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治療する話

前回までのあらすじ

取り返した。

「では、行きますよ」


ココロは注射器の針をトタロウの腕に刺す。 トタロウの腕からは綺麗な赤色の血がドクドクと流れ、注射器の中に入っていく。 ココロは注射器が溜まったのを確認し、それを机の上に置いた。


(スキル発動!)


ココロがそう念じた瞬間、注射器が光りに包まれる。 光ったあとは注射器の中の血が黒く変色していった。 ココロは全体重を椅子に預けドスンと着地する。


「これで、できたのか?」


ヤロウはココロに聞く。 ココロはとても疲労した様子で「はい……これで薬は完成しました……」と言った。 ヤロウの目は不安から安堵に変わっていった。


ココロは残りの体力を使い、注射器の中の薬を試験管に入れる。 どんどん試験管は薬で満たされ、ついに試験管の中はいっぱいになった。


「よし! これで!」


ヤロウはこれまでの鬱憤を晴らすように叫ぶ。 しかし、ココロの顔は曇っていた。 むしろ今の方が前よりも辛そうだ。 それはスキルによって疲弊したとかそういうわけじゃない。 精神が疲弊しているのだ。


「それが……」


「えっ、まだ何かあんのか?」


ヤロウの目が一瞬にして曇る。 ココロはこの薬の使い方を説明し始めた。 その説明を聞いていた皆の表情も曇っていく。


「この薬を使うには点滴が必要なんです……が、この世界には点滴というものが……」


「まさか……ないのか?」


ココロはゆっくりと頷く。 皆は落胆した、治療する薬があっても、それを注入する点滴がないんじゃ意味がない。


「その事についてはお任せあれ」


扉の方で音がする。 皆は一斉にそちらを振り向いた。

そこには一人の男が立っている。 クラスメイトの創装 機器 (そうそう きき)だ。 彼は丸眼鏡をかけている七三分け、背は高校生の平均より少し小さいぐらいだ。


「お前、いつからいたんだ!? てかどこからこの話聞いてた!?」


ヒナタがキキに質問する。 この話はトタロウ、ルイカ、ノシャ、ヤロウ、コザガ、ヒナタ、ココロ、ツル、サーベ、ドーソ、そして先生しか知らないはずだ。 盗み聞きしたのか、はたまた誰かから聞いたのか。


「できたんですね……!? あれが!!」


ココロがさっきまで曇っていた目を輝かせながらキキに聞く。 キキは自信満々に「ええ、完成いたしましたよ」と言った。 どうやらこの話はココロから聞いたらしい。


「皆さん、ついてきて下さい」


キキはココロの部屋から出る。 それに続いてココロも出る。 皆も2人を追いかけるように部屋から出た。 長い廊下を大人数で歩いていく。


「なあ、いつからアイツはこの事について知ってたんだ?」


「さぁ……」


トタロウはノシャに聞くが、もちろんノシャも知らない。 その様子を見たココロは皆に説明し始めた。 皆は黙ってココロの話を聞く。


「キキさんに相談したのはこの前トタロウさんの血を採血したあとです。 その直後に……いや……何でもありません、その後にキキさんに相談したんです」


ココロはルイカの顔をしたヒソムに試験管を奪われたことを思い出したが、皆を混乱させないように黙った。 今はキワミを治すのが先だ。


「キキって奴……いきなり仕切って、何かいけ好かねえなあ……」


「まあまあ……」


ヤロウは本人に気づかれない声量で呟く。 今のヤロウは少しイライラが溜まっているようだ。 ヒナタとコザガははイライラしているヤロウを抑え込む。


「つきました、ここです」


「ここは……キワミの部屋?」


ルイカが言う、ここはキワミの部屋だった。 ここで魔物になりかけているキワミが寝ているはずだ。 キキは慣れた手つきでドアを明け、部屋に入っていく。 その後皆も部屋に入っていった。


「コレは……」


ノシャがそう声を漏らした。 皆の目に映ったのは、ベッドで寝ているキワミと、この世界にないはずの点滴だ。 皆はこの点滴についてどうしたのかキキに聞く。 キキはこの点滴についての説明を始めていった。


「コレはココロさんに頼まれ、私のスキルによって作られた点滴です。 少し現実世界の点滴とは仕様が違いますが、問題なく使用出来ます」


キキのスキルは機械を作ることができる。 その分必要なマジックポイントと時間は多いが、どんな機械でもとりあえずは作ることができるようだ。


「すげえ! お前のこと見下してたけど、見返したぜ!!」


「いつの間に見下されてたのか知りませんが、それは良かったです」


キキは気を取り直しココロに薬の準備をするように頼む。 ココロは持ってきていた薬を点滴の前に差し出す。


「では、それを中に」


ココロは試験管のコルクを外し、点滴の中に薬を入れていく。 薬は試験管の中からドロっと、ゆっくりとした速度で点滴の中に入っていく。


点滴の中に薬が全部入り、ココロは点滴の針をキワミの腕に刺した。 これで準備万端だ、キキが「では、スイッチを入れます」と言い、点滴の機械に付いているスイッチをカチッと押す。 ごぅーん……っと言う音が鳴り始め、点滴の中に入っていた薬が、管を通してキワミの腕の中に入っていった。


ゆっくりと、そして着実に、薬がキワミの腕へと入っていく。 しかし、キワミは寝たままだ。 皆は心配そうに薬がキワミへ入っていくのを見る。


「なあ、これでほんとに治んのか?」


ヤロウは疑心暗鬼になり、ヒナタに聞いた。 ヒナタは「分からないけど……治ることを祈るしかないよ」と言う。 ヤロウは心を落ち着かせ、もう一度キワミの方を見る。 そしてあることに気づいた。


「おい、少しだけ楽そうになってないか……!?」


ヤロウがそう言い、皆キワミの顔の様子を伺う。 確かに、これまで辛そうだった顔が、少しだけ良くなっている気がする。 あくまで気がするだけだが。


「もちろんです。 この薬は魔物相手ならどんな魔物でも治すことが出来るんですから、たとえそれが半分魔物だったとしても」


ココロは自信満々にそう言った。 彼女の薬に対する信頼はとても厚いものだ。 薬を注入する時に皆心配そうな顔する中、ココロとキキだけは何も心配していない。


「だけど……コレって人間相手に使うと猛毒何だろ? もしキワミが完全に人間に戻った時に薬を入れてしまったらどうするんだ?」


トタロウは気になったことを質問する。 この薬は人間相手に使うと猛毒だとココロが言っていたはずだ。 その事についてもココロは心配していなかった。


「問題ありません、この薬はキワミさんが人間に戻った瞬間使い切ります」


どうやらこの薬の量はキワミが人間に戻った瞬間に無くなるようだ。 トタロウは安心し、キワミの様子を見る。 キワミの状態はどんどん良くなっていった。


そして……ついに……


「んっ……」


キワミの方から音がする。 人の声だ、皆はその声を聞くなりキワミの顔を見る。 そこには目を覚ましたキワミがいた、皆の顔が急激に緩む。 それを見たキワミは状況の把握ができていないようだ。


「コレは……?」


キワミは自分の腕に刺さっている点滴を見る。 キワミは数秒経ってこれまでのことを思い出した。 自分の腹から出てきた……赤子のような化け物……


「キワミ! 危なかったんだぜお前……あともう少しで魔物になる!! って」


キワミが状況を整理しようとする前に、ヤロウがキワミに話しかけた。 ヤロウはつらつらと話し始める。 キワミが起きて嬉しいようだ。


「私が……魔物に?」


「そう、でもその前にお前に薬入れて治したってわけだ。 薬を作ったのはココロ……」


「いやっ!!」


ヤロウが言い切る前にキワミはそう叫んだ。 ヤロウはびっくりし体をのけぞらせる。 キワミは焦りと憤怒の表情で点滴の方を見て、針を抜こうとし始めた。


「おい! キワミ! 何してる!!」


ヤロウがそう言うが、キワミにヤロウの声は聞こえていない。 キワミの目にはただ腕に刺さっている点滴の針だけが見えている。


「汚いものが作った薬なんかっ 誰がいるかっ」


キワミは汚いものが嫌いだ。 ココロは汚いものとして認定され、そのココロが作った薬を自分に刺すなど言語道断のようだ。


「キワミ! 落ち着け!!」


「キワミちゃん落ち着いて!!」


「ちょッ……おい……針を抜くな!!」


皆慌ててキワミを止めようとする。 だがキワミは止まらない、キワミにとって汚いものを体から離すことは第一優先だ。 たとえそれが自分の命を守る物だったとしても……


「はぁ〜っ……はぁ〜っ……」


針が抜け始める。 キワミの手は震えなかなか掴めないが、どんどん針が腕から抜けていっている。 このままではすぐに抜け落ちてしまう。


「待ってくれぇ!!」


ドアの方から叫び声が聞こえた、キワミはその声を聞き手を止める。 その声はキワミにとってとても聞き覚えのある声だ。 それは……


「……ヤミクモ?」














お読みいただきありがとうございます!

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