第80話 激闘
停電開始から5分経過。覚醒都市バイカルヴェイ北部。鉄塔付近。
引き千切れた無数の電線が散らばり、地絡と呼ばれる放電現象が発生。
地面に高圧の電流が流れ込み、足場によっては感電する恐れのある悪環境。
――そこで相対するのは大人と子供。
毛利広島とジーノ・ロマノフは目線を合わす。
一方は見下ろし、一方は見上げる姿勢で睨み合う。
身長も体格も広島が上。肉体的な要素はジーノが劣る。
ただ、精神的な要素。互いが纏う光の強さは拮抗していた。
「その年で、そのセンス量……肉体系じゃの。若い割に大した練度じゃ」
広島は主観的な事実を基に、ジーノを評価する。
本来、身体に纏う光、『顕在センス量』の目測は困難。
体調や精神状態で増減し、努力と才能と系統差で変動する。
感情の爆発で増える場合も多く、平常時の予想は当てにならない。
――ただ、相手の系統を絞る指標にはなりやすい。
広島が口にした『肉体系』は、身体強化を得意とする系統。
それに直結する『顕在センス量』は、他系統より多いのが特徴。
残る『芸術系』と『感覚系』にはない、抜きん出た強みだと言えた。
どの系統でも鍛錬により、『顕在センス量』を増やせるが、時間がかかる。
雪玉のように転がすほど増える仕様だが、最初の雪玉が大きいのが『肉体系』。
――年齢が若いジーノは、その特徴と当てはまる。
小さな雪玉を大きくする時間はなく、初動の大きさが肝心。
若くして『顕在センス量』が並ぶのは、『肉体系』だと予想していた。
「系統は勝敗に直結しない。……そうでしょ?」
否定も肯定もせず、ジーノは本質的な部分に触れる。
実際、系統が確定したところで、気休めにしかならない。
中身不明の宝箱の寸法を測っても、意味がないのと同じだった。
「全くもってその通り。早速じゃが、味見させてもらうけぇな!!!」
広島は同意し、センスを纏った右拳を振るい、戦闘は始まった。
◇◇◇
振るわれるのは、何の工夫もない右ストレート。
攻防力は7対3。拳の威力を高め、身体は最低限守る。
黄金比とも言える配分で、教科書通りの戦闘手法だった。
普通なら警戒に値しない。正面から打ち合っても勝てる部類。
「――――」
ただ、僕の身体は迎撃より回避を優先していた。
それほどの『顕在センス量』。見た目以上の圧がある。
目算は五分でも、衝突時に跳ね上がる可能性も考えられた。
デフォルトでこれなら、能力に加算される出力はとんでもない。
――だからこその、回避。
そもそも意思能力戦は、避けるのが基本選択肢だった。
触れることで発動する能力が多く、一撃で決まることも多い。
さっきは模擬戦だから打ち合ったけど、今回はそうもいかなかった。
「どうしたぁ! あんたの実力は、そがぁなもんか!?」
煽り立てる言葉と共に振るわれるのは、無数の正拳突き。
右拳と左拳を交互に繰り出し、的確に正中線を狙ってきていた。
(ベースは空手かな? 基礎も型もガチガチだ。攻防力移動もムラがない)
僕は迫る拳を紙一重で回避しながら、思考を回していた。
動きは単純だけど、一つ一つの動作が洗練されて、隙がない。
恐らく、型に動きを絞ることで、試行錯誤の精度を高めた結果だ。
オムライスだけ作る人と、洋食を満遍なく作る人では、経験値が違う。
オムライス勝負となった場合なら、どちらが勝つかなんて目に見えていた。
――彼女の場合は前者。
正拳突きが基本の型に動きを絞り、それだけに特化した。
だから、攻防力の移動に迷いがなく、隙が全く見えてこない。
(これは……いい刺激になりそうだ。得られる経験値はデカい)
鬼気迫る攻防を繰り返しながら、僕は密かに燃えていた。
余所者と闘えるだけでも貴重なのに、相手は異国の武術使い。
それも、相当な上澄みのはず。心が昂ぶらずにはいられなかった。
「じゃあそろそろ……反撃といこうかな」
おおよその予想を立てたところで、僕は大きく跳躍。
垂直跳びの要領で、地上から数十メートル上空まで跳んだ。
敵を見下ろせる位置にいて、今度は彼女が僕を見上げている構図。
「はあああああっ!!!!」
基本には基本を。僕は両手から連続で意思弾を放つ。
幾重の白い閃光が暗闇を切り裂き、眼下の広島へと迫る。
被害範囲は予想済み。鉄塔や変電所に届かない範囲に絞った。
流星の如く降り注ぎ、空爆めいた衝撃が着弾地点で炸裂していた。
土煙を上げ、視界は不明瞭の状態。相手が回避した素振りは見えない。
普通なら慢心する。勝ち誇った笑みを浮かべ、煙が晴れるのを静かに待つ。
「――」
ただ、僕はあえて降下し、煙の中に突っ込んだ。
気配を殺し、敵が生きている前提で奇襲を画策していた。
見えてきたのは、腕をクロスさせて、防御する姿勢を作った彼女。
手傷はほとんどなく、僕が放った渾身の意思弾をセンスだけで防いでいる。
(……捉えた。これなら!)
その死角。背後に潜り込んだ僕は、右拳を振りかぶる。
センスはギリギリまで絶ち、身体に接触した瞬間に解き放つ。
「……っ!!?」
しかし、その時はやってこない。拳を掴まれ、インパクトがズレる。
センスを纏っていない通常の拳に威力はなく、容易く受け止められていた。
「つーかまえた。ここからは、根性勝負じゃ!!!」
彼女は拳を引き寄せ、向かった先は、地絡が起きる地面。
電線が地面に接触し、高電圧の電流が流れている危険な足場。
そこに迷いなく突っ込み、僕たちの身体に走ったのは自然界の脅威。
「「……ッッッ!!!!!!!」」
大量の電流が流れ込み、我慢比べが始まった。




