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トリニティポータル  作者: 木山碧人
第八章 世界の終末

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第52話 月の裏

挿絵(By みてみん)




 トルクメニスタン。首都アシガバート。白教大聖堂。


 最奥の白い椅子に腰かけながら、頭を抱える少女がいた。


「あぁ……。めんどくさぁ……。なーんでそこまでやるかなぁ」


 教皇エリーゼは、自分で蒔いた種と理解しながら悶えていた。


 悩みの種は言うまでもなく、郊外で起きた規格外のセンスの衝突。


 白教と悪魔の政治的な緊張を高める事象だと、すぐさま理解していた。


「立場上、顔は出せないし、枢機卿は交渉中で、大司教は出払ってる……」


 派遣する人材を考えるものの、パッと思いつかない。


 懐から携帯を取り出して、名簿と連携したアプリを開く。


 『首都住み』『なるはやで動ける配下』と入力し、AIが検索。


 この際、強さはいらない。都合のいい信徒が一人いればよかった。


「あー、この子かぁ。この子なぁ。悪くはないんだけど……」


 アプリ上に表示されたのは、数件の連絡先だった。


 真っ先に目に入ってきたのは、一番上に表示される名前。


「まぁ、いいや。今は考えるよりも、早めに手を打つのが最優先っと」


 それ以上は深く考えることなく、エリーゼは通話ボタンを押した。 


 ◇◇◇


 修道院の寝室のベッドで寝静まっていた時のこと。


 非常識な時間にかかってきたのは、心地のいい着信音。


 『イブさん。電話が来てる、です』という推しの声が響いた。


「誰ですかぁ、こんなド深夜に……」


 嫌な気持ちが良い気持ちで相殺されながら、起き上がる。


 枕元にあるランプスタンドの電源を入れ、一部分に光が灯る。


 淡く照らされるのは、丸いサイドテーブルと携帯と黒縁の丸眼鏡。


 ぼやけた視界の中、手探りで眼鏡を回収し、両目にかけ、相手を確認。


「って、ええっ!! きょ、きょきょきょ、教皇!!!?」


 そこに表示された人物に、思わず素っ頓狂な声が出る。


 あまりの声のデカさに、消灯していた修道院の明かりが点灯。

 

 ドタドタと心臓が縮こまるような怖い足音が聞こえ、扉が開かれる。


 ルールに厳格な修道院長のご登場。皺だらけの顔で眉をひそめて言い放つ。


「またですか、やかまし娘のイブ・グノーシス! 罰として朝食は抜きですよ!」


 そうそれが私。白教の最底辺を支える、しがない修道女だった。


 ◇◇◇


 修道院長にどやされながら、電話に出て、事情を確認。


 手のひらを返すように外出許可が下りて、身支度を進める。


 白の修道服を着て、茶色のボブヘアを整え、黒のブーツを履く。


「なんで私なんだろう。もっと適任がいそうだけど」


 靴ひもを強く結んで、明るい寝室で独り言をこぼす。


 考えるのは、あれやこれや。役に立てるかどうかの不安。


 与えられた任務は偵察だけど、戦闘になれば一気に足手纏い。


 もしかしたら、切り捨てられる前提かもって、嫌な妄想が膨らむ。


「ま、なるようにしかならないか。あわよくば、昇進の大チャンス!」


 持ち前の能天気さで、陰鬱な思考をリセット。


 拳をぎゅっと握り込んで、ベットから立ち上がった。


「――動くな。声を出すな。分かったら、黙って頷け」


 出鼻をくじくように、背後からヒヤリとする声がかけられる。


 首元にはかぎ爪のようなものがあてられ、喉が掻っ切られる寸前。


「…………」


 血の気が引くのを感じながら、黙って二度頷いた。


 横目には、風に靡くカーテンが嫌でも目に入ってくる。


 ここは三階だけど、窓から華麗に侵入されたみたいだった。


 声音からして、女性ということは分かるけど、それ以上は不明。


 多分知り合いじゃないとは思うけど、今は黙って従うしかなかった。


「……ってのは冗談さ。ご無沙汰だね、強虫イブ」


 すると、首元にあてられた爪は下ろされ、懐かしいワードを聞く。


 これまでの人生を考えた中で、その言葉を知っているのはたった一人。


「お、お師匠様……?」


 振り返ると立っていたのは、短い青髪の見知らぬ女性。


 白教とは相反するドレスコードで、黒のスーツに袖を通す。


 それでも分かる。魂で感じ取れる。紛れもなく、この人こそは。


「月は満ちた。アンタには、教皇落としに一枚買ってもらうからね」


 元教皇代理イザベラ・レナトス。止まっていた歯車がようやく動き出した。

 

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