完成させようとする話
前回までのあらすじ
切り取った。
「嘘だろ……まだあんのかよ……」
ヤロウはしびれを切らしココロに詰め寄る。 ヒナタとコザガはヤロウを押さえてココロに今のキワミの状態をもう一度聞いた。
「早ければ2日で魔物になるって?」
「はい……でもこれを治す薬は……あっ」
「あっ?」
「トタロウさん」
「えっ俺!?」
「トタロウさん、この前採血しましたよね」
「ああ、お前に半ば強制的に刺されたな」
「あの毒……薬の効果、人間相手には即死するが、魔物に使えばどんな怪我も病気も治すことができる……」
「もしかして、それでいけるのか!?」
「今のキワミさんはほとんど魔物です。 理論上は……」
ココロによると、トタロウの血で作った薬を使えばキワミは治るらしい。 確証はないが、もうこれ以外はどうすることもできない。 しかし、ココロは薬について話し始める。
「ですが……まだ完成してないんです……」
「あと、どれくらいかかるんだ?」
「……1週間」
「1週間!?」
「いや、頑張れば2日……いや1日でいけます!!」
ココロは己を鼓舞するように叫ぶ。 その薬を完成させるためには、トタロウの力が必要不可欠らしい。 ココロはトタロウに頼み事をする。
「トタロウさん、またあなたの血を使えば早く薬を完成させることが出来ます。 お願いです……協力してください……!」
「分かった」
トタロウの返事はとても早かった。 あの時は薬が必要な理由が無かったので反対的だったが、今はキワミを助けるという理由がある。 トタロウとココロ、そして他の皆もココロの部屋に入っていく。
「これが開発段階の薬です」
ココロは机の棚からトタロウの血から作った開発段階の薬を取り出す。 それは試験管の中に入っており、コルクで蓋されている。 色は黒で、量は試験管の三分の一程だ。
ガサ……ガサ……
ココロが奥の棚から何か探している。 ココロはその何かを見つけ、トタロウの前に差し出した。 それは注射器だ。
「トタロウさん、では腕を」
トタロウは頷き、袖をまくる。 筋肉質な太い腕があらわになる。 転生するまではそこまでではなかったが、スキルやツルの修行により鍛えられたのだ。
「では、いきますよ」
ツプッ……っと針がトタロウの腕に入り込んでいく。 ココロは注射器を指で元の位置に戻し、トタロウの血を吸っていく。 注射器の中には綺麗な赤がどんどん溜まっていった。
注射器の中が満杯になり、ココロは注射器をトタロウの腕から離す。 ココロはその注射器を机の上に置き、そして……
(スキル発動……!)
心の中でそう念じた。 瞬間、注射器の中の血が光っていく。 トタロウたちはその様子をただ見ていた。 ココロはその目線が気にならないぐらい集中している。
(ぐっ……!)
ココロの額から汗がにじむ、ココロのスキルは一瞬で毒、または薬を作ることができるのだが、その分必要なマジックポイントは大きい。
注射器からどんどん光が消えていく、その代わりに中の血が黒くなっていった。 試験管に入っている薬と同じ色だ。 ココロは注射器から手を離し、疲れた様子で皆の方を見る。
「はぁっ……はぁっ……はぁっ……」
「ココロ、大丈夫か…?」
ココロは若干上を向きながら舌を出して呼吸している。 見た感じだとどう考えても大丈夫では無さそうだ。 ココロは朦朧とする意識の中問いに答える。
「はい、大丈夫です……薬は……」
当の本人は大丈夫じゃないようだ。 ココロは震える手で試験管のコルクを外し、注射器の中身を試験管に入れていく。
トポ……トポポ……
その薬は粘度が高いらしい。 なかなか試験管の中に入らない、ココロは注射器をトントンし注射器の中身を試験管に入れる。 やっと薬が試験管に入り始めた。 それが全部試験管に入ったあと、ココロは椅子に全体重をかけ座る。 試験管の中には半分の量の薬が入っている。
「これで……半分……また、明日……」
もう今日は1日分のマジックポイントを消費してしまった。 残り半分の薬は明日作るしかないようだ。 皆ココロに礼を言い、各々の部屋に帰ろうとする。 そしてヒナタが気づいた。
「あっ……キワミは?」
「あっ……」
その場にいる全員がそう言った。 薬を作ることに夢中で当のキワミを忘れていたのだ。 「それなら私たちが部屋に運んだよ」と言いながらサーベとツルがココロの部屋に入ってくる。 皆薬を作るのを見ていた間、ツルとサーベがキワミを部屋に運んだようだ。
「君たちも今日はもう休みな、明日に備えよう」
サーベが提案し、皆部屋に帰っていく。 キワミを救うのは明日だ、それまでに体を癒やそう。 皆帰る中、一人だけ部屋に残った、それはルイカだ。
「ルイカさん……? どうしたんですか?」
「いやその、ちょっとね」
ルイカは机に足を運んでいき、試験管の目の前にまで来る。 ルイカはその試験管を凝視したあとそれを……奪い取った。
「……え?」
ココロはそう呟く。 あまりにもあり得ない事が起こりただそれだけしか言えなくなったのだ。 ルイカの顔がどんどん剥がれていく。 そうして見えた、本当の顔。
「誰……ですか?」
剥がれたルイカの顔が、地面にはらりと落ちる。 そしてココロが見たのは、会ったことのない初対面の人の顔……それは、ヒソムだった。
お読みいただきありがとうございます!
「面白そう」「続きが読みたい」と思ったらブックマーク、下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしてくれると嬉しいです!
感想と誤字報告もお待ちしております!