表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/269

第70話 幸福の反作用

挿絵(By みてみん)





 リーチェ。イタリア語で幸福を意味する言葉らしい。


 その名の由来通り、身の回りで恵まれることが多かった。


 思いが反転する呪い以外は、常にツイていると言ってもいい。


 身に危険が迫ろうとも、最終的にはどうにかなることが多かった。


 自助努力の範疇を超えている場合でも、予期せぬ第三者に助けられる。


 ――エミリアがまさにそうだった。


 移動系の能力により、命を三度ほど救われている。


 出会いは偶然だし、発動タイミングは彼女に依存する。


 緊急時は意思疎通が取れない場合もあるし、運でしかない。


 セルゲイと出会い、信用されたのも、ある種の幸運だと言える。


 ただ、良いことだけが起こるわけもなく、悪いことも存在していた。


 ――周りには不幸が訪れる。


 覚醒都市の場合は、訪れた後に大規模停電が発生。


 さらには、魔獣の巣窟と繋がる『煉獄の門』が開いた。


 目に見えた実害が同時に起き、被害の拡大は避けられない。


 偶然と思い込めるなら楽だけど、自覚があるから無視できない。


「……エミリア、案内してもらえる? 開いた門の前に」


 色々と思考を巡らせた上で、リーチェは決断を下す。

 

 超常現象を対策する。それが不幸を招いた者の責務だった。


「もちろん構いませんが、パーティ編成はどうされますか?」


 エミリアは前向きに検討し、話を進める。


 辺りにいるのは、ベクター+覚醒都市の住民。


 ツアーガイドに巻き込めば、全員の移動はできる。


 実力も高めで、連れて行けば役に立つのは間違いない。


 ――ただ、気心の知れた仲じゃない。


 背景も知らないし、目的や動機も分からない。


 全員の意見を擦り合わせる間にも、事態は悪化する。


「ベクター以外は巻き込めない。私たちだけで事態を収拾する」


 リーチェは早急に結論を告げ、方向性を示した。


 中身がダンテの疑惑があるけど、この際どっちでもいい。


 協力する気があるなら、どちらも戦力になるのは間違いなかった。


「承知しました。でしたら……」


 指示に従い、エミリアは案内を開始しようとしている。


「だーめ。あたしも連れてってもらうよ。門の紹介も必要なんでしょ?」


 そこに口を挟んだのは、ターニャだった。


 目つきを鋭くさせ、こちらの意を汲んでいる様子。


 移動系能力の縛りが説明済みなこともあって、理解が早い。


「僕も同行させてもらうよ。監視しておけとの大尉のお達しだからね」


 さらに、口を閉ざしていたオレグが参戦を希望する。


 言う必要のない本音も添えて、活躍する気満々のご様子。


「……」


 アレクセイは沈黙を保ち、顔を青ざめている。


 命令が別にあるのか、他のことを憂いているのか。


 どちらか判別できないけど、無理強いする必要はない。


「二名追加ね。……詳しく説明する暇はないけど、そっちはどうする?」


 リーチェは、ターニャとオレグの申し出を承諾。


 念のため確認を取ったのは、教師と二人の生徒だった。


「わたくしどもは電力の復旧に努めますので、どうぞお構いなく」


 ロザリアは短く目的を告げ、参加をやんわりと拒否。


 ソーニャは口を閉ざしたまま、気絶するジーノを背負う。


 これで、ほぼ全員の意見が出揃い、残っているのは移動のみ。


「聞いた通りよ。参加は私、ベクター、ターニャ、オレグの四名」


「ツアーガイドを開始します。次の目的地は『煉獄の門』でございます」


 必要最小限の会話で意思疎通を図り、エミリアは能力を発動。


 観光案内に承諾した五名を、不幸を呼ぶ元凶へと運び込んでいった。


 ◇◇◇


 電力が止まった。その事実に冷や汗が止まってくれない。


 それに付随した問題を想像し、任務どころじゃなくなっていた。


「……ソーニャ、無事なら返事をしろ」


 アレクセイは、屋上から去ろうとする孫娘に語りかける。


 血縁関係者の事実を隠すという誓いを忘れ、確認してしまっていた。


「…………」


 返事はない。魂の抜けた人形のように屋上から飛び降りる。

 

 元の性格から考えて、無視はあり得ない。聞けば必ず応答する。


 答えられなくなったということは、恐らく、病状が進行している証。


(待ってろ、ソーニャ。今、俺が見舞いに行ってやるからな)


 アレクセイが目指すのは、鉄塔でも門でもない。


 孫娘ソーニャの本体が隔離されている『病棟』だった。


 ◇◇◇


「……」


 教育棟ビルの屋上に着地するのは、熊のように屈強な男。


 セルゲイ大尉は、元帥の命令を受け、侵入者の捜索にあたる。


 しかし、そこに人影はなく、誰かが戦っていた跡が残るのみだった。


「ぬかった。あと一歩、及ばんかったか……っ!」


 セルゲイはその場で足踏みし、屋上に亀裂を走らせる。


 余所者の侵入を許し、停電を止められず、煉獄の門が開いた。


 責任の所在は全て自分にあり、部下に負わせるのは見当違いだった。


 ――その原因を作ったのは、一人の侵入者。


 気心を許してしまった要因であり、『好き』を操る能力者。


 良き隣人と錯覚し、覚醒都市を悪い方向へと導くであろう諸悪の根源。


「エミリア・アーサー。次に顔を合わせる時は、覚えておるがいい……」


 胸の内を支配する人物を吐露し、セルゲイは暗闇に消えていった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ