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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第53話 県境

挿絵(By みてみん)




 赤い三日月に照らされるのは、三匹の特定外来種。


 鬼と悪魔。似て非なる存在が深夜の滋賀を駆けていた。


 琵琶湖沿いにある道路を突っ走り、東へと突き進んでいる。


 ――目的は『夜助の救出』。


 共鳴草の効能によって可能となった、片割れの追跡。


 草本体ではなく、所有者本人をマーキングしているらしい。

 

 そのため、道中で捨てられたとしても追跡可能という代物だった。


 ――ただし、制限時間は30分。


 それまでに探し当てられなければ、行方不明となる。


 使用から5分ほど経過しており、今は岐阜県を目指していた。


「桃子さん、今の内にどうぞこちらを」


 並走しているナナコは、紅白の巫女服から輸血パックを取り出した。


 鬼の主食は『血液』。戦闘を考慮して、腹ごしらえをしておくつもりらしい。


「さんきゅー、ってこれ……RHnull型。血液中にある抗原が唯一存在しない、稀血。世界に六人しかドナーがいないと言われる、別名『黄金の血』じゃん! いいの? こんな激レアの上物を、あーしが飲んじゃって」


 桃子は桃色の瞳を輝かせながら、血の希少性を解説している。


 過不足のない説明に思えたが、肝心の効能部分が欠けておる模様。


 ただ、入手難度や鬼の特性を考えれば、強化されるのは確実であろう。


「もちろんです。今は私の命より、桃子さんの命の方が重い。鬼の将来を考えれば、他に適任者はいません。それに――」


「もうすぐ、特定外来種の治外法権だった近畿地方を抜ける。そうすれば、憲法9条により、103部隊や滅葬志士の攻撃を受ける可能性が高いのであったな。諸々の事情を考慮しても、今、補給しておくのがベストだと思われるぞい」


 ナナコの発言にかぶせるようにして、リアは補足する。


 異国の文化は疎かったが、大日本帝国の憲法9条は有名だった。


 『特定外来種に対する武力の行使を認め、一切の権利主張を認めない』。


 ――対象は鬼、悪魔、特異体など多岐に渡る。


 人類から逸脱し、脅威と判定された化け物が分類される。


 本来であれば、大日本帝国の地を踏んだ時点で駆除対象となる。


 ここまで好きに動けたのは災害の件もあるが、二人の先駆者のおかげ。


 ――絶命した伝説のVtuber『鬼龍院みやび』。


 その中身は鬼であり、775プロの元社長ナナコ。


 生涯最後に行われた音楽ライブは、大阪で行われた。


 それを機に引退となったが、民衆の心に強く焼き付いた。


 これがきっかけで鬼という存在が広く認知されて、公になる。


 後に彼女の故郷である近畿地方が特定外来種の特区と定められた。


 ――政策を進めたのは、Vtuber兼総理大臣の『伊勢神宮』。


 憲法9条改正こそ叶わないものの、みやびの思想を受け継いだ。


 配信やライブの実績が後押しとなって、現地民の反発は少なかった。


 ここまでが現地入りの際に調べた内容であり、表向きの最新情報となる。


 ――ただ、実情は不明。


 あくまで伝聞であり、生の情報を見たわけではない。


 鬼全員を匿えるのか、実際の現地民の反応はどうなのか。


 食事に必要な『血』をどうするか。悪い鬼を取り締まれるか。


 悪魔と手を組んだところを見ても、まだまだ処理し切れていない。


 少なくとも、鬼が住まう場所に関しては問題ありのように感じていた。


「じゃあ、遠慮なく……いただきますっと」


 などと情報を整理していると、桃子は輸血パックから血液を摂取。


 ごくごくと音を立てて、『黄金の血』なるものを体内に取り込んでいく。


「……っっ!!!」


 すると、桃子の全身から溢れ出すのは、桃色のセンス。


 湯水のように湧き出し続け、彼女自身も制御できないほど。


「それが『黄金の血』の効能――」


「飲んだ鬼の潜在能力を限界まで引き出す、か」


 ナナコは詳細を口にしようとするが、一目見て分かる効能を指摘。


 ありきたりと言えばありきたりだが、強力無比な代物なのは間違いない。


「うっひゃーっ!! 力が湧き出てくるよ!!! 最長老様に潜在能力を引き出されたクリリンってこんな気持ちだったんだ……」


 やや遅れて、桃子は飛び跳ねながら、血の効能を実感する。


 見る見ると速度が上がり、追従するのも一苦労なほどの敏捷性。


 能力面は不明だったが、身体面での強化は目を見張るものがあった。

 

 気付けば、県境。滋賀県から岐阜県へと移行する道路まで走行していた。


「……喜んでいるところ恐縮ですが、早速、出番のようです」


 目を向けた先には、一人の剣豪が立っていた。


 服装は藍色を基調とした袴に、青の羽織を重ね着る。


 腰には長寸の刀が見え、長い黒の後ろ髪は赤紐で結われる。


 瞳は鋭く、堂々とした物腰で、県境の通過を待ち侘びていた様子。


「我は佐々木小十郎。呉鎮守府第103特別陸戦隊、二番隊隊長。中部地方の管轄を任された者だ。そちらは特定外来種と見えるが、差し支えないか?」

 

 丁寧に名乗りを上げて、対話する素振りを見せている。


 問答無用で襲い掛かる、という無礼は働かない誠実さが伺えた。


「はい。私を含めた三名は特定外来種です。ただ、やんごとなき事情がありまして、ここは通していただきたい。説明する時間も惜しいほど急用なのです。出来ればで構いませんが、何も言わずに見逃してもらえませんか?」


 一方でナナコも懇切丁寧に事情を説明していった。


 必要最小限の情報で、最大効率を求めた内容になっている。


 当然、相手次第ではあったが、そこまで悪くはない切り口に思えた。


「事情は理解したが、面目上、ただで通すわけにはいかんな」


 しかし、仕方ないと言うべきか、雲行きは怪しい。


 国防に携わる組織人とすれば、納得の回答ではあった。


 ただ、ある程度の理解はあり、条件付きで通れそうな気配。


「何がお望みでしょうか? ぜひ条件をお聞かせください」


「一対一の真剣勝負を申し出る。勝てば、通ってよし。負ければ、通さぬ」


 ナナコの問いに提示された条件は、意義のある戦い。


 互いの主義主張を戦いの勝敗によって成否を決めるもの。


 問答無用の死闘ではなく、ルールに沿った上での決闘だった。

 

「致し方ありませんね。乗らせていただきます。戦闘は――」


「あーしがやるよ。ちょうど、この溢れ出る力を試したかったからね」


 ナナコは話を進め、矢面に立ったのは桃子だった。


 『黄金の血』により潜在能力の解放。その腕を見せる機会。


 彼女自身が言い出した以上、止める者はおらず、一歩前に進んだ。


「その意気や結構。……だが、我が刀を前に、簡単に押し通れると思うな!」


 小十郎は鞘走り、長い刀身を露わにして、威勢よく言い放つ。


 こうして、一対一の真剣勝負。進退を決めるシンプルな戦いが始まった。

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