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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第87話 尋問

挿絵(By みてみん)





 覚醒都市バイカルヴェイ中央地下。司令部内、尋問室。


 コンクリートが剥き出しの狭い空間には、机と椅子が並ぶ。


 椅子に座って、手錠で拘束されているのは、ジーナ・ロマノフ。


 彼女の尋問役を買って出たのは、アレクセイ・カラシニコフだった。


「…………」


 それをマジックミラー越しに見つめるのは、ドミトリー元帥。


 ミリタリーカットされた薄茶色の髪をして、白の軍服を着ている。


 左胸には数々の略綬が刻まれ、二十代と思わしき若々しい美貌を保つ。


 ただ、腰に両手を当て、見た目とは不釣り合いな威厳と年季が感じられた。


(これでは埒が明かん。時間の無駄……ですかね)


 生温い尋問を目の当たりにして、開拓期時代の血が騒いだ。


 こうして時間を浪費する間にも、都市の状況は悪化するばかり。


 かといって、元帥が自ら現場に出向くことは指揮系統の混乱を招く。


 ――尋問の場合はどうか。


 『肩書きの重み』と『都市の状況』を天秤にかける。


 深く考え込むことはなく、気付けば身体は動き出していた。


 ◇◇◇


「さっさと仲間の居場所を吐け、ジーナ! 今ならまだ軍に戻れるんだぞ!!」


 アレクセイは軍服の襟元を掴んで、叱咤した。


 首元が軽く締まり、徐々に息苦しさを感じていく。


 吐けば即解放、吐かなければエスカレートするはずだ。


 ――飴と鞭。


 お手本じみた典型的な尋問を試みている。


 訓練を受けてない素人なら、通用するだろう。


 仲間のことよりも、目先の快楽を優先するはずだ。


 ――だが。


「俺はこの程度じゃ口を割らない。お前が一番分かってるはずだろ、アレクセイ」


 冷めた目線を向け、煽り立てるように告げる。


 長い付き合いがあるからこそ、説得力は十分だろう。

 

 尋問は更にエスカレートするだろうが、狙いはそこにある。


「……あぁ、そうだろうな。物事には順序というものがある」


 それを見越していたのか、アレクセイは白い袖をまくり上げる。


 暴力で吐かせる気だろう。典型というより、ここまで来たら古典だな。


「やるなら徹底的にやれよ。加減すれば、立場が危ぶまれるのはお前だ」


「無論、そのつもりだ。後から文句を垂れるのだけは、無しにしてくれよ!」


 挑発じみた言葉に対し、アレクセイは拳で応じようとする。


 薄っすらとセンスを纏い、手心を加えるつもりがないように見えた。


「…………」


 それを見届け、ほんのわずかに口角を上げる。

 

 作戦通りだ。このままいけば、次の段階に進むだろう。


 尻上がりにセンスを強めていき、一定の水準を超えた時が合図。


「そこまでだ、兵士アレクセイ。ここからは私が尋問を担当する」


 しかし、望んだ展開に待ったをかける男がいた。


 尋問室の扉が開かれ、現れたのは、ドミトリー元帥。


 最高司令官に位置し、都市の権力の大部分を握っている。


「…………了解、しました」


 アレクセイは当たる寸前で拳を止め、命令に従う。


 軍の一員である以上は逆らえず、不服ながら受け入れている。


(思ったよりも大物がきたな。まぁ、願ったり叶ったりだが)


 ジーナは元帥の方へと視線を向け、次なる尋問に備える。


 気にすべきは、どんな尋問をされ、どうセンスを引き出すかだ。


(あれは……)


 目に留まったのは、元帥が持つ白いアタッシュケース。


 それを机に置き、早速、その中身を取り出そうとしていた。


「こいつは、ヒヨスチンペントタール。強い痛みを引き起こす神経刺激剤でね。2ccでも投与すれば、全身の神経が焼き爛れるような痛みが走る。8ccまで投与すれば、心臓発作が起きる可能性がある。段階を踏んで増やすのが、尋問の常套手段ではあるのだがね……君は他の者よりも少しばかり骨があるように見える」


 元帥が手に持つのは注射器と、薬品が入った小瓶だった。


 慣れた手つきで注射器の押し子を引き、シリンジ内に薬品を投入。

 

 こちらの右腕の袖をめくり、肘の内側の静脈に注射針を突き刺し、告げた。

 

「10cc。致死の峠を攻めようか。生き残れるよう、白き神に祈るがいい」


 限界を超えた投薬。忍耐力を評価されたがゆえの弊害。


 成す術もなく投与され、息をつく暇もなく、それは訪れた。


「くっ、うっっ!? …………あぁぁぁあぁぁっぁあああっっっ!!!!!」


 眩暈、痙攣、激痛。意識が混濁し、冷や汗が流れ出る。


 地面をのたうち回りたい衝動に駆られ、気が気でなくなる。


 叫ぶ以外の行動の余地を奪われ、脳と神経は悲鳴を上げていた。


「さて、仲間の数と配置を訊かせてもらえるかね?」


 何事もなかったように、元帥は尋問を開始していた。


 昼下がりのコーヒーブレイクのような、軽いトーンでだ。


 腸が煮えくり返りそうになったが、それが頭を冷静にさせた。


 激痛は変わらずだが、必要最低限の思考できる余地が残った状態。 


 ただ、今の調子から考えても、発言できるのは三言程度が限界だろう。


 ――その中で最善を尽くす。


 必要最小限の口数で、最大限の効果を引き出す。


 ここで選ぶべき言葉は、自然と頭の中に浮かんでいた。


「男ならっ、拳で来いよ……メス犬(スーカ)


 意識が朦朧とする中、言い放つのは罵詈雑言。


 元帥という肩書きを考えれば、不遜極まりない言葉。


「ふむ……これは失礼した。思った以上に骨のある兵士だったようだね」


 逆鱗に触れたのか、尋問の一環なのかは全く判断がつかない。


 ただ、反応があった。腕をまくって握り拳を作り、センスを纏う。


 拳に纏われるのは、禍々しい黒色の光。間違いなく致死量を超えてる。


 全力で防御しても助かるかどうか怪しいレベル。加減する気はないらしい。


「…………」


 ジーナは受け入れる。暴力が振るわれるのを心待つ。


 耐えがたい痛みに全身を焼かれながら、待ち望んでいた。


「望み通り食らうといい。元帥の拳を!!」


「北辰流――【風信子ヒヤシンス】!!!!」


 仲間の介入。尋問室の位置を割り出し、形勢逆転する一手。


 風の刃が天井を切り裂き、颯爽と現れたのは、二人の仲間だった。


「はぁい。アタシたちのことが知りたかったんでしょ」


「話があります。……ここの責任者はどちらにいますか」


 ここからが本番。アザミ考案の作戦がようやく開始された。 

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