第49話 二対二
首都アシガバート郊外。深夜の砂漠地帯上空。
槍と槍を繋ぐ白い鎖に引き寄せられ、急速に接近。
ソフィアと名乗っていた女性の姿が見えて参りました。
攻防力が手薄な箇所を蹴られ、本来なら気絶しているはず。
ですが、槍を制御するのは彼女。鎖が動くのは意識がある証左。
口端からは血をこぼし、目を閉じておりましたが、戦意がある様子。
(刹光はブラフ。フェイントを読み、右脇腹にセンスを集中、ですわね)
わたくしは一目見て、意識が残る理由を瞬時に悟りました。
並みの使い手なら、思いつけても攻防力の移動で失敗しますわ。
頭と体のイメージが一致せず、自爆するのが関の山だったでしょう。
彼女も例外ではなく、センスは発展途上で失敗する可能性の方がお高い。
――しかし、天性の才能が想定を凌駕した。
センス量は中の下ですから、恐らく、先天的なもの。
恵まれた肉体と反射神経を、上手くセンスに馴染ませた。
寸前まで刹光を出すと思い込ませたのも、ポイントがお高い。
フェイントを読めたなら、最初から右脇腹に刹光を張るのも一興。
成功したなら、ダメージ激減どころか、こちらの足が痛んだでしょう。
――ただ、そうした場合、踵を落としておりました。
刹光が発動すると見込んだからこそ、寸前で軌道を変えた。
信じ込ませるためには、本気の姿勢を見せる必要がありました。
ですから、頭部を捨て、右脇腹に刹光を張るのは論外と言えますわ。
それに、刹光が成功したとて、激しい閃光が見え、生存が先バレします。
――だからこそ、刹光ではない集中防御が最善。
生存を気取られることなく、意識を保てる瀬戸際のライン。
峠の限界を攻めたからこそ訪れた、攻守逆転の好機と言えます。
「読めていますわよは読めていますわよ!!!!」
ソフィアは目を見開き、心地いい台詞と共に突き立てたのは青槍。
センスの未熟さを補って余りある、才と若さと青々しさが詰まった一撃。
「……賞賛に、値しますわね」
冷たい槍先が顔を貫かんと迫る中、心から感じるのは温かい感情。
善意や悪意という二極化したものではなくて、もっと純粋なお気持ち。
――敬意。
相手を尊重し、思い遣る意識が生むもの。
一人の人間が歩んできた成長と進化への共感。
完成されていないものであるがゆえに、愛おしい。
「…………っっ」
視界に飛び込んできたのは、ソフィアの狼狽える表情でした。
劣勢を覆したはずなのに、余裕のなさがヒシヒシと伝わってきます。
「白鴉をご覧になるのは、初めて?」
披露したのは、先ほどとは異なる姿でした。
赤い瞳に、鋭い嘴に、白い体毛に、一対の羽根。
黒いゴスロリ服に袖を通し、サイズは等身大の少女。
――魔獣化。
その力を遺憾なく発揮し、槍先を止めたのは鋭利な右足の爪。
四本ある内の三本の指を集わせ、槍に見立てて、衝突させました。
相殺の代償として、お気に入りの靴が破損しましたが仕方ありません。
――姿を見せるに値する相手。
敬意を評するための、最も誠実な行動表現とも言えるでしょう。
取るに足らない人物なら、これをお見せすることはありませんから。
「だから、どうしたってぇの――っ!!!」
怯みを見せたのも柄の間、ソフィアは鎖で引き寄せた赤槍を回収。
続けて秋の沙雨の如き刺突を繰り返し、勇猛果敢に攻めておりました。
「雑、ですわね。攻撃というものはもっと、丁寧に、優雅に、的確に!!!」
指南を下しながら、手本のようにお見舞いしたのは両足の爪。
槍に見立て、同じ土俵、同じセンス量で合わせて差し上げました。
浮き彫りになるのは体術の違い。小手先ではどうにもならない実力差。
「「――――」」
重力に引かれる空中で、幾重にも繰り返されるのは攻防。
駆け引きと衝突を繰り返し、地面が迫ってくるのが見えます。
今までの癖を見る限り、着地と同時に本腰を入れてくるでしょう。
能力は未開発のようですから、今出せる最大をぶつけると思われます。
「「…………」」
槍を振り払い、爪で弾くようにいなし、距離が遠のきます。
するとソフィアは、センスを絶ち、呼吸を整えておりました。
裸同然であり、稚拙なセンスを飛ばせば、決定打になり得ます。
予想通りの展開と言うべきか、向こう見ずなやり方と諭すべきか。
――答えは沈黙。
真剣勝負の場で無用な言葉は極力慎むべきでしょう。
語るべきは、拳であり体術でありセンスであり振る舞い。
卑怯な手を使うにせよ、勝負に乗るにせよ、茶化すのは違う。
相手が本気ならば、それ相応の礼儀をもって応えねばなりません。
(あぁ、貴方が殿方であれば、理想の子を産めたでしょうに……)
諸々の事情を鑑みた上で、うっとりとした目線を向けました。
雄々しくて、死を恐れず、格上に対しても気後れすることがない。
発展途上の身体面はともかく、精神面は100点に近い存在と言えます。
――気付けば、着地は間近。
わたくしはセンスを絶ち、相手の土俵に立ちました。
無防備な状態を晒し、正々堂々と決着をつけるための姿勢。
「「――――」」
着地と同時に、わたくしたちは駆け出しました。
搦め手を扱うことなく、敵と真正面から向き合う形。
ここで試されるのは、膂力とセンスを込めるタイミング。
距離は縮まり、ソフィアは赤槍、わたくしは右足を構えます。
――そして。
「「「「――――刹光!!!」」」」
奏でられたのは、二重奏でも三重奏でもない――四重奏。
各々の色を激しく迸らせ、砂漠地帯に彩りが与えられていきました。




