認められる話
前回までのあらすじ
出会った。
「俺の斧を持っている……!?」
「うおりゃあああああ!!」
ゴウカイが自分の背中を確認するが、背中にはしっかり斧があった。 取られているわけではない、そして、持っているわけでも無かった。 彼は斧を持っているのではなく、融合しているのだ。 次第に斧の方が大きくなっていって、やがて斧だけとなった。
「ブアア!!」
熊が野太い声で泣き叫ぶ。 頭に斧が思いっきり刺さったのだ。 その斧はだんだん姿を変えていき、やがてヒソムに戻った。
「ハァ……ハァ……」
ヒソムは息切れしながらも熊をジッと見つめる。 熊は「ブオオオオオ!!」と泣きながら薄暗い森の中を逃げていった。
「ほお! 大したもんだ!!」
ゴウカイが大声でヒソムに話しかける。 ヒソムはゴウカイの方を見た、ゴウカイの目は疑いから期待に変わっている。
「最初お前を見た時はブレク様はこんな奴に期待しているのかと思ったが、流石はブレク様だ」
「はぁ、ありがとうござい……ます?」
「コレから俺が鍛えてやる、お前を幹部にしてやるよ」
※
数カ月後
「よし! そこを右だ!!」
「ふっ」
「そして左!!」
「ふあっ!!」
ヒソムとゴウカイはボクシングのような特訓をしている。 あれから数カ月後経ち、部下は10人ほどになってしまった。 その部下の中で一番強いのがヒソムだ。
(こんな事して何に……)
ヒソムはブレクとゴウカイには絶対言えないが心の中でこう思っている。 ヒソムはただ普通に暮らしたいのだ、もうその夢は叶わないが、今、こんなふうにして強くなる必要はまったく無いと思っている。 ゴウカイはそれをうっすらと感じ取っていた。
「お前……この生活は不満か?」
「えっ?あっいや!! まったくです!!」
「そうか、今のお前には熱を感じないんだがな……」
(そんな物、最初からないよ)
「今日はもう終わりにしよう、明日はまたあの熊の討伐に行くぞ」
「はい!」
(うわあ……)
ヒソムは風呂に入ったあと、ベットにダイビングする。 この部屋にはたくさんのベットが置いてあるが、使われているものはほとんどない、数カ月後前までは埋まっていたのだが。
(俺の人生……明日で終わるのかな……)
ヒソムはベットでそう考える。 明日はあの熊の討伐だ、あの時何とかなったからって、次も何とかなるとは限らない。 そうしているうちに、どんどん眠くなってくる、ヒソムは何とか持ちこたえようとするが、負けてそのまま深い眠りについた。
※
翌日
「今日もアイツは元気そうだ!! 倒しがいがあるな!!」
ゴウカイとヒソムはあの熊がいる森に来ている。 熊もこちらには気づいていないが近くにいる。 あともう少しすればすぐに気づかれそうだ。
(今すぐ逃げ出したい!! でももう無理だよなあ)
ヒソムは諦めながら、熊の方に近づく。 熊はガサッという音を聞き逃さず、ヒソムのほうを見た。 ヒソムを見るなり熊は咆哮を上げる。 あまりの声量にヒソムは耳を塞いだ。
「ブルッ……グルル……」
熊はどう考えても怒っていた。 今にもヒソムに飛びついてきそうだ、ヒソムは負けじと熊へ近づいていく。 ゴウカイはその様子を数メートル先で見ていた。
(来ないでくれよ……来ないでくれ……)
ヒソムはそう祈りながら熊へどんどん近づいていく。 もちろんそれは無理な話だ、何しろ自分から近づいていっているのだから。 ヒソムの目には四つん這いなのに自分より大きい体と、茶色の泥まみれの毛が映っている。 ヒソムはそれを目に焼き付けた時、それはいきなり近づいてきた。
「グラァアアアア!!」
「ひぁっ!!」
熊はいきなりヒソムに突進してくる。 ヒソムは情けない声を上げ、何もできないままでいた。 ゴウカイはそんなヒソムをじっと見つめる。
(さぁ、どうするヒソム。 立ち向かうか、逃げるか、それともここでやられるか!!)
ヒソムは今永遠を感じていた。 と言ってもその永遠はすぐに終わり、その後ヒソム自身が終わる。 ヒソムはここでやっと覚悟を決めた。
(また消えるか……!)
ヒソムは姿を消す、前と同じように石に変装したのだ。 その後の行動は全部前と同じだ、石の姿で熊の後ろに回り込み、変装を解除し石を投げて攻撃、その後斧に姿を変え熊に突進していく。
「オルアああああ!!」
斧は、斧に変装したヒソムは凄まじい速度で熊に突進していく。 熊は斧に変装してこっちへ突進してくるヒソムをしっかりと見る。 そして前と同じように熊の頭に直撃……
「何ッ!!?」
ヒソムは斧の変装を解く、いや、変装を驚いて解いたの方が正しいか。 熊は凄い速度で飛んできた斧を見事キャッチしたのだ。 ヒソムは熊にがっしりと腕を掴まれている。 熊は敵を討つようにその腕を折るために力を入れ始めた。
「グアっ!! アアアア……!!」
「ヒソム!! 早くそこから抜け出せ!!」
ゴウカイはヒソムにそこから抜け出すよう指示する。 だがそんな事ができるのならすぐにやっている、ヒソムはゴウカイにできないと言った。
「無理だぁ!! もう力がはいらない……!! 助けてくれ……このままじゃ死ぬ……!! グッ!! アガア!!」
ヒソムの細い腕からミシミシと今にも折れそうな音が聞こえる。 今折れてないことが奇跡なくらい、熊はヒソムの腕を強く掴んでいる。 そしてそれはどんどんと大きくなっていった。
「お前ならいける!! やれ!!」
「できるはずが無いッ!! 助けてくれ……お願いだ……」
ヒソムは涙を流しながらゴウカイに頼み込んだ。 このままではヒソムはすぐに死ぬ、どうするか……ゴウカイは数秒間考え込む……
(ヒソムがコイツを倒せなかったことは残念だが、仕方がない。 ここで無駄死にするよりかはマシだ!!)
ゴウカイは太い背中に背負っていた斧を取り出す。 熊はゴウカイの事を気にもしていない、ただ死にかけているヒソムを見ていた。 その隙にゴウカイは斧を熊に叩きつける準備をし、すぐに準備が完了する。 そして……
「オラァ!!」
とんでもないデカさの斧を、思いっきり熊の首に叩きつけた。 熊は「アッ……」と言いながらヒソムを離す、ヒソムは地面に尻もちをついた。
「いっでで……」
ヒソムは尻をさすりながら熊のほうを見る。 熊は白目をむきながら直立していた。 やがてそれは落ちる、それとは熊の生首だ。
コロッ……ボトッズシ〜ン……熊の生首がヒソムの前にコロコロと落ちてきて、その直後に意思をなくした胴体が大きい音を立てながら倒れる。 その死体にはすぐハエが寄ってきた。
「大丈夫か?」
「ああ、何とか」
ゴウカイは死体になった熊を見て、何か物足りなさそうな顔をした。 多分、ヒソムに倒してほしかったのだろう……ヒソムにとってはいい迷惑だが。
「まあ先は長いか……次頑張ろうぜ」
ゴウカイはヒソムに手を差し伸べ、ヒソムはそのデカイ手を使って起き上がった。 そこにはハエのたかった頭のない熊の死体だけが残されたのだ。
「あれ、頭は?」
ヒソムはあることに気づく、熊の頭がない。 その代わりにヒソムの目にはムチのような肌色の物が映った。 それはどんどん上に伸びていき、木に到着する。
「アレは……」
ヒソムはムチのような物の正体を見て驚愕する。 それはゴウカイも一緒だ、一緒に口を開きながらその正体を見た。
「はがっ……はぐう」
それは熊の頭に遠慮なく噛み付く、熊の五分の1は削り取られそれの口の中に入っていった。 モシャモシャ……グチャクチャと言う咀嚼音が鳴り、最後にゴクンと勢いよく飲み込む音が聞こえる。 この説明だけ聞くと野生動物のようだが、それは違う。 魔物でもない、それは……
「女の子?」
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