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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第57話 準備

挿絵(By みてみん)




 覚醒都市バイカルヴェイ東部。アザミが訪れたのは、臓物庫。


 数々の魔獣の肉や臓物がフックに吊るされ、冷凍保存されている。

 

 憲兵装備だと肌寒く、衛生面に問題があるため、衣装は着替えていた。


 毛皮の帽子、厚手のコート、革製の手袋、フェルト製のブーツを装着する。


「……」


 アザミは白い息を吐き、手広い空間を見渡していた。


 やや古めかしさはあったものの、冷凍設備としては完璧。


 詳しい原理や仕組みは不明だけど、必要な機能は揃っていた。


 これなら腐敗と細菌の増殖を抑えて、長期的な保存が可能になる。


「思ったよりも本格的ね。動力は電気だとして、中身は――」


「知らん方が身のためだ。ここに来たのは見学のためじゃないんだろ?」


 バグジーは疑問を口にするものの、ジーナがそれを遮る。


 ここに来たのはこれで全員。グループは二つに分かれていた。


 全ては脱獄計画のため。立案も準備も実行もアザミが取り仕切る。


 都市の情報を元に一人で考え、全員を巻き込んだ。失敗は許されない。


 ジーナの言うように、ここは準備を淡々と進めるのが最善のように思える。


 ――ただ、目的は脱出計画だけじゃなかった。


「く、詳しく聞かせてもらえますか。今後の参考になるかもしれません」


 アザミは勇気を振り絞って、ほんの少しだけ視野を広げる。

 

 ベズドナを超える。そのためには、あらゆる想定が必要不可欠だった。

 

 ◇◇◇


 覚醒都市バイカルヴェイ西部。宿営地。


 テントが多数あり、兵士や憲兵が寝泊まりする。


 喉中に設置されていた野営地と似たような構造じゃった。


「急患だ。手当てを頼む。見回り中に倒れて、高熱でうなされている」


 声を低くして、広島はジェノを下ろし、軍医がいるテントへ訪れた。


 服装は憲兵の恰好のままで、ここまではすんなりと潜入することができた。


「ふむ。どれどれ……」


 対応するのは、大きめの鼻に、太い眉と髭が特徴の軍医。


 髪は銀色の輝きを放ち、後ろ髪は男性の割には長めに伸びる。


 お腹が出ていて、平均よりも肥えているものの見た目は若かった。


 白の軍服に身を包み、左腕には十字が描かれた腕章が装着されている。


「こりゃあいかん。すぐにでも精密検査を――」


 ジェノの額に手を当てる軍医は、顔を青冷めながら語る。


 素性を隠しために一役買ったヘルメットを脱がそうとしている。

 

「待ちんさい。一時的でええから、熱を下げる薬はあるか?」


 広島は軍医の腕を掴んで、脅迫するように言った。


 身分を隠し通す気はなく、侵入者とバレても良かった。


 アザミが用意した遅効性の毒。後でジワジワと効いてくる。


 ジェノの件はオマケ。薬があれば儲け物ぐらいの感覚じゃった。


「訳アリか。……お前さんたち、よそもんじゃな?」


 広島弁と似た方言を扱う軍医は、すぐに正体を察する。


 焦っている様子はなく、淡々と事実を受け入れようとしていた。


「通報するか? 別にいざござになっても、うちは構わんよ?」


 半ば認めるような形で広島は接する。


 センスこそ纏わないものの、拳を握り込む。


 いつでも戦える形を作って、脅迫の姿勢を貫いた。


「いーや。面倒事を起こさんなら、通報はせんよ。それより、こいつをもってけ」


 軍医は適当にあしらうように語り、小さな容器から錠剤を取り出す。


「……ハメる気は、ないじゃろうな」


 警戒しながらも、広島は白い錠剤を受け取った。


 効能は不明。毒入りの可能性も十分考えられる展開。


「アスピリン。発熱を緩和するための薬じゃ。飲ませれば、一時的じゃが動ける程度まで回復するやもしれんぞ。根本的な解決にはなっておらんがの。……あぁ、それと魔獣の成分は入っておらんから安心せい。信じるかどうかはそちら次第じゃが」


 こちらの疑問を汲み取り、軍医は懇切丁寧に説明した。


 真偽は不明じゃったけど、嘘をついているような気配はない。


 薬品の知識はないが、恐らく、外から持ち込んだ分の残りじゃろう。


「なぜ、よそもんと分かって手を貸すんじゃ」


 質疑応答しても裏が取れるわけもなく、代わりに広島は理由を探った。


 内容に整合性があれば、信じる。そっちの方が効率がいいように感じていた。


「医者の本意は、敵味方関係なく人を助けることじゃ。困っていた人がいれば手を差し伸べるまでよ。相手が敵だと分かったとしても同じこと。そこから先のことは、ワシの専門分野外なんでな。何事にも棲み分けが大事なんじゃ」


 つらつらと語られるのは、ある種の正論じゃった。


 医者に長年徹したからこその見解。芯を食った内容に思える。


「……ひとまず、信じちゃるわ。感謝は効果が出た後にさせてもらうけぇな」


 広島は軍医の善意と受け取り、錠剤を懐にしまう。


 計画とは少し違う方に進んどるが、悪い気はせんかった。

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