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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第77話 黄金期

挿絵(By みてみん)





 兄貴が昏睡状態になり、数十年の時が流れていた。


 都市の建造は進み、『水』と『電気』が安定供給される。


 体内では『煉獄の門』が発見され、煉獄界との往来が可能に。


 魔獣の臓物や資源を調達でき、文明は飛躍的な進歩を遂げていた。


 最低限の衣食住は担保され、魔獣を食した住民は『魔獣化』を覚える。


 『完全魔獣化』による暴走がデメリットだが、長寿になるメリットもあった。


 ――付いた街の名は『覚醒都市バイカルヴェイ』。


 誰が計画し、誰が命名したのかは、未だに分からない。


 そもそも知る気がなく、他にやるべきことが存在していた。


「――――」


 俺が駆け上がるのは、建設途中のビルの階段だった。


 手すりはなく、足を踏み外せば、タダじゃ済まない高さ。


 完成度は50%程度。柱、梁、床などの構造部分の工事は完了。


 内装と外装は未完で、資材や工具がコンクリートの床に散乱する。


 ――最終的にたどり着いたのは、屋上。


 仮説足場や、覚醒都市のビル群が見通せる景観が広がる。


 その視界の中心。屋上の縁には、赤髪の青年が立っていた。


 ダークレッドの軍服を着込み、バックパックを背負っている。


「どうしてお前がここにいる。ベズドナ・イワノフ……っ!!!」


 白の軍服を着る俺は、小銃の銃口を向け、厳しい口調で追及する。


 相手は敵であり、幼馴染であり、巨大生物に導いた可能性のある人物だった。


「寄生も兼ねた観光かな。別に一人ぐらい増えても負担にはならないだろ?」


 当の本人は、悪びれる素振りもなく、澄ました顔で語る。


 真に受けるなら、ここで知らぬ間に生活していたことになる。


 問題は何を目的として、いつから覚醒都市に住んでいるかだった。


 直接訊いてやってもいいが、簡単に話してくれるような相手じゃない。


「一人か。少なく見積もり過ぎだな。お前のせいで、何人が亡くなったと思う!」


 感情的になったように装い、俺は奴の行いを責め立てる。


 ベズドナは赤軍に属し、俺たち白軍を敗走まで追いやった知将。


 道中では約100万人の白軍と亡命者が亡くなり、その責任の一端を担う。


「その人たちにはお悔やみ申し上げるが、君たちはこうして生きてるだろ。過去のいざこざを蒸し返すよりも、やるべきことがあるんじゃないのかな?」


 銃口に怯える様子はなく、ベズドナは淡々と意見を並べる。


 一見、まともなことを言ってるように聞こえるのが、性質が悪い。


 向こうの目的を明かすことなく、白軍の情報を一方的に引き出す算段だ。


「俺は今の生活に満足してるし、納得してる。強いて言うなら、この平穏を揺るがす可能性のある、お前が邪魔なぐらいだ。鼠のようにコソコソ付け回るだけで、都市と住民に貢献するつもりがないなら、この場で消えてくれ」


 述べるのは、白軍の活動方針じゃなく、俺個人の見解。


 これならいくら聞かれても、何の情報漏洩にもならなかった。


「……貢献に繋がる有益な情報を落としたら、見逃してくれるのかな?」


「内容次第だな。俺の主観に刺されば、この場は見逃してやってもいい。ただ、あくまで個人の範疇だ。お前が白軍にヘマをして見つかれば、庇えない。それに、どれほどの期間、俺が見逃すかは、『情報の価値』と『お前の活動』次第だ。都市に不利益を被ると判断したら、軍に報告してやるし、俺自らの手で裁きを下す」


 ぶら下げた餌にベズドナは食いつき、俺は好条件を付け加える。


 ここまで言えば、恐らく乗ってくるだろうが、その先が重要だった。


「順当な条件だね。それで乗ってあげるよ。心して聞くといい」


 ベズドナは勿体ぶるように、丁寧に前置きを挟む。


 何の拘束力もない口約束は成立し、内容を待つばかり。


 最悪、戦闘になる可能性も考慮して、俺は気を引き締めた。


「君のお腹に宿る子は、都市の存続に関わる。何が起きても絶対に死守しろ」


 そこで語られたのは、裏の取りようがない未来の『情報』。


 それっぽいことを言ってるだけの可能性もあるし、信憑性は皆無。


 客観的な目線で見れば、現時点だと何の価値もなく、無視するのが普通。


「……行け。気が変わらないうちに、俺の目の届かないところまで失せやがれ」


 しかし俺は、銃口を下ろして、ベズドナを見逃した。


 奴は何も言わず、屋上から飛び降り、闇に紛れていった。


 移した視線の先には、『教育棟ビル建設工事』と書かれた看板。


「これでいいんだよな……。アレクセイ……」


 お腹をさすり、俺は父親になる男の名前を口にする。


 彼の子供が生まれたのは、今より半世紀以上先のことだった。

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