スタートする話
前回までのあらすじ
出会った。
「冗談……だよな?」
ヒソムは苦笑いしながらエスに聞いた。 エスはその質問を無視したと言うよりかは、そもそもその声が聞こえていなかったようだ。 エスは汗を流しながらドラゴンのいる木の上を凝視する。
(コイツと戦うくらいなら……!)
ヒソムはドラゴンと戦うより追放される方がマシだと思い逃げようとする。 それをドラゴンは見逃さなかった、ヒソムが後ろを振り向いた瞬間、ドラゴンは咆哮を上げる。
「グオアアアアアアアアアッッッ!!」
「アガぅ!!」
「んっ!!」
「ウオッ」
ドラゴンの咆哮に全員が耳を塞いだ。 だがそれでも耳の中にドラゴンの強烈な声が響く。 鼓膜が破れるギリギリだ。
(だめだ!! 動けない……!)
ヒソムは体が硬直する。 ドラゴンの目はヒソムを捉えていた、このままでは最初に死ぬのはヒソムになる。 そんな2人をよそ目にブレク、ウーフ、ザンジは余裕そうな顔をしていた。 ゴウカイも3人ほどではないが少し余裕そうだ。
「じゃあ、僕とウーフとザンジは遠くで見てるよ。 ゴウカイ、監視は頼んだよ」
「かしこまりました……!」
次の瞬間、ブレクとウーフとザンジの姿が消える。 コレでここに残ったのはヒソムとエスとゴウカイの三人となった。 ドラゴンは木の上でヒソムをじっと見つめている。 ヒソムもドラゴンの事をじっと見つめていた。
「ギュアッ!!」
ドラゴンが木の上からヒソムを狙って降りてくる。 それはまるでミサイルのようだった、あのドラゴンが地面に激突すると、ヒソムどころかエスとゴウカイも死んでしまう。 その事にゴウカイが気づき、斧を構える。
「俺が一旦アイツを食い止める! その後でお前らがアイツを倒せ!!」
「グルアアアアアアア!!」
ギィ〜ンっ!!と言う音が鳴る。 その後バチバチバチっと火花が散った。 ドラゴンと斧が激突し、ゴウカイの足が地面へ埋まっていく。 かなり大きな地震が広範囲に響いた。
「キャッ」
「うおっ」
地震にヒソムとエスがよろける。 ヒソムはどんどん埋まっていくゴウカイの足を確認し「ゴウカイさんっ!!」と叫んだ。 ゴウカイは「うおおおおおおおおっ……!」と踏ん張っているが、このままではすぐにゴウカイの体が埋まってしまう。
「やむを得んっ……! スキル発動ッ!!」
「ギュアッ?」
ドラゴンが間抜けな表情をし、気絶しながら地面へ倒れ込んだ。 周りの木が下敷きになり、ドラゴンの大きな体にへし折られていく。 ヒソムとエスは飛んでくる土や石を手で顔を守る。 石と土の嵐が止み、ドラゴンの様子を確認するとそこには、ぐったりと倒れているドラゴンがいた。
「ソイツあ数十秒すればまた起き上がる! 俺は遠くで見てるから、安心してドラゴンを倒せっ!! 応援してるぞ!」
ゴウカイはブレク達がいる所へ走っていった。 ヒソムとエスはドラゴンの体を触り、何処か弱点がないかを探す。
(ここは硬いな……ここも……ここも……ここはさっきより少し柔らかい)
(ここなら通る……! ここは硬すぎる……)
2人が攻撃が通りそうなところを探しているうちに、2人は出会った。 エスはヒソムを見るなり面倒くさそうな顔をする。
「アンタもコイツ倒そうとしてるの? さっき逃げようとしてたじゃない」
「言っただろ、考えが変わったって。 それに、応援してるって言われちまったからな……」
「……」
※
ブレク達のいる森
「ゴウカイ、スキルを発動させて2人に時間をやったか……」
ブレクはドラゴンが倒れたのを確認し、そう考えた。 ブレクとウーフとザンジはちょうど良さそうな木があったのでそこに登り、そこから2人の様子を確認している。 ここから見てもドラゴンは一発で見つけられるほどに大きい。
「しかし……あのドラゴンを2人に倒させるってのはかなり無理がありませんかね……ゴウカイでも倒せるか怪しいのに……」
「ウーフ、ブレク様がお考えになられた試験だぞ。 無理難題を押し付けるはずがない」
「その通りだよザンジ、僕は無理な事を2人に要求してるわけじゃない。 2人を信じているからこそこの試験を選んだんだ」
「申し訳ありません……ブレク様……」
「いやいいよいいよ」
ブレクは笑いながら言う。 無理な事を押し付けているわけじゃない、それが嘘だとは言わないが、別に2人を信じていると言う訳ではない。 そもそもブレクにとって、2人はどうでもいいのだ。 この試験に合格すれば、2人はブレクにとってどうでも良くない存在になる。
「おっ、ゴウカイがこっちに来ますよ」
ウーフがこっちへ走ってくるゴウカイを確認した。 ゴウカイは三人がどこにいるのか分からず探しているようだ。 ザンジが木から降り、ゴウカイの方へ向かった。
「ゴウカイ、お前は2人の監視とブレク様に言われたはずだろう」
「そうだが……あのドラゴンは今の2人には強すぎやしませんか? ねぇ、ブレク様」
ゴウカイは木の上にいたブレクを発見して、そう尋ねた。 ブレクも木から降り、さっきの事をゴウカイに説明し始める。
「ゴウカイ、君の言う事も分かるんだけどね……僕は2人に無理を押し付けているわけでは無いんだよ……逆に2人を信じているから、コレを選んだんだ」
「しかし……!」
「ゴウカイ!」
ザンジが話を遮る。 ザンジは敵を見るような目でゴウカイの事を見ていた。 ゴウカイは途端に黙ってしまう、ゴウカイはこのままでは2人とも死ぬと危惧しているのだ。 そもそも2人の事など今はどうでもいいブレクと、ブレクの事を信じているザンジと説得されたウーフはそんな事疑っていなかった。
「……」
ゴウカイは反論することができず、また2人の様子を確認しに行った。 ブレクとザンジはまた木の上に登る。 ゴウカイは2人が無事かどうか走る、その間、ゴウカイは2人が無事に試験に合格することだけを祈っていた。
※
ドラゴンの倒れた場所
「ングアッ?」
「!! もうすぐ起き上がる……!」
エスはその事にいち早く気付き、ドラゴンから少し離れる。 ヒソムもエスと同じように離れた。 ドラゴンはゆっくりと大きなまぶたを開けていく。
「どう? アンタはコイツ倒せると思う?」
「どうかな……」
2人は少し笑いながら話す。 こうでもしないと恐怖で倒れてしまいそうになるのだ。 ドラゴンのまぶたはどんどん開いていく。
「ングアアアッ……」
ドラゴンはあくびをする。 どうやら寝ぼけているらしい、ドラゴンはでかい図体を起き上がらせるが、何処かボケっとしている。 まだ寝ぼけているので少し2人の猶予がのびた。
「グッ……アッ?」
だがその猶予は早くも終わってしまった。 ドラゴンが2人を見たのだ、その瞬間ドラゴンはこれまでの事を思い出しボケっとしていた顔がシャキッとした顔立ちになる。
「ギュアアアッ!!」
「うぐおっおお……」
「んんんんっ……!」
ドラゴンの咆哮に、また2人は耳を塞ぐ。 その咆哮を合図にブレクは「試験スタートっ!!」と言った。 ゴウカイは咆哮を聞きドラゴンが起きたことを確認する。
(頼んだぞっ……! ヒソム! エス!)
「おりゃアッ!!」
エスはムチを伸ばしさっき触った時に確認した攻撃が通りそうな部位を攻撃しようとする。 それは腹だ、ドラゴンの体の中でも腹だけは特に柔らかかった。 だがそのムチが腹に当たる前に、ドラゴンの短い手によってムチが掴まれてしまった。
「グルアッ!!」
「きゃあアッ!!」
「エス!!」
ドラゴンはムチを上に持ち上げエスはゴムのよう反発しドラゴンの顔へ近づいていく。 そしてその顔すら通り過ぎエスは真上に飛ばされてしまった。 ドラゴンが途中で手を離したのだ。
(どうするっ……! どうするっ……!)
ヒソムはどうにかこのドラゴンを倒す方法を考えるが、いくら考えても思いつかない。 ドラゴンは次のターゲットをヒソムに決めた。
(一体……どうすればっ!!)
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