出会った話
前回までのあらすじ
認められた。
(なぜ女の子がこんなとこに……?)
ヒソムはそう思った、元からここに住んでいると言う解釈もできるが、ヒソムにはそう思えなかったのだ。 なんせ彼女は泥で薄汚れたまだ新品の服を着ているからだ。 ここに住んでる部族かなんかならあんな服は着ないはずだし、そもそもここは魔物が多すぎてとても人が住める場所ではない。
「あっあの……君は、ここに住んでるの?」
ヒソムはとりあえず女の子に聞く。 女の子はまるで聞こえていないように熊の頭を食べ続ける、しかし、その動きも次第に弱り……
ドサッ
「大丈夫!?」
木から落ちてきたのだ。 ヒソムは顔をのぞいてみると、女の子はとても具合悪そうな顔をしている。 ゴウカイは女の子の状態を確認した。
「だいぶ弱ってるな……このままじゃコイツ死ぬぞ?」
※
「へぇ~、女の子を?」
「はい、あの森で……」
ブレクは2階に上がり、寝室に行く。 ここに気絶した女の子が眠っているはずだ、ベットならたくさん空きがある。 ブレクが扉を開けると、そこには死んでいるように眠っている女の子がいた。
「これが……様子からして、あの森にもともと住んでいるってわけじゃなさそうだね。 多分、親に捨てられたんだろう」
そうブレクとゴウカイが話しているときに、女の子は目を覚ました。 女の子はあたりを見回す、その後困惑した様子でブレクに話しかけた。
「ここは……?」
「ん〜、君の家、かな。 多分……」
「家?」
「ああ勿論強制的にってわけじゃないよ。 君に帰る家があるならそこに帰ってもらって構わない」
「……」
「どうかな?」
「……ない」
女の子は下を向いて体を震わせながら、そう答えた。 ブレクはその答えに満足そうな顔をする、自分の考察が当たったからだ。
「じゃあ、ここを今から君の家にしても……いいかな?」
女の子はコク……と小さく頷く。 ゴウカイは「こんな女の子を部下にしていいんですかい?」と心配そうに聞く。 ゴウカイはこんなか弱い女の子すぐに死んでしまうと遠回しに言った。 ブレクは「大丈夫大丈夫。 強さならコレから身につければいい、ヒソムみたいにね」と自信満々に答えた。 最後にブレクは名前を聞く。
「名前は?」
「……エス」
「エス、いい名前だ」
※
数カ月後
「ヒソム! そこで左だ!!」
「てりゃっ!!」
「エスは右腕でガード!!」
「フリャっ!!」
ヒソムとエスがゴウカイにアドバイスを受けながら戦っている。 強さは互角、なかなか勝負がつかない。 その様子をウーフとザンジが見ていた。
「最初あの女を部下にするって言った時は頭壊れたのかと思ったけど、やはりブレク様の力は本物だったか……ヒソムもずいぶん強くなってよ……」
「お前、いつもそんな事言ってるな。 それまでに死んでいったやつのことはカウントしてるのか?」
「そん時はそん時だ」
「くだらん……それに、ヒソムもエスもまだ強くなってない」
遠くで観戦していたザンジが2人に近づく。 ザンジはヒソムに目をつけ、ファイティングポーズを取る。 ヒソムはそれに応えるように自分もポーズを取り、エスは静かに離れていった。
「来い」
ザンジが手を使いヒソムを挑発する。 ヒソムはそれを合図にザンジを殴りに行った。 ヒソムは「てりゃあああ!!」と大きな声を出しながら拳をザンジの顔に近づける。
「えっ?」
次の瞬間、ヒソムは倒れた。 ヒソムは何が起こったか分からず、ポカンとした顔をしている。 ザンジはそのままウーフの所へ帰っていった。
「容赦ねえなあ」
「ほら、強くなってないだろ?」
「そりゃお前にはブレク様以外敵わねえよ」
「いてて……」
ヒソムはやっと状況を理解し痛む背中をさすりながら起き上がる。 エスは帰っていったザンジをずっと見ていた。 エスはヒソムに聞く。
「私も、あんなふうに強くなれるかな?」
「ん? ああ……多分な」
「分かった。 私、アンタより先に幹部になるから」
「おお、頑張れよ……」
ヒソムは気の抜けた返事をする。 ヒソムにとって幹部になることはどうでもいい、その事を見越してか、ブレクがある提案をした。 提案と言っても、ブレクが言う事は絶対だ。 誰も否定なんてできない。
「もう部下は2人だけになっちゃったね……」
ブレクは悲しそうに呟く。 あくまでも悲しそうにだ、本当に悲しんでいるかは分からない。 ブレクは次の幹部を決めると言い出した。
「じゃあ、次の幹部を決めよう。 幹部になる方法は一つ、あの森に新しい魔物が出たんだ。 それを討伐する、先に討伐した方が幹部になるよ」
「はい!!」
エスは元気よく返事する。 ヒソムは逆に面倒くさそうに返事した。 ヒソムは幹部の座をエスに譲るつもりだったが、ブレクの言葉によりそんな悠長な事を言ってられなくなった。
「そうだ、次幹部になれなかった人は、追放ってことにしよう」
「はい……え?」
ヒソムの顔が少しづつ悪くなっていく。 ヒソムはブレクが言ったことが理解できなかった。 エスはもともと幹部になるつもりなのでさっきと変わらない。 ブレクは説明を始めた。
「いやあ、その方が面白いかと思ってね。 勿論幹部になれなかった人を殺すわけじゃないよ。 ただここから出ていってもらうだけ」
(そんなの……ほぼ殺されるも同然だ!!)
ここから追放されてしまうと生きる場所が無くなる。
あの時のエスみたいに自分でなんとかするしか無くなるのだ。 しかし、そんな覚悟はヒソムには無い。 ただ次の幹部を決める時までヒソムは黙り込んでいた。
ゴウカイがヒソムに話しかける。 「追放とは、ヒソム……頑張れよ、応援してるからな!!」ヒソムは「はい……」と元気無く返事する。 ゴウカイの言葉は一見ヒソムを元気づけているようだが、それがヒソムにとっては苦痛だったようだ。
ヒソムはベットに飛び込む、そうして体勢を整え寝る姿勢に入った。 だが、中々寝れない。 幹部を決める試験で幹部にならないとヒソムは実質死ぬのだ。 家族も友達もいない、行き場所のない犯罪者、そんなのを誰が養うのか。 ヒソムには考えつかない。
ヒソムはそう考えているうちにどんどん眠くなっていく。 ヒソムは諦めるように目を閉じる。 ヒソムは深い眠りについた。
※
試験の日
(ついに来てしまった……)
ヒソムは心臓をバクバクさせながら森へ足を運ぶ。 一緒に歩いているエスはあんなヒソムとは違い自信満々だ。 むしろ早く魔物が来ないかと言う顔をしている。
(俺は……勝てるのか? コイツに……魔物に……)
「ついに来たわね、私が幹部になる日」
エスはヒソムを見てそう言った。 ヒソムは負けじと「いや、俺だ」と見栄を張る。 そうでもしないと心がもたないようだ。
「あら、この前はどうでもいいって感じだったじゃない」
「考えが変わったんでね……」
ヒソムとエスは静かに口喧嘩した、こうしている間にもその時は近づいている。 そしてその時はいきなり来た。
「アレだ!!」
ゴウカイが木の上を指さす、ヒソムは「何だ……あれ……」と言葉を漏らした。 エスは信じられない目で木の上にいる何かを見る。
「ほお……コイツは凄い……」
ゴウカイが汗をかき苦笑いしながら言った。 それはとてもヒソムとエスには倒せそうに無いものだ。 ヒソムとエスもそう思っている。
(アイツと戦えって? 冗談じゃない!! このままじゃ追放される前にアイツに殺される!!)
ヒソムの額から凄まじい量の汗が噴き出し、顔が青くなり震えも大きくなっていく。 エスは少し汗をかきながらそれを凝視していた。 それはこの前戦った熊より数倍大きい。 もしかしたらゴウカイでも勝てないほど強いものだ。 それは……
「ドラゴン……!」
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