第58話 正規ルート
覚醒都市バイカルヴェイ南部。居住区。
巨大生物の気管支と都市が繋がる入口部分。
見えるのは、地上と同水準の大量のビルと電線。
そこに足を踏み入れたのは、関係者の軍人と侵入者。
相容れないはずの両者には、ある共通点が存在していた。
「ここね、ジーナがいると思わしき場所は」
リーチェは未知の都市に気後れすることなく、声を発する。
目的は、『ジーナ・ロマノフ』という白軍の一般兵を捜すこと。
感覚系の意思能力者で、証拠品さえあれば『犯人』が分かるらしい。
――今の目的に直結する能力。
複雑な過程を数段飛ばしで省略して、復讐相手に辿り着く。
故郷を滅ぼした白銀の鎧を纏う人物を割り出すことが可能になる。
「9割方はここでしょうな。あくまで赤軍残党の捕虜という形でしょうが」
応対するのは、白い軍服を着た巨漢の男セルゲイ。
大尉という役職で、部隊のリーダーを務めているらしい。
覚醒都市は防衛の対象。庭のようなもので地理には詳しいはず。
捕虜にされていると思わしきジーナの捜索にうってつけの人材だった。
「リーチェ様、そろそろ案内しないと能力が……」
両肩を抱いたエミリアは、寒気を感じるように語る。
移動系の意思能力。『地の案内人』による限界が近い合図。
観光案内することで能力が維持されるけど、ここまで案内無し。
――原因は知識不足。
ここは、巨大生物の体内という未知の環境下にある。
ネットで調べようが、AIに検索をかけようが詳細は不明。
無理に紹介すれば破綻する恐れもあり、ここまで沈黙させた。
そろそろ手を打たないと、ジーナを回収できずに強制送還される。
「捜索がてら観光案内をさせたらどうだ……?」
そこで提案してきたのは、ベクターだった。
ジーナの確保と、能力維持の一石二鳥の案と言える。
「断る理由はなさそうね。早速だけど、案内してもらえる?」
リーチェが視線を向けるのは、部隊の責任者であるセルゲイ。
ここに入ることを許可してくれた人物であり、案内も自然の流れ。
敵が潜伏する可能性を踏まえるなら、同行してくれた方が心強かった。
「せっかくの申し出ですが、私は本部へ戻り、報告する義務がありましてな。丁重にお断りさせていただきます。……代わりと言ってはなんですが、自慢の部下を同行させようと思いますが、構いませぬか?」
セルゲイは一貫して敬語を貫き、紳士的な態度で応じる。
アフターフォローも万全で、特に突っぱねる理由はなかった。
「もちろん構わないわ。むしろ、ここまで案内してくれてありがとう」
誠意には誠意で応じる。ここまで戦闘もなく来れたのは彼のおかげ。
滅多に礼を言うことはなかったけど、感謝を伝えるべき相手だと言えた。
セルゲイは「では、いずれまた……」と短く別れの言葉を添え、去っていく。
――残ったのは、三人の部下。
「ってなわけで、ここからはターニャ中尉様が都市をご案なーい!」
自分のことを様付けするのは、ターニャと呼ばれた白髪の少女。
背中には黒い熊のぬいぐるみを背負い、禍々しい意思の力を感じた。
恐らく邪遺物であり、発狂していない時点で、かなりの実力者と言える。
――中尉という階級に引けを取ってない。
セルゲイ大尉の次点に位置しているだけはあった。
隣にいるオレグ少尉とやらの盾も相当だけど、比にならない。
――ただ、一番ヤバイのは。
「軍の階級は実力者順じゃないのね。仕切るなら、その子じゃないの?」
リーチェが視線を向けたのは、アレクセイと呼ばれる一般兵。
長い銀髪に、ひょろっとした体型で、一見、強そうには見えない。
ただ、漂うセンスが物語る。隠しても隠し切れない強者特有の揺らぎ。
――たぶん、セルゲイよりも強い。
能力までは分からないけど、ポテンシャルが桁違い。
一般兵という分不相応な役職が、不気味さを際立てていた。
「はぁ? ないないないない。こいつだけは、ぜーったいない!!」
眉をひそめ、手を横に何度も振るうのはターニャ。
それだけで関係性が見えた。相当、舐めているらしい。
知らぬが仏という言葉があるけれど、今がそうでしょうね。
アレクセイが無知を装って築いた関係性を崩せば、罰が当たる。
「冗談よ。ここからの案内はよろしくね。ターニャ中尉様」
リーチェは空気を読んで、話を進める。
「なーんだ、ジョークか。ハラショー、ハラショー。じゃあ、気を取り直して観光案内行ってみよう!」
すっかり機嫌を取り直したターニャは、与えられた役割をこなした。




