表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

私立D高等学校旧図書館棟

作者: 狩衣旅兎

 旧図書館棟はD高等学校の校門前を通る市道だか県道を挟んだ、斜向かいに建つ三階建ての古びた建物である。

 私が卒業後、校舎に囲まれた空間に図書館が新築されるまて、図書館(室)はそこに在った。

 観音開きのガラスドアを開けると四畳半程のホールがあり、左手に男女別のトイレ、正面に図書室のドア、右手に上階への階段がある。階段は踊り場で向きを変えて、三階まで続く。

 階段を二階に上がると、一階同様正面に男女別のトイレがあり、右手には集会所として使われる図書室と同じ広さの部屋のドア。

 三階は正面にトイレがあるのは同じだが、右手にはシャッターが設置されており、その向こうは幅二m程の通路を挟んで、畳敷きの和室が四つある。

 和室と通路の間には胸壁があり、ガラス窓が嵌められている。


 人の出入りが少ないからか陰のある雰囲気を纏った棟で、背後には墓地が広がっていた。

 初めて足を踏み入れたのは、教師に率いられ二階だか三階まで数人で荷物を運び上げた時。

 その時に不思議に思ったのは、階段の踏み板部分が最上階まで、全て斜め下向きとなっていた事だった。

 僅かな角度であれば気にならないのかもしれないが、ゆっくり注意して足を運ばないと転倒・転落すること可能性が高い。

 施工不良なのか、学園側に何らかの意図があったのかは、分からない。


 一年生の夏。部活の合宿で三階の和室に7日程泊まり込込んだ。

 最初の夜。一年生の部屋に三年生がやってきて、集合をかけた。集まった全員を座らせると、三年生は語り始めた。

「昔、我が校に遠征合宿に訪れた他校の生徒が、ここに宿泊した時。深夜一人の生徒が目覚めて、何気なく通路側に目を向けると、窓の開いた胸壁の上に、坊主頭の首がズラっと並んでいたんだそうだ」

 突然の話に動揺する我々一年生を見て、ニヤっと笑った三年生は「気をつける事だ」と言い残し去っていった。

 

 その年は何事もなく合宿を終えて、翌年の合宿では図書館棟を使わなかった。


 三年生となった夏。この年は何ヶ所かに分散して宿泊することとなった。

 私が割り振られたの図書館棟ではあるが、三階を使用せず、二階の集会所を使うように指示された。

 机や椅子が無い、だだっ広い教室のような集会所に20人程が二列に分かれ、距離を空けて布団を敷いた。


 私は一方列の最奥に布団を敷いた。出入口と反対側に顔を向けると、間近に壁に設置された黒板と教卓があった。

 何事もなく合宿が進んだが、中日も過ぎた頃だったか。就寝までの自由時間を布団に横たわり、文庫本を読んで過ごしていた時だ。

 左耳の至近で「ハァー」と息を吐き掛ける音と共に、キュッキュッと革製品を磨く音がした。

 耳にした音にイメージしたのは、野球のスパイクを磨く姿だった。

 左に顔を向けると誰もおらず、黒板と教卓に壁が目に入るだけ。慌てて周囲を見回すと反対列に誰もいなかった。同じ列の離れた布団に下級生が何人か集まり、楽し気に話し込む姿が見えるばかり。

 そもそも、我々は革製品を使わない部活だ。

 空気清浄機等、聴き間違えを起こす機器は設置されいない。あれは一体なんだったのか?と首を捻り、再び文庫本に向き合う。

 一年生の時に聞かされた、坊主頭の集団の話を思い出したが、吐息も磨く音も二度と耳にすることはなく、不思議なことがあるものだと、やり過ごす事を選んだ。

 その後は何も起こる事なく迎えた、合宿最終日。

 緊張の続く日々が終わり、あとは帰宅するだけで皆の気は緩み和やかな空気が、我々の間に流れていた。荷物を全て運び出し、集会所内の掃除も終わり、あとは窓を閉めるだけ。

 その瞬間、「ガタガタガタガタガタガタ!」

 集会後左最奥部で床と天井を貫く、細い三本のパイプが激しく振動しだした。

 図書室は夏休みで閉館している。三階には誰もいない。

 先程までの和やかな空気は吹き飛び、緊張感が場を包んだ。

 私は窓に駆け寄って周辺を見回すが、振動の源となるようなモノは見えなかった。反対側の窓から外を確認する下級生に問い掛けると、やはり何も見えず聞こえず。

 我々は振動し続けるパイプを見つめる事しか出来なかった。

 何分経ったのか分からない。突然の振動は突然に終わった。

 まるで、誰かがパイプを握りしめて押さえ込んだかのように、振動の強さの割に短時間で余韻も無く・・・・・・

 

 


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ