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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第78話 交わらない思い

挿絵(By みてみん)





 アレクセイとは一夜限りの関係だった。


 任務終わりに酔った勢いで女と男になった。


 付き合うとかはなく、今まで通りの関係が続く。


 身籠っていた期間は、太ったと誤魔化して活動した。


 出産前は、怪我をしたと言い張って、軍を休んでやった。


 出産後は、『ロザリア』に預け、養育と教育を全て丸投げした。


 ――子供の件はアレクセイに話してない。


 そもそも、お腹が膨れてきたのは、行為から半世紀以上も後。


 出産に気付いたとしても、まさか自分が父親とは思わないはずだ。


 打ち明けるか考えたが、嫁と子供がいるのは知ってたし、身を引いた。


 略奪愛なんてものに興味はないし、俺には他に優先するべきことがあった。


「お前は俺の敵なんだよ、アレクセイ!!!」


 時は現在。覚醒都市バイカルヴェイの変電所前。


 俺は意思を弾に変え、小銃に装填し、銃口を向ける。


 ついでに憲兵のヘルメットも外し、対等の条件で挑んだ。


 ――弾に込めるのは、家族愛。


 『電力を止める』ことが、最終的な目標達成に繋がる。


 相手が仲間であろうとも、この思いは止められやしなかった。


 ◇◇◇ 


 向けられるのは、銃口。告げられるのは、敵対宣言。


 前後関係が分からない。電力を止めたいらしいが、理由は不明。


 少なくとも、『電力を復旧させたい』こちらからすれば、対極の考えだった。 


「馬鹿、野郎が!!!」


 私は意思を弾に変え、ボルトレバーを引いて、薬室に装填。


 ボルトを押し戻し、撃針がコッキングされ、撃発の準備が整う。


 同じようで違う手順。ジーナに比べ、ひと手間かかる工程を加える。


 ――どちらでも発砲は可能。


 配給された小銃は、意思の力で生成された物体だった。


 発砲の手順や方法は、撃ち手が調整でき、自由な解釈が可能。


 ジーナのように、弾を薬室内で生成し、コッキングの省略もできる。


 時短による発射速度の向上は甚だしく、ひと手間多いこちらは初速で劣る。


 ――だが。


「「………………っっ!!!」」


 互いに引き金を絞り、先に飛来するのは三発の弾丸。


 ジーナは通常の手順を省略し、『連射』を可能としていた。


 撃ち手により強みが変わる小銃の奥深い点であり、個性の象徴。


 面倒くさがりな性格が顕著に表現され、合理性の塊がこちらへと迫る。


「――拡大せよ(ウヴェリーチ)


 私は言霊を乗せ、数と速度で劣る一発にリソースを割く。


 発射手順を守り、詠唱を加えることで可能としたのは『拡大』。


 巨大化した弾丸は身の丈を超えて、迫る三発の弾丸を容易く弾いた。


 それどころか、勢いと速度はそのままに質量の塊がジーナに襲いかかる。


「……よっと、さすがだな。だが、俺の狙いはお前じゃない」


 跳び箱のように弾丸を回避すると、銃口を向けた先には変圧器。


 発電された電力を、家庭用に向けた電圧に変換するための心臓部分。


 標的は数百メートル先にあるが、意思で強化された弾なら届くし、貫く。


 致命的な損傷に繋がれば、数週間か、最悪、数か月の間は停電が続くだろう。


(くっそ……。間に合わない)


 次弾を装填するが、発射工程に手間取り、致命的な遅れが生じる。


 こちらが引き金を引いた頃には、ジーナの弾丸が変圧器を貫くはずだ。


 ――そうなれば、孫娘ソーニャの命に関わる。


 具体的に言えば、『魔獣化』が進行し、暴走する危険性がある。


 そうなれば、殺処分するしかなくなり、最悪の結末を迎えることになる。


「なぜだ、どうして……っっ」


 間に合わないことが分かり、私はジーナを言葉で責め立てる。


 電力を止めたいにしても、その先にある目的がまるで見えてない。


 都市を守りたいという普段の言動から逆行し、破滅の道を歩んでいる。


 無意味な悪行に走らない性格だと知っているがゆえに、どうも歯痒かった。


「話せば長くなる。今は黙って見届けてくれ。世界の終末を」


 ジーナは何かを悟ったような表情を作り、冷ややかに語る。


 視線の先にある弾丸は、暗闇を切り裂き、変圧器に届こうとしていた。


 ◇◇◇


 意識はギリギリ残っていた。言葉は話せないけど、必要最低限は動ける。


 そういう能力だった。『自由に動き回ること』に執着し、リソースを割いた。


 ――夢見る前衛(アヴァンギャルド)


 睡眠状態の時に発動可能とし、本体と同等の分身を生成する。


 医療ポッドに閉じ込められる不自由さが生んだ、自由への衝動だった。


「…………」


 白いドレスのスカートを揺らし、私は変圧器の前にたどり着く。


 恐らくこれは、正気を保ったまま取れる最後の行動であり、意思表示。


「後のことは任せるから、絶対助けてよね。おじい、ちゃん……」


 迫り来る弾丸をその身で受け止め、変圧器を守り切る。


 ショート寸前の言語野を酷使し、より良い未来に期待を込めた。 

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