決着と過去の話
前回までのあらすじ
撃ち合った
カーペットに穴が開く。 エスが撃った弾はすでにボロボロのカーペットに当たったのだ。 そこからヒソムは出てこない、つまり、ヒソムに逃げられたのだ。
後ろから音が聞こえ、エスは振り向く。 そこには階段で上に登ろうとしているヒソムがいた。 彼は一瞬数メートルはあるカーペットの姿になり、撃たれるギリギリのタイミングで変装を解除し、反対側に逃げたのだ。
ヒソムは一度手に情報を入れたものなら何でも姿を変えることができる。 今回のように自分の身長よりも長いものに変装し、解除するときに少し短いワープのようにも使うこともできるのだ。
エスは階段の所にいるヒソムを見るなりムチを階段の方向へ発進させる。 ヒソムは間一髪で攻撃を避けるが、足を挫かせ階段から転がり落ちた。
またヒソムはこの階へ逆戻りする。 ヒソムは落ちた先は皿や鏡の破片がたくさん散らばっているところだ。 不幸にもヒソムはそこに落ちてしまい、背中にびっしりと破片が刺さる。
(まずい……!)
ヒソムの目にうっすらとエスが見える。 そのエスは銃口をヒソムの脳天へ向けていた。 ヒソムは無理矢理にも態勢を立て直し、銃を撃つ。
パンッパンッパンッパンッ……
4つの音が同時に聞こえる。 ヒソムとエスがそれぞれ2回発砲したのだ。 それぞれ一つずつは外し、一つはヒソムの肩へ、一つはエスの右目へ命中した。
「があっ!!」
「ぎっ……」
2人はそれぞれ悲鳴を上げる。 ヒソムは肩を優しく撫で、エスは左目を押さえていた手を右目に移した。 2人とも満身創痍だ。
ヒソムの残弾 1
エスの残弾 1
これにより2人の残弾は一つとなった。 もうコレでトドメを刺すしかないようだ。 ヒソムとエスは銃を構えたまま沈黙する。
……………………長い沈黙が続く。 ヒソムとエスはただ相手の目を見ながら……長い事沈黙している……そして……………
先に動いたのはヒソムだ、それに続きエスも行動に移す。 まだうっすらと残っている視力で、ヒソムはエスのいる方向を凝視する。 そこには、”エス”がいた。
「もうその手には乗らないっ!!」
エスは構わず発砲する。 その戦法ならさっきやった、もう二度目は騙されないと。 エスが撃った弾は迷いなく飛んでいき……
パリンッ……と音がする。 鏡が割れた音だ。 エスは変装しているはずのヒソムの方を確認してみると、そこには銃を構えているヒソムがいた。
「……は?」
エスはそう言い、後ろに倒れる。 倒れたエスからは、頭から血が噴き出していた。 ヒソムに頭を撃たれたのだ。
(なん……で……?)
エスは朦朧とする意識の中で、ヒソムを倒せなかった理由を考える。 あの時確かに当たっていたはずだ。 いや、アレは……
(鏡……?)
エスが考えたのは、破片の鏡を使ったことだ。 ヒソムは顔を覆うくらいの大きさの破片を見つけ、それで頭を守った。 ちょうどエスが撃った弾が破片に当たり、ヒソムは体勢を整え銃を撃った……
その考えは当たっていたらしい、ヒソムのいる所には粉々になった鏡の破片がたくさん散らばっている。 コレはエスの目がやられていなければ出来なかったことだ。
(コレで……終わりなの? そんなの嫌……)
エスの意識がだんだんと無くなっていく。 ヒソムは振り向きブレクのいる一階へと戻ろうとしていた。 エスはそれを見ている。
(そんなのそんなのそんなのそんなの……嫌!!)
エスは最後の力を振り絞り、ムチをヒソムの方へと急速に伸ばしていった。 そのムチはヒソムの腕へ当たり、ヒソムの腕は体から離れ飛んでいく。
「は?」
ヒソムは飛んでいく腕をただ見ていた。 ヒソムは腕を確認し、アレが自分の腕だと確信する。 ヒソムは地面へ気絶し倒れた。
カツッ……カツッ……カツッ…… 階段を登る音が聞こえる。 ブレクが2階へ上がってきたのだ。 ブレクは息をしているヒソムを抱え、一階へ運ぶ。
「んっ……」
ヒソムは目を覚ます、そこにはブレク、ザンジ、ウーフ、ゴウカイがいた。 ブレクは穏やかに笑って、「おめでとう」とヒソムに行った。 ブレクたちはまた2階に上がって後処理をしに行った。
「勝敗の結果……どう思った?」
ウーフがゴウカイに感想を聞く。 そんなウーフは今、エスの死体を外に運んでいる所だ。 鏡や皿の破片を拾っているゴウカイは感想を話し始めた。
「いやーまさかヒソムが勝つとは思わなかったぜ! さすが俺が認めた男だ!!」
「お前いつもそれ言ってるよな、死んでいったヤツラにも」
「お前等、黙って掃除しろ」
ザンジに注意され、ウーフは「はいはい」と黙って掃除を続ける。 そんな中ブレクは荒らされた2階を見ていた。
「これを2人が、やっぱり凄いなあ……」
ブレクは無邪気な子供のようにヒソムとエスに感心していた。 ブレクは掃除を3人に任せ、気絶していたヒソムの様子を見に行く。
「あれ? いない」
ブレクは一階に来てそう呟く。 ヒソムの姿が見当たらないのだ。 ヒソムは……この隙に逃げたようだった。 ブレクはその事を3人に話しに行く。
「はぁっはぁっはぁっはぁっ」
薄暗い森の中をただ一人歩いていく。 足がズキズキと痛み、体はアザだらけで、背中に鏡や皿の破片が刺さっていて、腕が1本ない。 そう、ヒソムだ。
(あんな所にこれ以上いたら、すぐに俺は殺される!! 逃げないと……! 何処か遠くへ!!)
ヒソムは森の中を走っている中、ブレクに会った日のことを思い出していた。 あの時のブレクはヒソムにとって、ヒーローに見えていたのだ。
※
数年前
「いいか、次のターゲットはあの老人だ」
「はい……!」
ヒソムは元気よく返事する。 この時のヒソムは老人の身ぐるみ剥いで生活していたチンピラだった。 ヒソムがなりたいからなったのではない、周りに流され生きてきて、こうなっていたのだ。
ヒソムはゆっくり老人に近づいていき、持っていたナイフを老人に……とはならなかった。 その前にヒソムが吹き飛ばされたのだ。
「何だッ!?」
ヒソムは地面へ打ち付けられ、状況を整理する。 老人を襲おうと思ったら、気付けばその老人に投げ飛ばされ地面へ打ち付けられた。
「お前だな? 老人を襲って金品を奪い取っているやつは……」
老人がヒソムを睨みつける。 老人の顔はみるみるうちに若返っていった。 どうやらスキルによって顔を老人にしていたようだ。
「違っ!! ……う……そこの、その……あれ! 俺じゃないんだ!!」
ヒソムは必死に弁明するが、老人にふりをしていた人には信じてもらえない。 それはそうだ、実際ヒソムはこの人を襲ったのだから。
「そこにいるんだ!! 俺の仲間が……!」
ヒソムは強盗集団のリーダーがいた所を指さす。 老人のふりをしていた人は「どこにいるって?」と聞く。 もうそこにリーダーはいなかった。
※
ガシャン!!鉄で出来た重い扉を閉める音が聞こえる、牢屋だ。 その牢屋の中に、ヒソムが入っていた。 ヒソムは牢屋に入れられるなり、地べたへ座り込む。
「クソ……」
ヒソムはわなわなと震え、耐えきれなくなりそうボソッと呟いた。 その声は誰にも聞かれていない、ヒソムは牢屋から見える景色を見る。
(こんなはずじゃ……)
ヒソムは景色を見ながらそう思う。 ここからは見えないが、この景色から進んでいくとヒソムが暮らしていたところがある。 ヒソムはどうにか見えないか頑張るが、結局ヒソムが暮らしていたところは見えなかった。
(俺だってあの街の人みたいに、幸せに暮らす権利があるはずだ。 それをアイツに奪われた……)
ヒソムは自分をこうしたリーダーの事を恨んだ。 リーダーを恨んだってこの状況をどうにかすることもできないし、この道を歩むことを選んだのはヒソムの意思だ。
※
「お前も行く?」
「ああ、うん」
ヒソムは友達に誘われこれからリーダーになる男へ会いに行く。 友達といってもそれほど仲良くはない、少し話す程度だ。
(よく分からずについてきたけど……これから何をするんだろう……)
ヒソムはよく分からずにここへのこのことついてきた。 それがヒソムにとっての、悲劇の始まりだったのだ。 これからヒソムは強盗の事を教えられ、トントン拍子で強盗へとなっていった。
※
「クソ……クソ……クソッ!!」
ガシャン!! ヒソムは格子をぶっ叩く。 ヒソムの手は赤く腫れ、ヒソムはフーフーしながらもう一つの手でさする。
(俺は釈放しなくてもいいから、アイツラをここへぶち込んでくれよ……)
ヒソムは心の中でそう思う。 だがそれを言う勇気はヒソムには無い。 結局どうすることもできず、日が暮れ、月日は進む。
1ヶ月後
(ん……何だアイツ)
ヒソムは牢屋から見える景色を見ていた時、見知らぬ男を発見した。 それがこれからヒソムのリーダーになる、ブレクだったのだ。
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