聞こえる。 ブレクが後ろを振り向くとそこにはドーソがいた。
「まったく……どこ行ってたんだ。 5分前には来いよ……」
ドーソはそう言う。 ブレクはそれをニコニコした様子で聞いていた。 これからすべてのスキルを使えることをドーソに話すのだ。 ブレクはドーソがどんな表情をするのかニマニマとした顔で考えていた。 ドーソはそんなケンを不気味に思う。
「それより兄さん、話したいことがあるんだ」
「話したいことって?」
「それはね……僕、ぜんぶのスキルが使えるんだ」
「全……は?」
ドーソは信じられない顔でケンを見る。 それがケンでは無くブレクということなど、ドーソには考える余裕も無かった。 ドーソはついにケンが壊れたかと心配している、実際その通りだ。
「ほら、見てて」
ブレクは遠くを指さす。 ドーソはそのケンが指差した方を見た。 瞬間、ブレクの指からビームが出てくる。 そのビームはちょうど指差した方に合った柱を壊した。 ガラガラと崩れていく柱を見て、ドーソは振り返りケンの方を見た。
「……ケン?」
「ああそうそう、もうケンじゃないよ。 これからはブレクだ」
「ブレ……ク?」
ドーソはケンが、ブレクが何を言っているのか理解できなかった。 ブレクはそんなドーソの事など頭になくペラペラと喋っていく。
「そして、この世界をぶっ壊すことにしたんだ。 本気だよ、それはあの柱と……家に帰ったら分かるよ……」
「何を、言ってるんだよ?」
ドーソは涙を浮かべながらブレクに聞く。 その質問を聞いたブレクは頭にはてなマークを浮かべた。 それは……
「兄さんが言ったんじゃないか、自由にしていい……って」
「じゃ、またね」
ドーソはブレクに駆け寄ろうとするが足を滑らせ地面に倒れ、平気な顔しているブレクを眺めた。 ブレクはドーソを見てにこやかに笑い、別れの言葉を告げ城から出ていった。
「何だ、何があった?」
「おお、これは何事じゃ?」
ツルとキンが大きな音を聞き音のする方へ来た。 地面に倒れているドーソと、破壊された柱を見て2人は困惑した。 困惑したのは、この場にいる全員だ。
※
(んー……世界を壊すって言っても何からしようか)
ブレクはスキルを使い空を飛んでいた。 世界を壊すとは言ったものの、何からすればいいか分からない。 ブレクはなにかいい案はないか考える。
(僕も……王国を作りたいな)
ブレクはそう思った。 いままでは誰かの上に立つことなどできるわけがなかった、だから全てを従える王、それにブレクは憧れていたのだ。 思い立ってからのブレクの行動は早い、速やかにしもべを探しに行く。
(お、あれは……)
ブレクの目に映ったのは、刑務所だ。 ブレクは急降下し、刑務所へ突っ込んでいく。 刑務所の壁をぶち破り、中に侵入した。
「なっなんだ!?」
「誰だ!?」
看守や投獄者の驚きと恐怖が混じった声がブレクの耳にどんどん入る。 ブレクはスキルを発動させ、看守を思いっきりぶん殴った。 看守の顔にパンチが炸裂し、看守は吹っ飛ばされる。 看守は壁に当たりつぶされた虫のようになってしまった。 ブレクは手についた血を払い、投獄者に話しかける。
「みなさーん!! この世界ぶっ壊したいって思ってないですかー!! 思ったら一緒に行きましょうー!!」
シーンっと沈黙が続いた。 長い沈黙が続くなか、それを終わらせたのはザンジだった。 ブレクの目には手を挙げているザンジが見えたのだ。
「おっ、君も世界をぶっ壊したいって思ってるの? 一緒にぶっ壊そう?」
「ああだが……この檻壊すだけでいい。 外に出てぇんだ」
「んー、僕と一緒に来るなら壊すけど?」
「だったらお前についていく」
「OK!!」
ブレクはザンジの檻をメキメキと折っていく。 やがて人が通れるほどの隙間ができ、ザンジは出てきた。 その瞬間投獄者達の声が一斉に聞こえ始める。
「俺もついていく!!」
「俺もだ!!」
「はいはーい、待ってね」
そうしてブレクはどんどん檻を折っていき、ほとんどの人が牢屋から抜け出した。 皆は一目散に外に出ていき、陽の光を浴びる。
「あれ、君はいかないの?」
「ああ、気分が変わった。 今は外に出るよりも出来るんなら世界をぶっ壊したい。 早く行こうぜ、ぶっ壊すんだろ?」
(んー、別に世界壊すのに急ぐ必要はないしなあ……洗脳することもできるけど、そればっかりしてると飽きるよなあ)
ブレクはのんきにそんな事を考えていた。 せっかく自分の手で王国を作るのだ、こういうので先にチートを使ってしまったらすぐに飽きる。 とブレクは思っている、だがすぐさま世界を壊さないとザンジは離れていきそうだし、ブレクは最初に部下にした人くらい最後まで連れていきたいと、無駄な考えを持っていたのだ。
(そうだ、あれを使おう)
「それよりさ、ご飯にしない? お腹すいたしさ」
「飯? しょうがねえなあ……」
ブレクは部下を呼び、料理を作る。 部下たちは美味そうにブレクの作った料理を食べ進める。 料理と言ってもスキルで出しただけだが。
(よし、食べた!!)
ブレクはザンジがご飯を食べたのを確認する。 この料理の中には魔道具が入っているのだ。 これを食べた人をじわじわと洗脳していく……
(使えるところ無いって思ってたけど……こんな所で使うなんてね……)
※
「やるしか無い……異世界でブレクを倒す勇者を見つけるしか無い……」
ツルが苦渋の決断をする。 隣の世界番号80……そこには勇者候補が約30人もいるのだ。 だが、本来異世界へ行くことは禁止されている。
「もう、やるしか無いんじゃない? このままじゃこの世界を壊されちゃうよ……」
「……そうだな。 では、誰が行く?」
「僕が行きます」
志願したのはドーソだ。 サーベは「いや、君は休んでていいよ」と言った。 だがもうドーソの意志は強く固まっていたのだ。
「行かせてください!! お願いします!!」
「そこまで言うのなら……良かろう」
「ありがとうございます!!」
「では、俺達は異世界転移の場所へ行く。 サーベは転生者をもてなす準備をしろ」
ツルとドーソは異世界転移ができる場所に行く。 そこはこの前不法入界者が転移した所だ。 ここに一人は入れるほどのワープゲートのようなものがある。
「じゃあ、頼んだぞ。 これを持っていけ」
ツルは通話ができる魔道具をドーソに渡す。 ドーソはそれを受け取り、ワープゲートへ飛び込んだ。 瞬間空が割れ、ドーソは消えて行った。
ジジジジッジジ
ノイズの混じった音声が聞こえる。
「世界番号80、到着いたしました。 勇者候補約30名、これより転生を開始します」
ジジジジッジジ
ジジジジッジジ
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