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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第99話 ハッタリ

挿絵(By みてみん)





 『沈黙の魔眼』。任意発動型の呪いを秘めている。


 ルールを設けて、それを相手に遵守させるタイプだ。

 

 発動すれば髑髏の刺青が浮かんで、組員の証としていた。


 ルールを破れば暴走した後、死亡。守れば、相応の力を得る。


 魔眼で視認。概要の説明。対象者から同意を得るのが通常の手順。


 ――ただ、唯一例外があった。


『汝、沈黙の掟により、弱くなることを禁ずる』


『…………ヘケヘケ?』


 魔物ヘケヘケ。人の言葉が通じなかった相手との強制契約。


 説明と同意を省き、魔眼で視認し、ルールを告げれば発動した。


 理由は定かではなく、魔眼に関しては知識不足で、不明な点が多い。


 魔物だから上手くいったのか、任意発動型だと勝手に思い込んでいたか。


 ――いずれにせよ、試してみる価値はある。


「…………」

 

 カモラは右目の眼帯を取り、黄金の瞳を露わにする。


 瞳の先にいるのは、魔物の対極に位置している神イザナミ。


 目に見えない『酸』を発する能力を秘め、不用意には近付けない。


 ――だからこそ。


「汝、沈黙の掟により、強くなることを禁ずる」


 思いを言霊に乗せ、カモラは海面に立つ神に命令する。


 発動するかは、博打。発動したとしても、不安要素は残る。


 それでも、肉体が腐るリスクを抱えて闘うよりかはマシだった。


「…………」


 一方のイザナミは無表情のまま、口を閉ざしていた。


 効いたかどうかは不明。少なくとも言動からは分からん。


 肌の露出が多い紅白の巫女服を着ていたが、刺青は見えない。


 ヘケヘケのように体内に刻まれた可能性もあるが、断定はできん。


 『酸』を封じた前提で動くのは、危うい。リターンよりリスクが上回る。


 ――こういう場合は『あの手』に限る。


「今、お前に課したのは魔眼の呪いだ。強さに直結する能動的なセンス、および、意思能力を封じた。強行して使うことも可能だが、罰として死が訪れるだろう。それでも構わないなら『酸』を使え。喜んで一緒に死んでやる」


 カモラは諸々の状況を踏まえ、ハッタリをかます。


 元マフィアとしての専売特許であり、十八番と言えた。


 殺し屋とは違って、戦闘力よりも脅迫力が試される役職だ。


 虚実を織り交ぜ、話術で格上の相手を翻弄するのは得意だった。


「まぁ、それは恐ろしい。迂闊に能力は使えませんね。……それが誠なら」


 イザナミは目を眇め、心を見透かすように反応する。


 向こうも馬鹿じゃない。疑いをかけてくるのは当然だった。


「気になるのなら、試してみればいい。困るのはお前と……依り代だけだ」


 ここで黙るのは悪手。相手が嫌がりそうな台詞を並べた。


 神と因果関係がある唯一の人物だ。多少の効果はあるだろう。


 少なくとも、死に所縁のある神を、死で脅すよりはマシに思えた。


 本人じゃなく身内を責め立てるのは、マフィアの常套手段とも言える。


「手慣れていますね。これまで何人の善良な民を毒牙にかけてきたのやら」


「論点をズラすな。今は俺たちとお前の問題だ。闘うか逃げるかハッキリしろ」


 誤魔化そうとする魂胆を見抜き、カモラは遮った。


 マルタとツバキに目線を向け、イザナミに二択を迫る。


 圧をかけて、思考の余地を奪い、自分で選んだ気にさせる。


 神に通用するかは不明だが、人の心理を操る技術の一つだった。


 下調べや相談させる余地を与えない、振り込め詐欺によく使われる。


 マフィアというより、半グレが好む手法だが、場面によっては効果的だ。


「わたくしは――」


 問いに対し、イザナミは決断を下そうとしている。


 本音を言えば、『闘い』を選ばれたら、かなりまずい。


 『酸』を攻略する手立ては現状なく、勝率は極めて悪い。


 誰かを犠牲にする前提で、ようやく勝つ兆しが見えてくる。


 そう思えば、『逃げる』可能性が少し増えた時点で上々だろう。


 最終的に『闘い』を選ばれたとしても、ある程度の納得はできる。


(ん……? なんだ、あれは……)


 そこで視界に入ってきたのは、赤く煌めく何かだった。


 放物線を描き、流れ星のように夜空から落下してきている。


 隕石が落ちてきたで片づけるには、あまりにも都合が良すぎる。


 流れから考えれば、悪いことが起きるような気がしてならなかった。


「落ちる、爆ぜる、溺れるぅぅぅううう!!!!」


 続いて聞こえてきたのは、コミカルな台詞。


 聞き覚えがなかったが、隕石じゃないのは確か。


 敵か味方か判別が全くつかず、頭を悩ましていると。


「ナナコじゃと!? どうしてこんなところに!!!」


 反応を示したのは、ツバキだった。


 態度から考えるに勝手知ったる仲の様子。


 少なくとも、知人以上の関係性はあるのだろう。


 味方になる可能性が飛躍的に上がったのを肌で感じる。


「助けたいんだったら早めに言いな。落ちた先は『酸』の海だよ!」


 フィジカル担当のマルタは判断を迫った。


 奴の実力なら難なくアレを止められるだろう。


「それは、もちろん助け――」


 判断が遅れながらも、ツバキは指示を送ろうとする。


「よっと」


 しかし、それよりも早く行動したのはイザナミだった。


 海面をセンスで蹴りつけ、上空から飛来した何かを止める。


 一瞬、ルール違反に思えたが、強さに直結しないセンスの使用。


 仮に『沈黙の掟』が課されている状態でも誤魔化せる範囲内だろう。


「た、助かりました。どこのどなたか存じませんが、感謝しま……」


 受け止められたのは、金髪サイドテールの鬼。


 紅白の巫女服を着て、赤い槍を両手に握っている。


 姫様のように抱かれた状態で顔を上げようとしていた。


 しかし、言葉に詰まり、時が止まったような反応を見せる。


 いまいち要領の得ない展開だったが、すぐに理由は明かされた。


「危ないところでしたね、お義母かあ様。代わりといってはなんですが、御助力いただけますか?」


 器用にもイザナミは、鬼道葵と呼ばれた依り代のガワを被る。


 『闘う』か『逃げる』。それ以外の面倒臭い択が生まれた瞬間だった。

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