なるまでの話
前回までのあらすじ
勇気を出した。
「ドーソ! ケン!!早く来んか!」
年老いた男が2人の少年に怒号を飛ばす。 まず背の高い子が出てきた、名前はドーソだ。 次にドーソより背の低い子が出てくる、名前はケン。
「では、スキルを発動させてみろ」
「えいっ」
ドーソはスキルを発動させ、手から剣が出てきた。 年老いた男、彼らの父親はケンの方を見る。 ケンはおびえた様子でスキルを発動させた。 ケンの手からはかなり小さい剣が出てくる。
「まだだ!! そんなんじゃ立派な兵士にはなれん!!」
「はい……!」
ケンは涙を浮かべながら言った。 ドーソは泣いているケンを慈悲の目で見ていた、ケンは精一杯ドーソと同じ大きさの剣を作ろうとするが、何回やってもそれは作れない。 じきに父親の顔が怒りから失望に変わっていく。 ケンにとってはそれはとても恐ろしい事だった。
※
修行の休憩タイムに座り込んで泣いていたケンを慰めにドーソがそこに向かう。 ケンはうっすらと見えるこっちへ向かってくるドーソを赤い目で見た。
「ケン……今はつらいとおもうけど、ここ乗り越えれば俺達は兵士になれるんだ。 一緒にに頑張ろうぜ」
「うん……」
ケンは涙が出るのを我慢しながら答える。 ドーソは優しく笑い、ケンの頭を撫でまた父親の方へ修行しに行った。 ケンは一生懸命修行に育むドーソの様子を座って見ていた。
(僕は……兵士になりたいわけじゃないのに……)
ケンは心の中でそう思う、実際に口に出しては言えない。 こんな事言ったら父親に殴られるからだ。 それに、兄のドーソはケンが立派な兵士になる事を期待している。 ケンはいつもドーソに助けられてばっかりだ、せめて立派な兵士になって、自慢の弟になりたい。 とケンは思っていた。
だが理想を簡単に現実にできるほど、この世は簡単ではない。 いくらやってもケンの作る剣は小さいまま、父親に怒鳴られ、ドーソに慰められる日々。 いつになったらコレは終わるのか、ケンはいくら考えても分からない。 もしかしたら一生続くのかも……
(そんなの嫌だ!!)
ケンはそう強く思いながらも、それをどうにかする事など出来なかった。 ただ時間だけが過ぎ、ドーソはどんどん兵士となっていく。 もともとあった差が、どんどん広くなっていく。
(どうすればいい……どうすれば……)
ケンはケンに問い詰める。 答えは返ってこない、ケンは怒りケンを殴る。 ケンは泣きわめき必死に答えを探すが、もちろん出てこなかった。 最初から答えなんて物は無いのかもしれない……ケンはゆっくりと目を閉じ、夢の世界へ潜っていった。
※
「では、兵士達に拍手を!」
キンがそう言い、パチパチパチパチパチと拍手が部屋を埋め尽くす。 今日は新しい兵士が入隊する日だ。 新しく入隊する兵士がズラッと並ぶ、そこにドーソもいた。 ケンは観客席でドーソを見ていた。
入隊式が終わったあと、ドーソとケンは別れの言葉を話す。 兵士は寮暮らしだ、これからはなかなか会えなくなる。
「じゃあ、ここで待ってるから」
「うん……」
ケンの足取りは重かった。 家につき、ゆっくりと扉を開ける。 そこにはいつもより上機嫌な父と、いつも通りの母がいた。 その父の嬉しそうな顔が、ケンの心を締め付けた。 ケンにも父にこんな顔をされる日が来るのだろうか。
「母さん、皿洗い代わるよ」
ケンは母が洗っていた皿を半ば強引に奪い取り、皿洗いする。 今は兵士にもなれないし職にもついてない。 せめて家事をしなければ、それを見た父親は途端に不機嫌になりケンに話しかけた。
「ケン、皿洗いなんかしてないでスキルの練習をしろ」
「アナタ……もう分かっているでしょう、ケンに兵士の才能はないわ。 何か別の仕事を……」
「うるさいっ!!」
父親は机を叩く。 その振動で机に乗っていた皿が落ち、パリンと割れた。 母は何か言いたげな表情でケンが持っていた皿を奪い取り皿洗いし始めた。
※
ケンは家を出て崖まで来ていた。 ここは眺めがいい、街を一望できるし、ドーソのいる城も見える、今は夕日が綺麗だ。 落ち着いたら家に戻ろう、ケンはそう思っていたが、ますますケンは落ち着かなくなった。
「おおっとぉーっ!!」
「!?」
いきなり空が割れ始め、中から人が出てきた。 その人はギリギリ崖から落ちず地面に滑り込み着地し、起き上がるなりケンを見た。 瞬間その人は焦った顔をする。
「やっべ。 いきなり見られた」
「見られた?」
「ああ私、世界番号78から来たものです」
ケンは急いでポケットからステータスカードを取り出す。 コレは昔ギルド登録をした時に作ったものだ、ケンの世界番号という項目には、79と書かれている。 つまり……
「一個隣の世界の人……?」
「そ」
ケンは驚いた。 存在自体は知っていたが、実物は初めて見る。 しかし、ケンには何が引っかかる事があった。 それを異世界の人に問い詰める。
「別の世界に行くことって……禁止されてなかったっけ」
「ああうん」
「やっぱり!?」
この人は違法入界者だ。 ケンは危険だと思い逃げようとするが、その変な服を着た人に邪魔され逃げられなくなってしまった。 これからケンはどうなるのか不安がっている。
「ちょっと待ってね……コレをやりに来たんだ」
その男はピタリとケンを触る。 瞬間、ケンの中になにかが溢れた。 それはスキルだ、この世界のすべてのスキルがケンの体の中に入っていく。
「おお、成功」
「一体……何を……?」
ケンはそれに耐えきれず座り込む。 その男は平気な様子で明るく話し始めた。 この男は何なのか見当もつかない。
「チートってやつだよ。 君はすべての世界が使える、やってみたかったんだよね。 これが成功するのか」
「大成功だったよ、次は何処に行こう。 80とかがいいかな? あの世界はスキル無いけど、どうなるか……」
その男は1人でブツブツと喋る。 ケンはその様子をただ見ていた、体も落ち着きやっと立てるようになる。 男は「バイバイ」と言い、そのまままた空へ消えてった。
そこからはあっという間だった、すべてのスキルが使えるようになり、入隊試験も楽々合格。 あんなに悩んでいた兵士になることが、こんなにも簡単に……
「入隊おめでとう、ケン」
ケンはドーソに祝福される。 ケンは照れていた、ろくに褒められたことなんて無かったケンには、褒められる事が新鮮で、とても嬉しかった。
「これからは、自分がしたいことをしていってほしい。 たとえそれが兵士じゃなくても、僕は応援するよ」
(え?)
嬉しさは一瞬にして体から抜けていった。 ケンはただ兵士になることを、それだけを考えていたが、それから先はどうする? 何も思いつかない。 期待に応えるためなった兵士も、ドーソからそれ以外でもいいから自分がしたいことをしてほしいと言われてしまった。
(何で? どうして? あんなに兵士になろうって……待ってるって言ったじゃないか……)
ケンは兵士になることを最終目標にしていた。 だがそれは自分の人生の一歩でしか無く、それ以外でも良いと言われてしまった。 今まで兵士になるために捧げた時間は何だったのか。
(いや、あれも……運が良かっただけか)
今思えば、あの時間は無駄だった。 どれだけ時間をかけても良くなることはなくて、ただの運だけでここまで来たのだ。 ケンの心から新しい何かが生まれる。 よくない何かだ。
(一体……なんだったんだ? 時間は、努力は……無駄? そんなわけ無い。 でも……)
ケンの頭の中で考えが渦巻いていき、最後には良くない何かだけが残る。 ここからケンではなくなった、なったのだ……ブレクに。
(壊してやる……ぜんぶ……)
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