第64話 偶然の再開
眼下に広がる砂漠地帯には、懐かしい面々が揃ってる。
姉のソフィア。相棒のダヴィデ。そして、師匠のアンドレア。
揃いも揃ってやっていることは昔と同じ。まるで進歩がなかった。
「――変わってないな。あの日から何も」
黒羽根で滞空するジュリアは閉ざした口を開く。
その一声で戦闘は止まった。手を休め、こちらを見た。
誰よりも強い熱量で、誰よりも早く反応したのは蒼い髪の男。
「ジュリア・ヴァレンタイン……」
ダヴィデは一目で事態を認識し、声を発する。
すぐに存在は知れ渡り、他の関係者も気付き始めた。
「え……ジュリ、たそ……?」
「誰かと思えば、裏切者か。どの面下げて来た」
ソフィアとアンドレアは、異なる反応を見せている。
姉は相変わらずとして、師匠の認識には少し違和感があった。
(――何か変。合意があったはずなんだけどな……)
過去と現在の齟齬。起きた結果との辻褄が合わない。
何かあったのは間違いないけど、候補が多すぎて絞れない。
操作されているか、記憶を一部消されたか、誰かが憑依してるか。
考え出したら切りがなく、高度な感覚系能力者でもないと知る術はない。
「どうどう。馬が合う仲なのは分かったが、この中に白教の方はいるかな?」
色々と考えていると、クオリアは本題を切り出した。
ここに来た目的は、『首都で起きた意思衝突の原因究明』。
内容によっては、悪魔と白教の協定に差し障るシビアな問題。
その鍵を握るのは、意思衝突に信徒が絡んでいるかどうかだった。
(――パッと見だといなそうだけど……)
センスで目を凝らし、登場人物を改めて確認する。
四人中三人は身内で、知らない人は金髪のゴスロリ少女。
黒を基調とした服で、ドレスコードから考えれば白教じゃない。
そこまで考えていたところで、見落としていた人の影を視界に捉えた。
「はいはーい! こう見えても私、白教関係者でーす!」
問いに答えたのは、どう見ても白教の修道女の恰好をした人。
茶髪のボブヘアに、黒縁眼鏡をかけた地味そうな見た目をしている。
その隣には、こちらを睨みつけている黒服を着た青髪の女性が立っていた。
「なるほど。仮に事実だとすれば、由々しき事態だね」
クオリアは鵜呑みにしないものの、問題を重く捉えている。
事実はどうであれ、白教関係者がこの場に居合わせたのがまずい。
緊張状態が続いている悪魔側に伝われば、暴動が起きる可能性もあった。
――誤解だとしても、証明のしようがない。
現場の映像は残ってないだろうし、目撃したわけでもない。
この場にいる人しか証言できず、事実で判断する必要があった。
言い逃れるならまだしも、自供したのが状況をややこしくしている。
「疑わしきは罰せず、断定するのは尚早。真実こそが正義、急ぐほどに絶望」
端的な韻を踏み、話を転がすのはビリー。
最悪の展開を避けようとしている意思を感じる。
「だったら、身体に聞けば早ぇだろ。拷問は禁じられてねぇからな!!」
その正反対の行動に走るのは刃影。
羽根を畳んで、急降下を開始している。
向かった先は当然、白教と思わしき修道女。
危害を加えれば、協定は破談する可能性がある。
その問題に、戦うだけの単細胞だから気付いてない。
(――男ってほんと馬鹿ばっか。少し考えたら分かるのに)
最悪を阻止するために、急降下を開始する。
指示を仰ぐ暇もなく、完全な独断で行動していた。
見る見ると距離は縮まり、修道女の元へ舞い降りていく。
言葉で説明しても駄目なら、実力で分からせるのが一番だった。
「ちぃとばかし痛むが、殺しはしねぇ。覚悟しろ、女ぁ!!!」
先に射程圏内に到達する刃影は、右手の拳を振りかぶる。
腰の刀を使わないところから見ても、殺す気がないのは分かる。
――だけど。
「…………」
語らうこともないまま、ジュリアは修道女の間に割って入る。
ただの拳撃に能力を使うわけもなく、体術で応じる構えを取った。
すかさず眦を決し、右肘を下げ、右膝を上げ、拳を挟み込もうとする。
「「おいたが過ぎるよ、君たち。いつから僕より偉くなったのかな」」
直後、耳朶を揺らしたのは、直属の上司にあたるクオリアの声。
音が二重に聞こえてきて、目の前と背後に強い気配が発生していた。
それと同時に首筋には鋭い痛みが走り、視界がチカチカと明滅していく。
「このパワハラ上司が……」
「――なんで、私まで……」
喧嘩両成敗。クオリアの分身体による華麗な不意打ち。
その事実を理解した上で、刃影と共に意識は途絶えていった。
「「部下が失礼した。ここからは僕たちが聴取させてもらうけど、文句はないね?」」
残る二匹のクオリアは、紳士な態度で被疑者に告げる。
平等に公平に徹底的に、一つの真実だけを追い求めていた。




