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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第69話 良き隣人

挿絵(By みてみん)





 停電が起こる数分前。覚醒都市中央には司令部が存在した。


 防衛上の観点から地下に建造され、シェルターの役割も果たす。


 都市機能を維持する『白龍の間』。その次点で重要な施設だと言えた。


 指令室、情報室、会議室など、作戦実行に必要な部屋が複数備わっている。


 ――ここは元帥執務室。


 白軍における最高指揮官が個々の業務を行う場所。


 棚、椅子、執務机、軍の旗が置かれたシンプルな部屋。


 そこに足を運ぶセルゲイ大尉は、諸々の報告を終えていた。


 本来なら、白軍全体を統括する『本部』の事務処理で済む作業。


 作戦指揮の最前線、『司令部』にわざわざ呼ばれた理由は不明だった。


「不躾な質問だが、世界には100通りの魂しか存在せんとしたらどうするかね」


 渋い声を響かせるのは最高司令官、ドミトリー・クズネツォフ元帥。


 ミリタリーカットされた短い薄茶髪で、氷のように冷たい青の瞳を宿す。  


 身体は細く、鼻梁は高く、無駄毛はなく、清潔感があって、見た目は二十代。


 ――その割には、内容に年季が入っている。


 哲学的な問いであり、物腰も話し方も印象とは合わない。


 人生を数周しているような落ち着きを払い、先を見通している。


 実際、年齢は100歳を優に超え、都市内でも最長寿命に近いとされる。


 ――要因は、魔獣の血肉によるアンチエイジング効果。


 覚醒都市の住民も例外ではなく、ほぼ全員が恩恵を受ける。


 一部の宗教じみたコミュニティー以外は適用される都市の特色。


 大半の人間はデメリットを知らず、盲目的に摂取し、若々しさを保つ。


 とはいえそれは、『肉体』の問題。本題となっている『魂』とは関係がない。

 

(どう答えるべきか……)


 腰に手を当て、足の踵を揃えた体勢で、セルゲイは思考を回す。


 元帥と直接話すのは指折り数える程度しかなく、質問の意図は不明。


 冗談か、本気か、何か別の思惑があるのか。まるで見当がつかなかった。


 ただ、立場上、このまま黙っているわけもいかず、早急に答える必要があった。


「仮に事実だとしても、任務に支障が生じない事案。脅威とは思いませんな」


 あくまで一人の軍人として、セルゲイは回答する。


 個人の見解は別にあるものの、元帥とは友人関係ではない。


 肩書きに準じたオフィシャルな会話になるのが、自然の流れだった。


「私情を挟まない軍人としては正しい。……ただ、個人としてはどうかね?」


 一部を認められながらも、求められるのは私的な意見。

 

 気兼ねなく言ってもいいのかと悩むものの、上官の問いだ。


 素直に答えるのが、軍人としても個人としてもベストであろう。


「率直に申しますと、手心を加えたくなるやもしれません。任務で倒すべき敵であろうとも、自分と近しい何かを感じれば、なおさらでしょうな。軍事経験を積んだ我々でも、危うい。民間人ともなれば、余計に影響が出ると思われます」


 己の主観でありながら、客観的に意見を告げる。


 個人の感想だけで終われば、なんの議論にもならない。


 今後の作戦に関わるなら、分析を付け加えるのが必須だろう。


 あえて個人で尋ねたのは、普遍的な人の心情を把握するためのはず。


「人は見た目が9割。魂が同じでも生育環境や身体的問題で似て非なる者に変わる。その場合、どうやって見分けがつく。軍事経験のない民間人が、襲い来る敵に手心を加えたいと思うに足る決定的な要因はなんだと思うかね?」


 元帥は掘り下げる。意見を踏まえ、徹底的に深掘りする。


 建設的な議論であり、物事の本質に迫るような話題と言える。


 相手は軍のトップ。発言の一部を認められ、自尊心が満たされる。


 ただそれと同時に、世の禁忌に触れるような末恐ろしさを感じていた。


 ――だとしても。


「直感。自分と同じ魂ともなれば、言葉を介せずとも自ずと伝わる。論理的な思考とはかけ離れた感覚的なもの。意思の力の有無に左右されず、人間に元来備わる対人判断能力。『好き』『嫌い』という肌感覚的な情報から人を判別する。もし、無意識的に『好き』と該当する人間が、自分と同じ魂だと仮定すれば……」


 セルゲイは相手が上司であることを忘れ、熱く語る。


「手心を加える。もし、その『好き』を意図して操れる者がいれば?」


 仮定に仮定を重ね、元帥が議題に上げるのは、最悪の想定。


 その能力者がすでにいることを疑わないような態度を示している。


「無敵、でしょうな。敵対勢力の心身を掌握し、無血開城も容易い」


 ふと我に返り、能力者が潜り込んだ前提で状況を分析する。


 全人類にとって良き隣人となり、戦う以前の問題。止める術はない。


「よろしい。その前提を踏まえた上で、訊き方を変えよう。大尉が覚醒都市に招いたのは、大して知りもしない初対面の侵入者。その中に、外見や経緯を無視して、無意識的に『好き』と錯覚してしまった人間はおったかね?」


 元帥が切り出したのは、間違いなく本題と言い切れる話題。


 話の流れに一貫性があり、ここに呼んだ理由にも紐づいている。


 事実を理解し、頭の中で情報を咀嚼するほどに、冷や汗が溢れ出す。


 それでも、心中に浮かぶ人物がいた。元帥の仮説に合う、侵入者の一人。


「それは――――」


 答えを口にしようとした時、執務室には暗闇が訪れた。

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