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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末
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第97話 赤熱

挿絵(By みてみん)





 槍術の基本は突き。リーチの長さを活かした戦術が王道。


 短刀や刀が相手の場合、間合い外から一方的に攻め入れます。


 並みの使い手、一般的な意思能力者なら遅れは取らないでしょう。


 ――ですが。


「「――――――――」」


 鍾乳洞内で迸ったのは、赤と黒の閃光でした。

 

 三叉槍の先端と、短刀の刃先が空中で幾度も接触。

 

 相手は若返った夜助さん。間合いは二メートル弱ほど。


 彼の得物と言える短刀の本来のリーチは、一メートル未満。


 どれだけ腕を伸ばしたところで、槍の長さには到底届きません。


 ――しかし、彼の短刀はただの武器ではありません。


 夜限定で切れ味を向上させ、刃の伸縮を自在とする能力。


 特殊機構『鋭伸』を秘め、リーチ差をものともしていません。


 こちらの赤槍による突きを完璧にいなしており、伸びた刃は肉薄。


 気を緩み、甘い槍捌きを見せれば、斬撃を浴びるのはこちらでしょう。


(現状維持の攻防を続けても意味がありません。何か突破口を見つけないと)


 焦りと不安が全身を駆け巡る中、頭を回します。


 夜助さんが手強いのは、他の誰よりも分かっています。


 それも若返った今、鬼の怪力だけでは押し切れないでしょう。


 身体能力の向上は甚だしく、力比べなら負ける可能性もありました。


(仕方ありません。どこかで『アレ』を使うしかなさそうですね……)


 迫り来る黒刃を捌きつつ、私は機を伺っていました。


 ほんのわずかな隙。意思能力を発動できるタイミングを。


「笑止。払ウニ値セヌ」


 すると、そこで発せられたのは、煽り文句でした。 


 手合わせの感触から、見切りをつけられたのでしょう。

 

 言い回しは古風でしたが、舐められた事実は変わりません。


「言ってくれますね……勝負はここからですよ!!」


 私は突くモードから、払うモードに切り替えました。


 防戦一方の構え。無数の刺突を払いのけるだけとなります。


「…………」


 彼は手を休めることはなく、むしろ、手数は増える一方でした。


 ここで勝負を決め切る。そんな覚悟と意思を間接的に感じ取れます。


 実際、払いが追いつかず、勢い余った刺突が左頬をかすめていきました。


 穢れを払うという目的の先は不明ですが、このままだと押し負けるでしょう。


 ――ただ、私の槍、『赤火大蛇』はスロースターター。


 特殊機構『赤熱』。それは、火を生み出すだけではありません。


 勢いが乗り、空気抵抗による摩擦が生じることで、真価を発揮します。


「私の槍は真っ赤に燃える!! 未来を掴めと猛り狂う!!!」


 その文言と共に、三叉の槍先は延長され、熱を帯びた刃が出現。


 薙刀のような形状となり、火力もリーチも全てが強化された最終形態。


「――――」

 

 遅いと言わんばかりに振るわれるのは、黒刃の刺突。


 目にも留まらぬ速さで、私の眼窩に迫ろうとしていました。


「……っっ」


 私は受け入れます。刃の侵入を許し、右目は貫かれていきました。


 右半分の視野が欠け、脳に無数の針を刺されたような痛みが走ります。


 ――代わりに得たのは反撃の隙。


 明らかに一手遅れ、怯んでいるようにも見えます。


 私は刃を沿うように前進して、彼の下へと迫りました。


 脳が擦り切れるような痛みを体感しながら、私は叫びます。


「せぇぇぇぇきねつ……!! 神、槍ゥゥゥゥッ!!!!!」


 夜助さんの身体に放たれるのは、赤熱の刃。


 彼を信じているからこそ向けられた、私の全力全開。


 思いの丈により更に過熱され、必殺の威力を秘めるでしょう。


「隙ダラケダ……」


 夜助さんは刃を縮めて、大きく前へと前進していました。


 自殺行為と思える行動ですが、この場では理に適っています。


 リーチの長さの欠点。懐に潜られた場合は、途端に弱くなります。


 槍の先で切り裂くことはできず、取り回しが悪いため、反撃が遅れる。


 大振りで威力が高い一撃である分、隙が生まれてしまうのは、必然でした。


「読み、通りです……!!」


 私は、槍先を軌道修正し、地面へと衝突させました。


 有り余る熱エネルギーをぶつけ、足元にある岩が炸裂します。


 高速の石礫と化し、反撃を試みた夜助さんの方へと迫っていきました。


「……っっ」


 そこで彼は回避を優先して、跳躍。


 見事に石礫を避け、無傷の状態を保っています。


(さすがは夜助さんの肉体。それぐらいはやってのけますよね)


 私が寄せるのは、『全幅の信頼』でした。


 彼の人格でなかろうと、彼の肉体ならできる。


 そう考え、頭の中でプランを組み立て、今に至った。


 生じたのは絶好の隙。叩き込むなら、ここしかありません。


「――終わりです………………奇魂くしみたま!!!」


 私が意思込め、振るうのは右手の人差し指。


 吸い込まれるように夜助さんの額にピタリと接触。


 意思能力『奇魂くしみたま』。その発動条件が満たされた瞬間でした。

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