切り取る話
前回までのあらすじ
徘徊した。
「あの中に……キワミが!?」
トタロウは思わず先生に聞く。 先生は神妙な顔をして頷いた。 他の皆もその事について慟哭する。 赤子は着実にこちらへと来ていた。
「あの中にキワミがいるって言うなら、俺達はアイツに攻撃できないってことか……!?」
ヤロウも先生に聞く。 だがそれを答えたのは先生ではなかった。 それはサーベだ、先生が走ってきた所からサーベとツルもこちらに走ってきた。
「それが、そういうわけにも行かないんだ……タケシが言うにはだんだんキワミの反応が薄くなってる。 このままじゃキワミはあの化け物に取り込まれ消滅する」
「だから……攻撃を渋っている暇はない」
ツルがそう言い切ったあと、ツルは先生にキワミはあの赤子のどこらへんにいるのかを聞いた。 先生はその問いに答える。
「ちょうどお腹の中だ……多分、胃の中に入っている」
「それが分かれば話は早い」
ツルが赤子の方へ一目散に駆けつけていく。 サーベはツルを追いかけ赤子に近づいていく。 他の皆はただそこに立ち尽くしていた。
「ふっ」
ツルが少し跳び、赤子の胸を剣で切り取っていく。 その剣がもう少しで赤子の胸を切断できそうな時に、ツルは切るのをやめた。
赤子の胸からはドクドクと黒い血が出てくる。 赤子は血が出ている箇所を押さえながら泣き叫ぶ。 皆はその大きい声に耳を塞いだ。 サーベはツルに攻撃をやめた理由を聞く。
「どうしたの?」
「俺が切った箇所にあの化け物とは違う感触があった。 アイツ、臓器の場所を変えることが出来るんだ……少しキワミにも斬撃が当たっちまった……」
「何だって!?」
「確かに……キワミの反応する場所が少し変わっている……」
ツルはその場に立ち尽くす。 どうにかキワミを傷つける事なく救出する方法を探しているのだ。 数秒考え込んだあと、ツルは答えを導き出した。
「サーベ、アイツの足を切れ。 そこにキワミの体は通らない」
「分かった。 足だね?」
サーベは赤子の足を切り、赤子はドスンと言う音を立てながら地面に倒れた。 赤子はうつぶせに倒れている、ツルは次の行動に移した。
「トタロウ、コイツを仰向けにしろ」
「はい、分かりました!」
トタロウはスキルを発動させ、重そうな赤子の体を難なく持ち上げる。 そうしてトタロウは赤子の体を仰向けにした。 ツルは赤子の口に近づき、歯を切り取っていく。
「あぁあああっ!!」
歯を切り取られている赤子は野太い声で泣き叫ぶ。 皆また耳を塞ぐがツルだけは耳を塞がずに赤子の歯を切り取っていく。 そうして全部の歯を切り、歯茎と一緒に歯が地面へと落ちていった。
ツルは剣を投げ捨て、腕を赤子の喉に突っ込んでいく。 皆あり得ないものを見た様子でツルの方を見ているが、ツルは気にせず腹の中にいるキワミを探して行く。
(コレだ……!)
ツルは赤子とは違う感触を手に感じ取った。 それを掴み持ち上げて行く。 たがなかなか力が入らない。 手は胃液によって滑りやすい。
「力貸すよ」
「おう」
サーベがツルを助けに赤子の上に乗る。 サーベはツルの腕を掴み一緒に持ち上げて行く。 そうしてようやく見えた、キワミの姿が。 ツルたちは全力でキワミを持ち上げ、赤子の遠くへ吹っ飛ばした。
「おりゃあああっ!!」
サーベは赤子の首に斬りかかる。 ミチミチミチッと骨を断つ音が聞こえる。 そして赤子の頭は体と離れ離れになった。
「キワミ!」
ルイカがキワミのもとへ駆けつく、しかしキワミの返事はない。 死んではいないが……このままじゃもうじきに死んでしまう。
「何だ……コレは!?」
コザガがキワミの姿を見るなり叫ぶ。 キワミの体には首元から肩にかけて何か黒くて太い血管のような物が浮き出ている。
「これは……! キワミさんが魔物になりかけているのです……!」
ココロがキワミの首元に優しく触れそう判断する。 ヤロウ、ヒナタ、コザガ、トタロウは全員で同じ事を言った。
「お前いつからいた!?」
「あっ……数秒前から……」
どうやらココロはあの大きい音を聞いてここに来たらしいが、皆あの化け物を倒すことに夢中で誰も気づいていなかったらしい。 ヤロウはココロが言っていたことを確認するように聞く。
「魔物になりかけてるっ……て?」
「はい……もう数十分で完全に魔物になってしまいます。 キワミさんを治すにはこの血管を切り取るしか……」
「切り取る……だって?」
トタロウは何かを閃く。 スキルを使うのだ、それはトタロウのではない。 使うのはノシャのスキルだ、トタロウはノシャにできないか聞く。
「お前のスキルで……これを切ることってできないか……!?」
「どうだろ……」
ノシャは心配そうに言う。 当たり前だ、キワミの血管がある所はちょうど首……一歩間違えればキワミは帰らぬ人となる。
「お願いだ……!! お前なら行けるはず……!!」
トタロウはノシャを鼓舞するが、ノシャの顔色は悪いままだ。 クラスメイトを殺すかもしれない事をするなんて、誰もやりたくない。
「それなら……ツルさんやサーベさんに頼んだほうが……」
「残念だけど……それは無理みたいだよ」
「……え?」
キワミの方へ来たサーベがノシャにそう告げる。 ノシャは信じられない様子でサーベを見る。 サーベは赤子がいた場所を指さした。
「あれを見て」
ノシャの目に映ったのは離れ離れになった頭と体がくっついている赤子の姿だった。 その赤子の頭はツルによってまた切り離されるが……また体と繋がり動き始める。
「私たちはアイツの足止めをしなくちゃならない。 だから君が……やってくれ」
サーベは赤子の方へ走っていき、剣を赤子の腹へ突き刺した。 赤子は叫びながら倒れる。 もうキワミを助けられるのはノシャしかいない。
「お願いだ……ノシャ……」
皆ノシャに頼む。 ノシャの息がどんどん荒くなり、それは一目で分かるくらいに顔色が悪くなっている。ノシャは数秒……いや数十秒黙り込んだあと、答えを出した。
「……わかった」
ノシャはスキルを発動させナイフを作り出す。 そのナイフを作る速度はこころなしかいつもより遅く見えた。 ヤロウがノシャに早くするよう急かす。
「おい、早くしろよ……」
「落ち着けヤロウ」
ヒナタとトタロウがヤロウを注意する。 そうしているうちにノシャはナイフを作り出した。 ノシャは震える手でキワミの首元にナイフを運んでいく。
「はーっ……はーっ……はーっ……」
「ノシャ、深呼吸だ」
「すうーっ……はぁーっっ……」
ノシャはトタロウに言われた通り深呼吸をする。 ノシャの震えは少しだけおさまった。 しかし、ノシャの手はまだ震えたままだ。
「はっはっはっはっ……」
ナイフがキワミの首元に近づくたび、ノシャの息がまた荒くなっていく。 ノシャはトタロウに言われた通り息が荒くなるたび深呼吸をし、心を落ち着かせていく。 そうして、その瞬間は訪れた。
ナイフがやっとキワミの首元につく。 トタロウは腕を使い皆にノシャから離れるようポーズを取る。 皆はノシャの元から離れていく。
「ふうーっ……ふうーっ……」
ノシャは目をつぶり、また深呼吸をする。 ノシャは目を開き、覚悟を決めた。 慎重な手つきで黒い血管を切り取っていく。
ナイフが黒い血管にあたり、血が勢いよく噴き出る。 ノシャは一旦慌てたが、また慎重に黒い血管を切り取っていく。
ただ時間だけが過ぎていく。 いや、少しだけだが着実に切り取れている。 そしてやっと首が終わった。 切り離した血管が地面に転がり落ちる。
次は肩の番だ。 ノシャは少しだけ気を緩める、肩なら少しミスしても致命傷にはならないだろう。 しかしそれがミスしていい理由にはならない。 ノシャはさっきと同じように気を引き締め血管を切り取っていく。
肩は楽だった。 首とは違い致命傷にならないし、まず血管の数が少ない。 さっきとは比べ物にならないほど早く血管を切り取れた。 そうしてキワミに生えていた黒い血管は全て切り離すことができた。
ノシャは地面に尻もちをつく。 緊張で呼吸がほとんどできていなかった。 ノシャは思う存分空気を吸う。 ノシャのもとに皆が駆け寄る。
「やったね……! ノシャ!」
ルイカがノシャに言う。 ノシャは笑顔でそれに応えた。 皆の緊張は緩み自然と笑顔が皆に戻る。 それはツルとサーベも同じだ。 不死身だった赤子が血管を切り取った瞬間、灰のように消滅していったのだ。
ただ一人、笑顔ではない人がいる。 それはココロだ。 一人だけ汗をかいている、ヒナタはココロに大丈夫か聞いた。
「ココロ……大丈夫?」
「ああ……大丈夫です。 私は……」
「私は?」
ココロはもう一度キワミの体に触れ、今のキワミの状態を話し始めた。 皆そのことに戦慄する。 どうやら今のキワミは危ない状態らしい。
「確かに数十分で魔物になる可能性は極端に低くなりました……しかしまだ治ってるわけではありません……このままだと3日……早ければ2日で魔物になってしまいます……!」
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