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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末
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第86話 峠道

挿絵(By みてみん)





 落ちる。身体は重力に引かれ、落ちていく。


 峠道から蹴飛ばされ、向かった先は底なしの闇。


 このまま抵抗しなければ、地獄へと導かれるらしい。


 真偽は定かではなかったが、可能性としては十分あった。


「……」


 ボルドは起きた状況を受け止め、考える。


 このまま落ちるべきか、抗おうとするべきか。


 一般人なら落ちる以外ないだろうが、打開は可能。


 センスを固定化し、簡易的な足場を作り、蹴りつける。


 方法は単純で助かる余地はあるが、状況は少し複雑だった。


『あっそ。じゃあ、落ちて』


 抗う気力を奪うのは、落ちた原因となった少女ルーチェ。


 四匹の魔獣を殺し、捧げたことで生まれた人間と魔獣のハーフ。


 その責任を問われ、受け入れる覚悟を見せた結果が『蹴落し』だった。


 ――自ずと落ちる方へ思考は傾く。


 魔獣を殺したのは事実であり、彼女には責める資格がある。


 殺された怨みが受け継がれていると仮定するなら、当然の反応。


 どう考えても抗う理由はなく、自己保身に走るほど腐ってはいない。


 そう考える間にも平衡感覚がなくなり、視界が闇に染まろうとしていた。


(『死んで』ではなく、『落ちて』ときたか……)


 頭に残るのは、わずかなニュアンスの違い。


 考える余地があるとすれば、これ以外なかった。


 ◇◇◇


 煉獄界。獄門峠。その峠道の途中には、三名の姿があった。


 堂々と『煉獄の門』へと歩みを進め、落ちた者は気に留めない。

 

 同じ志を持った関係ながら、誰も手を差し伸べようとはしなかった。


「……さっきのこと、叱らないの?」


 ルーチェは歩みを止めて、ふと問いかける。


 視線の先には、上半身裸の赤髪の青年ベズドナ。


 彼女の生誕に関わり、結果として父親と認識される。


 仲間を蹴落とす行為に引け目を感じ、反応を求めていた。


「僕も片棒を担いだ身だ。責める気にはなれないね。……それに」


 ベズドナは端的な感想を語ると、足を止めて振り向いた。


 そのまま腰を落として、幼いルーチェと目線を合わせている。


 気まずそうに目を逸らそうとする彼女に向け、ベズドナは語った。


「殺すつもりはなかっただろ。戻ってくるかどうかは彼次第さ」


 決して叱ることはなく、一人の人間として真摯に向き合う。


 子供扱いせず、対等な立場として自分の意見を端的に述べていた。


「そう、だけど――」


 ルーチェは言い淀む。戸惑いの方が勝っている。


 万が一を想定したのか、顔の血色は悪くなっていく。


 いっそのこと、叱られた方が楽だと言わんばかりだった。


「おい……そこの囚人、止まらんかい。戦果はどうした?」


 そこに現れたのは、一人の偉そうな男性憲兵だった。


 顔はヘルメットで隠れ、白い軍服を着て、左腕には腕章。


 肩にぶら下げた小銃を構え、銃口を向けて敵意を露わにする。


「あー、そのことだけど……」


 両手を上げ、ベズドナは目線を逸らし、はぐらかす。


「いや、言わんでいい。戦果がないなら、ここが終点――」


 憲兵は脅し文句と共に、小銃の引き金に手をかける。


 すでに装弾されている弾丸が、今にも放たれようとしていた。


「だ――――」


 しかし、次の瞬間には憲兵は峠道に倒れ込んだ。

 

 背後には人影があり、特徴的な辮髪が風で揺れている。


「戦果は君と頼もしい味方だよ。……と言っても聞こえてないか」


 ベスドナは煽る言葉を並べ立て、憲兵のヘルメットを外す。


 そこには白目を剥き、泡を吹く、短い薄茶髪の男の姿があった。

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